
■ みんないつも強くなれるわけじゃない
――ここからアルバムの話に進んでいこうと思います。遠慮がなくなったのが大きな変化ということだったんですけど、テーマや課題として意識していたものはありました?
fuki 「いろんな要素を入れたい!」みたいな意識はあった気がします。シューゲイズも好きですけど、EPはそれを意識して作ったわけでもなかったので。そこがきっかけでファンになってくれた人もいるから、その人たちに好きになってもらった音楽性は残しつつ、アルバムでは他にも引き出しがあることを見せたくて。そこは多分みんなムキになってたかもしれないです。
オオマエ あとは、「fukiちゃんのヴォーカルを前面に出す」っていうのは、メンバー全員で一致してたところだったと思います。EPはヴォーカル小さめでミックスしてもらってたり、リヴァーブもすごい深めだったんですけど、アルバムは楽器隊もヴォーカルを生かすフレーズを考えて、音作りもボーカルが前面に出るように、っていうのを3人でずっと話してました。
――まさに、fukiさんの声を全面に出すという言葉通りの作品ですよね。どの曲も本当に最高なんですが、お2人にとって個人的に一番、自信があって、聴いてくれ!って感じてた曲ってどれでしたか?
fuki 「ルート225」が好きっていう声が多いと思うんですけど、「時化空」もリュウセイくんの渾身の曲だし、どの曲も本当にいいし――でも私は、リュウセイくんがデモを作った曲の中では「ていくいっといーじー」かな。本当に大好きです。自分が入れたメロディも最高。この2人の最高のコラボ、って言っても過言ではないと思います。できたときは1人で家でテンション上がってましたね。「もう、最高ー!」って。
――リリースしたときも結構「どや!」って自信満々な感じで。
fuki そうそう、でも「あ、意外に? あっ、そっかそっか……」っていう。
――反響はイメージとは違ったと。
fuki 「すいません……!」みたいな感じになっちゃいました。「ていくいっといーじー」は、ヴォーカルとしての自分の個性を出せた曲で。
――マジで最高だと思いました。僕はあの曲を聴きながら、「声は張れば張るほど良い!」って気持ちになりましたね。
fuki 汚い声とか出したいので……綺麗な声の人たちも好きなんですけど――私は声質が全然綺麗じゃないし、かわいくないので。でも……それで逃げ道ないってなったら、かわいそうだなって自分に対して思ったんですよね。あと、リュウセイくんがデモを渡してくれたときに「fukiちゃんこの歌好きだと思うよ!」って言ってくれて――「めっちゃ好きだ!」ってなったのを覚えてますね。
――自信がある曲としての「ていくいっといーじー」に対して、自分にとって大切な曲を選ぶとしたらどうですかね?
fuki 「unnamed planet」ですかね。
――〈ハレー彗星 姿が見えなくなった〉の曲ですね。
fuki 自分が一番好きな歌詞だと思います。
――どんなことを考えながら作った曲でしたか?
fuki 昔作った曲で、今だったら言わないことも言ってる曲ではあるんですよね。今の自分だったら、誰かが自分から離れていくときも「バイバイ」って言えるけど、このときはできなかった。「行かないでほしいな……」って、依存的というか――自分に自信がなかったときに作ったので。でも、離れるときは離れていってしまう。諦め? 悲しい諦め? そういうのを表現した曲だと思ってます。……基本的に今の自分が好きじゃないので。この頃の自分ってすごいナルシストだけど「かわいらしいな」って思います。“強くない女性” だったんだなって。聴いてると懐かしくなるので、今も聴いちゃいますね。
――基本的に今の自分が好きじゃないけど、距離を隔てた状態で当時の自分を見ると、割と愛せる?
fuki はい。愛せますね。こういう人はいっぱいいるんじゃないかな、って思うし。腑に落ちないけど相手に対して言えなかったりとか、でも「自分の中で落とし込んで前向くしかないよね?」ってこと、あると思うんですよ。今は、自分は強くなったし「さようなら」ってできると思ってるけど、たまに弱くもなるし、みんないつも強くなれるわけじゃないと思うし、当時の私はやっぱりできなかったです。
――「ていくいっといーじー」とは一つ違う意味合いですね。
fuki 「unnamed planet」は日記として大事な曲。「ていくいっといーじー」は “cephaloの自分” にとっての一歩で、「私はcephaloでこういうことをやりたいんだな」っていうのが明確になった曲。そんな感じです。



■ 日々思ってるようなこと、生活が目に映る
――オオマエさんはまず、自分にとって自信満々っていう曲はどうですか?
