Posted on: 2023年4月30日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

2年ぶりに届けられた揺らぎの2ndフルアルバム『Here I Stand』。存在証明とも取れるようなタイトルと、海を目前に一糸まとわぬ姿で立つ2人の男女を見て、あなたは何を感じただろう。危機的な時代を経て、あるものは忘れられ、あるものは取って代わられたかもしれない。しかし、その中でも変わらないものがあった。そのことを揺らぎはそっと教えてくれているのかもしれない。

これまで以上にポップで、それでいて素に近い、あるがままの4人が詰まったアルバム。そこには奢りも衒いもない。様々なアプローチで表現の幅を広げた前作『For you, Adroit it but soft』から2年、どのように今作へ至ったのか、4人に語り尽くしてもらった。レコーディングで使用したという楽曲ごとの進行表(スプレッドシート)も掲載したので、是非アルバムを聴きながら読んでいただきたい。

インタビュー/文/編集=對馬拓

* * *

■ イントロダクション

── 前回のインタビュー(2021年6月20日)から2年くらい経ちましたが、みなさん最近どうです? 元気ですか?

Uji(Ba. Cho.):あの直後から色々ありましたけど、今はみんな元気ですね。

Yusei(Dr.):うん、元気やな。みんな身体壊したり落ち込んだりしてたけど、元気になった。やっと平常運転になったな。

── そういえばUjiさん、骨折してましたっけ。

Uji:そのインタビューの2週間後ぐらいに、肘を折りまして。

miraco(Vo. Gt.):チャリで空中1回転。

Uji:それでワンマン飛ばしまして。1年ぐらいかけて治ったんですけど。

── いやあ……大変でしたね。やっぱり年を重ねてくると色々ありますね。

miraco:30に近づくにつれて。おすし先生(對馬)は今いくつです?

── 去年の年末で30になりましたよ。

miraco:お〜、大台に!

── ね。笑 出会った頃はみんな20代だったのに。

miraco:怪我とかしたらマジで治らない。そういえば、クリスタル加藤くんって分かります? BearwearとかANORAK!でギター弾いてる。

── haikiとかもですよね。

miraco:そうそう。Ujiはクリスタル加藤とパチンコ打ちに行ってました。

── 何のエピソード?笑

一同:笑

■ やっぱり分かりやすいのが一番好き

── 本題に入りましょう。まずは、アルバムのリリースおめでとうございます。

一同:ありがとうございます。

── お世辞抜きでめちゃくちゃいいです。みなさんの手応えはどうですか?

Kntr(Gt.):前作はようやくできた、って感じだったんですけど、今回は意外とすんなりできたというか。作った後の脱力感みたいなのはあんまりないです。

miraco:前作(1stフルアルバム『For you, Adroit it but soft』)より出来上がるまでのスパンが短かったからね。

── 前作はコロナ禍もあったし、リリースまで3年くらい空いてた記憶なので、今回はある程度スムーズに進んだ印象なんですかね。

miraco:そうですね。かんちゃんが曲の土台をハイペースで作ってくれて。今回は特に早かったね。“鬼才かんたろう大爆発”って感じで。

Kntr:今回が楽だったのか、前作が凝り過ぎたのか、ちょっと自分では判断しかねるんですけど。そんなに大きな壁もなく進んだような手応えがあります。

── 前作を経て自分たちが鍛えられたからこそスムーズに進んだ、みたいな感覚はありますか?

Kntr:前作はコロナ禍で色々手探りだったんですけど、曲の土台を遠隔で作るっていう実績ができたので、その経験は活きたかなと思います。

── なるほど。……やっぱりあれだね、インタビュー始まるとみんなテンション下がるね。笑

一同:笑

miraco:テンション上げてこ〜!