オオマエ 自分は「unnamed planet」が一番自信がある曲かもしれないですね。音作り、ギターのアレンジ――この曲に対しての100%のギターが弾けたなって。
――僕も「unnamed planet」をライブで観て、あのイントロでピンと来て對馬さんに曲名を聞いた記憶があります。曲自体はfukiさんから渡されたものだったんですよね。
オオマエ 自分で作るよりアレンジの方が時間はかかりますし、確か最初は打ち込みだったよね?
fuki うん、難しかったと思う。
オオマエ なので、どういう表現をするかめちゃくちゃ考えました。
fuki すごくいい。自分がバンドでやるならこれがしたかったっていうのを、本当にみんな頑張ってアレンジしてくれました。
オオマエ メンバー全員、満場一致で満足の曲だと思います。
――對馬:僕もこの曲めちゃくちゃ好きで、ライブで一番聴きたい曲かもしれないです。
fuki ハモリとかがすごくうまくいきましたね。ハモリが綺麗に入ったときは自信になります。
――オオマエさんは「unnamed planet」を聴いて、どの辺で「良かった……」ってなりますか?
オオマエ どうなんだろう。やっぱり最後の盛り上がるところ?
fuki 最後ほんと最高だね。
オオマエ ファズを踏むんですけど、踏むタイミングとかも完璧だったんじゃないかな。
fuki うん、ライブでやっててめっちゃ最高。
オオマエ すごい気持ちいい曲です。
――では、オオマエさんが自分にとって大事な曲は?
オオマエ 1曲目の「時化空」はメロディー以外ほとんどできた状態でみんなに投げたので、自分の中では満足してて。
fuki うんうん。
オオマエ デモの段階で満足できてたんじゃないかなくらい。そこにfukiちゃんのメロディが入った結果、すごい曲になったな、って思ってます。
――「時化空」ってどういう意味なんでしょうか?
fuki なんだっけ? 絶対なんかあったよね。
オオマエ すごい歌詞とマッチしてていいな、っていうのがあったけど、どんな意味だっけ。
fuki ……あ! そう、タイトルの読みは「ジカクウ」なんですけど、本当は「シケゾラ」で。歌詞で〈海岸〉とか言ってるし、海辺って風がすごく吹くじゃないですか? それを表したかったんですよね。
――曇った海のイメージだったんですね。
fuki ずっと暗いので。
オオマエ これも、歌詞が本当にすごいと思ってるんですよ。暗いけど、僕とかfukiちゃんみたいな人間が、こう……日々思ってるようなこと、生活。それが目に映るというか、だからすごく好きです。ラスサビの歌詞やばくないですか? 〈足の感覚ない〉って。
――わかります、本来言葉にならない感覚というか。
オオマエ そうなんですよね。そこがリンクしながら情景が浮かぶというか。
――そういうのがあるんですよね、この……
オオマエ めちゃくちゃわかります。
――この曲を聴かないと思い出さないような感覚なんですけど、身体が……。
fuki 多分その感覚に陥っちゃうときって、誰にも言えないけど――言えないし、そもそも言葉にできないじゃないですか? 「う〜……」ってなっちゃって。でも、それをあえて叫びたかったので。
――對馬:「時化空」はできた時点で、これを1曲目にしようみたいな感じだったんですか? 最初に聴いたとき、こんな壮大で重い曲が1曲目なんだっていう驚きと、しっくりくる感じが同時にありました。
オオマエ ちょっと悩んだよね? すごいポップな曲で攻めるっていう案もあったし。でも、やっぱり自分たちのやりたいことはこっちだよなと思って。サビまで長いんですけど、あえて1曲目にしました。

■ コラージュ脳
――僕はcephaloの歌詞がすごく好きで。どの曲も、丸見えとは言わないけど、生活世界が見えるっていう。人、人、人って思える。このなかに人がいるよね、人が喋ってるよねって感じがすごく好きです。歌詞の着想はどのように得ることが多いですか?