Kntr:言語化するのが難しいんですよね。前のアルバムより、もっと感覚的にやってる気がして。

miraco:確かに。私の感覚としては、別に今回が苦労してないわけじゃないんですけど、前作は初めてのことだらけで、バンドでセッションする中でボツになった曲も多くて、とにかく時間もかかったし苦労した、みたいな感じで。だから今回はいい意味ですんなりいったというか。むしろすんなりすぎて「世の中にリリースされた時にどんな反応をされるんだろう、受け入れてもらえるかな?」っていう不安感は前の作品より強かった気がします。酷評される夢とか見ましたね。

── リリースから少し経ちましたが、実際にSNSの感想を見ると、どんな感じでしょう?

Kntr:上々だと思います。私の肌感覚では、聴いてくれる層がちょっと広がったかなって。

miraco:私も日々エゴサーチしてて、そう感じますね。

Yusei:とっつきやすくなったんじゃないかな。曲が分かりやすい。

── 自分の周りでも「聴きやすいアルバム」っていう評価をちらちら聞きます。ちなみに今作はコンセプトみたいなものはあるんでしょうか?

miraco:ないですね。でも、4〜5曲くらい出来た時に“鬱アルバム”みたいな話はちらっと出てました。その頃、ちょっと私がおメンタルをやられてしまってまして……。

Uji:ヴォーカルだったり歌詞を書いてる人間の精神状態がバンドに及ぼす影響って、大きいと思うんですよね。

── 実際に歌詞を見ると、今まで以上に翳りというか、より内省的な雰囲気がある印象です。

Kntr:やっぱりヴォーカルがバンドの顔なので。

miraco:あ、そう思ってくれてるん?!

Kntr:え〜? え〜って言っちゃった。

一同:笑

Kntr:だから、アルバムがそういう方向性に寄ったのは、当時のmiracoのそういう状態があったからなのかもしれないです。でも、コンセプトって大抵は後付けだったりするじゃないですか。なので、コンセプトというよりは「あるがままの状態を出した」っていう事実だけが確かに言えることかなと思います。

── 個人的には、今までで一番“素に近い”アルバムだと感じてて。これまで轟音を鳴らしてきたバンドだからこそ、今回の音の抜き方とか、飾り気のなさにグッとくるんですよ。そういうある種の素朴さに向かったのも、miracoの個人的な部分が大きかったんでしょうか?

miraco:それもある気がするけど、今回は曲の土台とか音に関してはかんちゃんがメインで作ってくれてるから、その影響も大きいかもね。

Kntr:リスナーとして、例えばニューウェイヴとかIDMとか、クラシックとか、色々音楽を聴いてるんですけど、「やっぱり分かりやすいのが一番好き」っていう結論になって。このところダブリンの現行の音楽シーンを漁ってるんですけど、そういう自分にとって新しい音楽に触れるのって体力が要るじゃないですか。でもこの前、Kenny Beatsの『Boiler Room』でASAP Rockyの「Lord Pretty Flacko Jodye 2」が流れた瞬間(※下記リンクの10:32〜)、友達とブチ上がって。笑 小難しいものより分かりやすい方がグッとくる経験が最近色々あったので、分かりやすくて自分好みのポップなものが出せたんだと思います。

Uji:前作に関しては、シンセとかを使って新しいアプローチをするのが、コンセプトとまではいかないけど中心にあったと思うんですよ。今作はそういうのを経て、よりシンプルで全然違う作品になったんですけど、感覚としては繋がってる気がして。バンドを内側から見てると、しっかり前作を経て今作が出来てると思いましたね。

miraco:でも前回のインタビューの最後でさ、「次はもっとシンセを使っていきたい」みたいなこと言ってたやん。みなさん覚えてます?

Kntr:あ〜。

miraco:シンセが悪いとかじゃないんですけど、「やっぱりバンドしたくない?」みたいな感じになりました。笑

── 人間だし、気持ちは変わるよね。

Kntr:エゴサしてたら「シンセなくね?」っていうツイートがあった気がする。前回のインタビューを読んでくれてる人。今回はたまたま出番がなかったっていう。

miraco:機材庫に眠っております。

──「Lost Sight of You」で一応うっすらシンセみたいな音が流れてたような……?