fuki 漫画がすごく好きで、漫画を読みながら歌詞を入れることが多いです。“コラージュ脳” みたいなところがあるので、楽曲作りと歌詞の入れ方も一緒だなって思うから――漫画を読みながら。小説は文章だけど漫画は会話だから、文が短いじゃないですか? だからそれを並べて一つの歌にしたりしています。
――對馬:みんな話題にしてると思うんですけど、「ルート225」の〈睫毛の長い女の子 タコ殴り〉っていうフレーズとかは、前後との文脈もよくわからないけどかなり印象的だったり。そういうところにもコラージュ的なアプローチが表れてるんですかね。
fuki 空白の中から生まれる言葉だと、どうしても自分の言葉になってしまうから、コラージュしながら言いたいことを言っていく、っていうイメージで。漫画で出てくる美少女を見て、まつ毛が長い女の子だな、みたいな。 で、私はかわいい女の子が、当時の気分だったら、あの……嫌いだったから。
――思いのほか直接的でしたね。
fuki 他の曲も恋愛とかが主なテーマだとは思うんですけど。人が感情的になったりするのは恋愛が多いかなって。でも、恋愛って言いたくないから、わざと遠まわしに。「ルート225」の〈似合わないパーカー着て 街中がほら笑っているよ〉とかも、女の子が彼氏の服着てちょっとアピりたいみたいな。
――漫画のセリフを読みながらだけど、言いたいことはfukiさんから出てきてる感じですかね。
fuki 漫画のセリフをお借りして、自分が思ってる、暴力的なことを……逆に「MOON CHILD」とかはもっと優しい歌にしたかったので、私も優しい気持ちになって、優しいことを言いたいな、みたいな。だからそういうのをお借りして。
――對馬:ちなみによく読む漫画は?
fuki 少女漫画が好きで、聖千晶さんとか、倉持房子さんとか。昔の漫画が好きだし、もっと暗めの、郷田マモラさんとか『ガロ』みたいな雑誌に出てる漫画も好きです。「ルート225」は志村貴子さんの作品のタイトルから取ってますね。SFみたいなのもすごく好きで。『ぼくらの』の鬼頭莫宏さんとか。ああいうダークファンタジーみたいなものばかり読んだり、少女漫画読んだり。
――曲名にも漫画の影響が強く出てるんですね。
fuki 「MOON CHILD」もそうですね。清水玲子さんの『月の子』っていう少女漫画が好きで、そこから取りました。
オオマエ デモのときは曲名「月の子」だったもんね。
fuki そう。でも英語の方がよかったので英語にしました。
――對馬:そう考えると、ジャケットもイラストですよね。
fuki そうですね。ジャケットのアルテア(*2)さんもそういう繋がりで、いろいろ話して、自分が大好きだったので依頼しました。
*2:https://x.com/hilite0706/status/1875965582560125126
――ジャケットは、どのタイミングで決まったんですか?
オオマエ 前々から頼みたいイラストレーターさんがいるとは聞いてたので、任せようと決めてて。曲を作り始めた頃に話を持ちかけました。
fuki デモを聴いてもらって、「自由に描いてほしい」ってお願いして。「テーマがこれで、コンセプトはこれで作ってほしい」って言われたら、自分なら落ち込んでしまうので、「とにかく自由に、その日思ったことでもいい」って言ったら、すごい絵を描いてくれました。
――デモは一応聴いてもらってるけど、アルバムのタイトルもない状態で進行していたんですね。アルバムの雰囲気としっかり合致してるのは音を表現したというところなんでしょうか?
fuki 元々音楽が好きな方で、私の歌もX経由で知って聴いてくれてたんですよね。
――イラストが出来上がったのはアルバムの完成前ですか?
fuki 同時進行みたいな感じだったかな。
――逆にバンド側が、先に完成したイラストから影響を受けたりもしたんでしょうか?
fuki それはないですけど、アルバム・タイトルのきっかけはアルテアさんでした。一緒にお茶したときに「フローライトって石が、すごくいい色をしていて曲に合ってるんだよね」って。石を見せてもらって、すごくいいなと思ってアルバムの名前に付けました。
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