Yusei:あれはシンセじゃなくてサンプリングで、僕がDAW上で作ってきたやつなんですよ。

── じゃあ使ってないですね。笑

一同:笑

■ 誰が作ろうが何をしようが“揺らぎ”名義

── 今作では、BearwearのKazma KobayashiさんとODDLYのKeita Kishimotoさんのお2人が作詞(英詞)で参加しています。前情報によると、今回は日本語の歌詞を翻訳する形で依頼したと。具体的にはどういうやり取りがありましたか?

miraco:今回は日本語とメロディを渡して翻訳してもらってます。彼らはもう、慣れてる人たちで。Keitaくんに関しては、前作はちょっと離れてたけど、『nightlife』の時からずっとやってくれてて。だから揺らぎのこともよく分かってるし、私が日本語で思ってる感覚をちゃんと英語に落とし込んでくれる。自分のバンドでも英訳をやってるのもあって、そういうのがすごく上手いから信頼してます。修正もほぼないですね。

── 日本語は、歌詞っぽい感じのものを渡してるんですか?

miraco:そうです。例えばAメロがあったとしたら、Aメロの尺でハマる情報量とか文字数を調整して、ちゃんと歌詞にして渡してます。ただ、一応英語に訳しやすいものを送ってまして。本当はもっと日本語で表現したいことがあるんですけど、少し文体を変えて訳しやすいようにしてます。

Kntr:あと、「Lost Sight of You」と「Jason」は私が作詞しました。

miraco:「You’re Okay (Hold Me)」の作詞は私です。

── 名義は“揺らぎ”になってますよね。

miraco:そうですね、揉めるので。笑 基本“揺らぎ”で統一してます。誰が作ろうが何をしようが“揺らぎ”名義です。

Kntr:揉めるっていうのもあるし、RadioheadとかQueenをリスペクトして、バンドとして見てもらえるように“揺らぎ”名義にしてます。Queenに関してはメンバー間のゴタゴタでQueen名義になった経緯があるから、そういう部分から学ぶことは多いよね。笑

miraco:ちなみに、私とかんちゃん以外の振り分けとしては、Kazmaくんは「Falling」と「The More I Feel」。Keitaくんは「Here I Stand」「I Wonder」「Worthy of..」「Because」「I Liked You Through The Veil」。曲の雰囲気を考えたらこの采配かな、と思って依頼してます。

── KeitaさんとKazmaさんは、それぞれ歌詞の書き方の違いや傾向があったりするんでしょうか。

miraco:全然違いますね。Kazmaくんの場合、今回は日本語のアレンジと翻訳ですけど、前作はコンセプトを含めて何曲か1からの作詞で依頼してるんですよ。情景を連想させたり、抽象的なニュアンスを操るのが上手くて。しかも日本語でも英語でも歌詞を書けて、両方とも表現するのが上手い。Keitaくんに関しては、カナダ留学経験者のかんちゃん的に見てどうなの?

Kntr:1年間カナダに住んでたことがあるのでちょっとだけ分かるんですけど、Kazmaくんの方がより詩的ですかね。Keitaくんはちょっとプリティで、より直球で伝えるような感じ。対極なんですけど、それぞれの良さが出てると思います。

miraco:Kazmaくんの歌詞って、散文詩っぽくない? そこが良いよね。

Kntr:確かにね。

miraco:あと、Kazmaくんはアメリカ帰りだからおそらくアメリカ英語ですけど、Keitaくんはイギリス英語ですね。文化的な背景の違いもある。

Kntr:多分、アメリカとイギリスでは使う単語のチョイスが違いますね。幸いなことに、揺らぎは海外のリスナーが多いんですけど、その違いをできれば日本の人にも楽しんでもらいたいと思います。

── ジャケットにはフランスの写真家、Valentin Ducielの作品を起用しています。アルバムのタイトルもそうだし、アルバム全体の内容も上手く表現している作品だと思うのですが、出会ったきっかけを聞きたいです。

Kntr:Valentinは私がInstagramでネットサーフィンをしてる時に、たまたま見つけた写真家です。当初は全く別の写真家の作品を頼む予定だったんですけど、諸事情で使えなくなって、急遽、別の候補を探すことになった時に「この人はどう?」って提案して。それで、好きな写真をピックアップして「使わせてくれませんか?」って私からメールを送りました。一緒に「Here I Stand」のデモ音源も送ったんですけど、すごく気に入ってくれて。そこで互いの感性がマッチした感じがして、使用を快諾してくれました。

── やっぱりネットサーフィン、強いですね。前回もアルバムのタイトルをネットサーフィンで見つけた、というエピソードがありました。

Kntr:ネットにバリバリ頼ってますね。周りの話を聞いても、今のアーティストはそういう人が多いと思ってて。世界の裏側の人の写真を使わせてもらったり、コラボするなんてことが当たり前になってる。コロナ禍を経て、「そういうことをやってもいいんだよ」って後押しするような世間の風潮もあったり。Taylor SwiftとBon Iverがフィーチャリングしたアルバム(『folklore』)があって、それのスタジオライブの配信(『folklore: ロングポンド・スタジオ・セッション』)をDisney+で観たんですけど、Bon Iverは完全に家からリモートで参加して、 Taylorは全く別の場所で録音してて。「こんなことも可能なんだ!」って思ったんですよ。だから全然知らない人に何かをお願いするのも不安は一切なく、むしろワクワク感が強かったのですんなりいきました。

── いい巡り合わせがありましたね。

Kntr:彼もインディペンデントな活動をしてて、我々みたいに自分たちで全部やってるDIYのグループの後押しをしてくれてるような人なので、その点でもマッチしました。ちなみに、あの写真の2人はジョンとヨーコではないです。

miraco:ジャケットを公開した時からみんな言うんですけど、全然違うから!

Kntr:これはもう絶対記事に入れてください。笑

Uji:エゴサしてハッとしたよね。

miraco:見えないこともない、と思ったけどね。でも、だとしたら「どうやって許可とるん?」っていう。笑

■ 総務みたいな立ち位置

── Ujiさんのお話を。今作でも“4人目のメンバー”と言って差し支えないご活躍をされていると思いますが、前作と比べて役割に変化はありましたか? また、今作では特にどういう部分で力を発揮したのか具体的にお聞きできれば。

miraco:今まで通り、バンド内の不穏な空気を察知した時にUjiが出動して。笑 もちろん音楽的にも手腕を発揮してくれて、そこはますますグレードアップを重ねてくれてます。あと、コーラスは前回もそうだけど、今回もしてもらって。

Yusei:発音指導は前回やってなかったよな。今回はそれで助かってるんちゃう?

miraco:そっか。うちはかんちゃんが英語できるから、ヴォーカルのレコーディングの時はかんちゃんもブースに入って発音指導してもらってて。「舌を巻きすぎてる」とか「発音が甘い」とか、逐一指摘してもらってるんですけど、その指導者に今回はUjiも追加されて2人になって。尋問面接されてるみたいな写真あるよな。

Kntr:参考画像、送りますよ。

── めっちゃ姿勢いいじゃん。笑

一同:笑

Uji:別に英語がそんなにできるってわけじゃないんですけど、英語の教員関係者がいる家庭で育ったので、ちょっと分かるんですよね。……ベーシストとしての話を今のところ全くしてないんですけど。笑 変わらず楽しくやらせてもらってますね。甘えっぱなしなんですけど。

miraco:いやいや、こっちが甘えてるんですけどね。おんぶに抱っこで。相変わらず遠征の時も車を運転してもらってるし。笑 音響さんが関西に来た時はUjiの家に泊めてもらって、なんなら音響さん用のマットレスも買ってもらったり。

Uji:総務みたいな立ち位置ですね。

miraco:でもやっぱり、3人のメンタルを支えてくれてるのが一番大きいかもね。

Uji:多分僕、関係性としてめっちゃラッキーなんですよね。“同期”も“同い年の友達”も“後輩”もいるバンドに参加できてて。そういう意味でも気を遣わなくていいので、もう上手いように使ってくれたらいいんですよ。笑 機材関係だと、ベースのエフェクターのボードを組んでて。今までは揺らぎが持ってるマルチ・エフェクターを使わせてもらってたんですけど、新しくボードを組もうと思って。ただ、何とかなるやろと思ったところが全然で、色々と試行錯誤してまして。それが大変でもあり面白いので、最近はそこに時間を使ってる感じですね。

── 音作り的にもまた一段階上がりそうですね。

Uji:ですね。どこまで上手くいくか分からないんですけど、プレーヤーとして「ベースって面白い」と改めて思ってるところですね。まだ難しくて、てんやわんやなんですけど。制作面に関しては、前作は一発目だったんで、かんたろうが持ってきたデモに対して何回もいろんな案を試して……っていうパターンが多くてかなり苦労したんですけど、今回は構成もスムーズに決まって。当然やり直しはあったんですけど、みんなが共通でいいと思える作り方でスムーズに進んだのが良かったかなと。

Kntr:Ujiくんはベーシストとして「これできひんわ」っていうのがないからね。

miraco:マジでNGなし。信条にも掲げてるもんな。

Kntr:「こういうのをやってみて」って言ったら大体やってくれて。デモの制作者からしてみたらすごくありがたい。デモの段階で自分でベースも入れてるけど限界があるから、参考になる部分が大きいかな。自分以上の選択肢を色々増やしてくれる。

── NGなしってすごいですね。

Uji:まあ、「人間的に優れてないので何でもやらせてもらいます」っていう意味なんですけど。揺らぎのベースは、意識的に極力音数の多いものを持っていくようにしてるんですよ。それをバンドに削ってもらうのが、やり方としてはいいのかなって。余計なものも当然あるんですけど、そこはみんなにシンプルなところは徹底してシンプルにしてもらって。今作は特にそういうやり方でいろんなアプローチをさせてもらえたのは印象に残ってますね。

■ “ポップ”って自分で言う言葉じゃなく、評価の言葉

── 前回のインタビューで、かんちゃんが「カントリーのギターを練習してる」って言ってたのが印象に残ってまして。今作において、みなさんが練習や研究をして、その成果が出せた部分は具体的にあったりしますか?

Kntr:カントリーのギターをやってると言ったんですけど、その後フォークの方に興味が移って、ここ2〜3年はフォーク・シンガーをよく聴いてます。Nick Drakeが使ってたGUILDのM-20というギターがあるんですけど、それと全く同じものを去年買ったんですよ。で、買ったからにはフォーク調の曲を作ってみよう、と思って出来たのが「Jason」です。プレーヤーとして、フォーク・ギターを弾けるようになったのはプラスですね。

miraco:私は特に大きい変化はないんですけど、前のインタビューでも言った、誰かの曲にメロディーを付ける作業は続けてて。音楽はポップ寄りなアンビエント系のアーティストをよく聴くようになったかな。より掘るようになったというか。その掘り方も、自分で掘るっていうよりは、レコードをかけてくれる喫茶店を見つけて通いまくって、お店の人と仲良くなって教えてもらう、っていうディグり方をしてますね。どこか別の空間に行って考え事したい、っていう理由でそういう行動をしてるのかも。一方で、エモとかポスト・ロックをより好きになって、ライブもよく行くようになりましたね。……アルバムにどう反映されてるんですかね、これは。笑

Uji:それを聞かれてるんだと思うけど。笑

一同:笑

── 前作からエモとかスロウコアっぽい感じは出てたけど、それが今作でさらに濃くなってる印象はあるかな。

miraco:でも、今まで以上にインディー・ロックも聴くようになって。かんちゃんの言う「分かりやすい」じゃないけど、私もアウトプットしやすい音楽をより聴くようになって、それがヴォーカル・ラインにも少し表れてるのかな。

Kntr:今の話でちょっと思ったんですけど、難解にしようとすると、いくらでもできるんですよ。「これはこういう意図があって、ここはこういう影響で……」って言い張ればいいわけで。でも“ポップにする”難しさって、すごくあると思って。“ポップ”って自分で言う言葉じゃなく、評価の言葉だから。今作をポップだと言ってもらえるのは、インディー・ロックの影響を受けた結果なのかなと思いましたね。

miraco:今作の自分の変化は、客観的に言われて気づいた部分が多くて。自分としてはそこまで変わったつもりはなかったので、今までにない不思議な感覚ですね。それこそバンド全体にも言えることですけど、“素の状態”というか、ありのままに近いというか。それは私個人にも言えることかなと思います。

Yusei:僕は狙って新しいことをしようと思ってなくて。アルバムを作るにあたって、みんなの考えは結構ポップ寄りやな、分かりやすい音楽をやりたいんかな、っていうのは感じてたんですけど、僕、当時はインディー・ロックは全然好きじゃなくて。笑 でも聴いて、解釈して、今作のドラムになりました。できるだけ個性を出しすぎないように意識したかな。やりたいことをやってる曲もあるけど、単純なビートをバンドに乗せることを意識しました。昔は頑張りすぎてたと思うんですよね。例えば「night is young」とかを今聴いたら「頑張りすぎちゃう? ずっと(ドラム)動いてるやん?」って。笑

Kntr:“大人の余裕”じゃないすか、それは。

Yusei:そうそう。「Worthy of..」なんかはビートで作り上げていったり。あれはずっと同じビートですね、フィルイン以外は。そこは今までと違うところかな。

── そういう変化も面白いですね。やっぱり素というか、シンプルなところにどんどん近づいてるし、それを衒いなくできてる。

Yusei:前よりも自分のドラムを見つめ直すようになりましたね。自分の音がどんな感じなのか知るために動画に撮ったりして。動画だと自分の下手さが分かるので。

Uji:僕は色々なパターンを出せるように、ジャンル問わず音楽を聴いたり、コピーしてアウトプットしたりしてて。今作はシンプルな展開の曲が多くて、今言ってたようにドラムも変化をつけるというよりはビートでしっかり土台を作ってるから、割とベースは動ける余裕があって。しかもそれを良しとして使ってもらえてるから、いっぱい音楽を聴くようにした成果が、プレイヤー面の変化として上手く出たんじゃないかなと思いますね。

miraco:いち友人としてUjiくんを見てると、揺らぎに入ってからの2〜3年で、今まで聴いてなかったジャンルを聴くようになってるし、ライブも色々行くようになってて、「ええやん?」って思ってました。笑

── バンドをきっかけに幅が広がってるのはとても良いことですね。

Uji:揺らぎの最初のスタジオに行った日のことを、僕は死ぬまで忘れないと思ってて。揺らぎをやるにあたって、「みんなが指針としてるジャンルとか曲とか、おすすめがあったら聴いてくるから教えて」って言ってプレイリストを作ってもらったら、それが200曲くらいあって。あのプレイリスト、2曲ぐらいしか聴いてないんですけど。笑

miraco:え〜?! 嘘やろ?!笑

Uji:あそこから全てが始まりましたね。これ、どうなるんやろ……って。笑 あれから2〜3年経って、メンバーに比べたらまだまだですけど、いいと思ったものをやっと自分なりに昇華できるようになって、スタートラインくらいには立てた実感はありますね。

── まだまだここからですね。

Uji:そうですね。僕からしたら、みんなえぐいくらい音楽聴いてる人たちなんで。まだ3人が共通で好きなアーティストの会話にはなかなか入れないことが多いんですけど。笑

Kntr:でも、この3人も大学生の頃は共通で好きなアーティストって色々いたけど、今ってほんまにバラバラというか、枝分かれしていったよね。だからUjiくんをより困らせてるのかもしれない。笑

一同:笑

Uji:聴いてる音楽も住んでる環境も仕事もバラバラなのに今回の作風になってるのは、中から見てて面白いなと思いますね。

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Author

對馬拓
對馬拓Taku Tsushima
Sleep like a pillow主宰。編集、執筆、DTP、イベント企画、DJなど。ストレンジなシューゲイズが好きです。座右の銘は「果報は寝て待て」。札幌出身。