Posted on: 2023年5月25日 Posted by: 鈴木レイヤ Comments: 0

文=鈴木レイヤ 
写真=井上恵美梨 
編集=對馬拓 

Rideが再結成したのは2014年で、当時の僕は18歳だった。僕とバンドの出会いもその頃で、後追いで聴いた『Nowhere』に詰まっていた底のない青さに押しつぶされそうになりながら、青春を過ごしていた。初めてのフジロック、夕日に暮れていくGREEN STAGEのどこか遠く、きっと心の奥底から響き渡ったであろうあの「Leave Them All Behind」のイントロはフジロックで最高の瞬間だった、今も揺るがない。

これまで三度Rideのライブを観てきた。一度目が前述の2015年のフジロック、再結成ツアーでのセットで、彼らは過去作からの名曲の数々をうねる轟音で広い芝生の上に塗りたくって、どんどん会場の夜を彩っていた。
(その後、2015年は韓国でも1公演。同年11月、『Nowhere』25周年ツアーで来日し東京・大阪で公演、シンガポールと香港でも1公演ずつ。)

二度目は2017年、SUMMER SONICの前夜祭、HOSTESS CLUB ALL-NIGHTERというイベントで、当時は再結成後1作目の『Weather Diaries』リリース直後、夜中だし、ダンサンブルな「All I Want」から「Taste」の流れでもう頭がダメになり、気づいたら人混みのなかで踊っており、終わったらセットリストを掴んでいた。溺れそうだった。
(2018年2月に『Weather Diaries』のツアーで来日し東京・大阪で公演、3月にかけて韓国、台湾、上海、北京で1公演ずつ。)

三度目はインドネシア、かつて前座に見出したDIIVとのツーマンで、DIIVが荒削りなデモ状態の新曲も含むアグレッシブなライブ演奏で若者たち(私も含め皆若かった)を踊らせた(モッシュもやった)のちにRideは登場し、圧倒的な音色で会場の空気を変えた。若者たちはみんな後ろで座ってステージを見上げていた、前の方にはいつの間にか前へ押し寄せた40代、50代の男女の姿があった。彼らは呆然とステージを見つめていた。Rideの音はDIIVとは比べ物にならないくらいに緻密に出来上がっていて、思わず感激しステージへ近寄った。現地で知り合った若者とライブの話をしていて「DIIVもよかったけれどRideはやっぱり音が違うね、泣いてる人もいた」と僕が言うと、青年は「彼らがインドネシアでライブをするのは初めてなんだよ。30年待ってたんだ、俺らとは比べ物にならないよ」と。それが2018年。
(2019年、再結成後2枚目のアルバム『This Is Not A Safe Place』を発表し、11月にツアーで来日、東京・大阪で公演。日本に住んでいたが貧乏すぎて行けなかった。当時の彼女が行って「楽しかった。主役はロズ」と言っているのを聴いて嬉しかったのを覚えている。上海でも1公演。)

という人が今回のライブレポを書いています、そういう長い前置きだった。4年ぶりに観るのは、『Nowhere』30周年を冠して行われた4月19日、リキッドルームでの公演だ。

アンビエントなウォーク・オン・イントロが流れるなかRideのメンバーが登場したとき、久しぶりに見る4人の姿に興奮した。簡単な挨拶ののちにセットは「Seagull」で幕を開けた。僕はライド・シンバルからスタートし、Taxmanのベース・ラインが捻じれこんでくるあのイントロを常々、徐々に昼寝から目覚め始めるような、と形容していたのだが、このイントロにはそのような、人それぞれだろうが何等かの情景を呼び起こさせるような非常に強い印象があるのではないだろうか。

再現セットを観ると、その明らかに色を押し付けてくるような強い曲によってアルバムが幕を開けることに圧倒的な正義を感じた。The Beatles『Revolver』の「Taxman」から拝借したベース・ラインが響きわたるだけあって、引き合いに出したくなるようなサイケ・アルバムでもあるが、『Nowhere』のために提示される音のテーマは全く異なるものである。『Revolver』はゲーム・チェンジャーであったが、良くも悪くも個人的な経験を深めるようなアルバムではない。あの金字塔には自分を差し込む隙がない、一方『Nowhere』はどこまでも個人的なサイケ・ロックだろうと思う。悪く言うとかったるい、寝覚めは良くない、重い夢から引きずり起こされるような、でも同時に幻想性の強い、まさに昼寝で見る夢だなと思うということなのだが、これは非常に匿名的で解釈の余地がある、良い意味でねじの緩みやアンバランスな力みがあるアルバムなのである。そして今回の「Seagull」はその余白の明らかに存在する演奏であっただろう。今まで聴いていたのは爽やかすぎたよな、というか、結構どろどろした、アルバムを聴きながら何かに浸ってるときのイメージにめちゃくちゃ近い「Seagull」だった。

そこから「Kaleidoscope」「In a Different Place」と続いていき、徐々に僕のなかで、今回の演奏がこれまで観たどのRideとも大きく異なっているという印象が無視できないものになっていった。実際の彼らの心境がどうであったかを知らないので憶測に過ぎないが、パフォーマンスの面でも、音色の面でも演出がそぎ落とされて、めちゃくちゃシンプルになっていることに気づかされたのだ。

これまで観たRideのイメージとしては、圧倒的に作りこまれた音とバンドが一体化し、一つの現象として存在するような、すなわちこれまでのライブで僕が感じていたのは彼らの演奏がバンドのパフォーマンスではなく、時間&空間の提供であるという印象だった。

しかし、今回はそうではないように感じた。まず4人の人間にまっすぐスポットライトが当たっている時間はわずかで、真っ暗のステージに立つメンバーの顔はほとんど見えなければ、ステージ上での動きも心なしか静かである。MCもロック・ミュ-ジシャンが観客を煽るようなものではなく、なんというか、曲が終わるごとにちゃんと人間に戻ってしっかり言葉を話してるなって感じ。劇をやっているわけではなく、4人の人間が集まってRideの曲をやってる感じ。変な感想だけど。

そして今回は、豪華絢爛な音作りや所謂シューゲイズ的な美しいノイズもない、粗くて太いサウンドの2本のギターと、リズム隊の2人の呼吸が、丁寧に丁寧に、壊さないように過去の名曲の数々を掘り起こすような、そんな演奏なのだ。だからこそ「Seagull」の段で述べたような余白のようなものを感じたのかもしれない。

聴いているこちらも、興奮気味に前のめりで待っていた恰好から、徐々に静かに聴き入るような形へ移行していく感覚があった。どんどんどんどん沈められていくような不思議な感覚で、まるで今まで受けた印象の真逆であった。僕の個人的に最も好きな曲である「In a Different Place」からドラムが忙しい「Polar Bear」、MCを経て「Dreams Burn Down」と、この区間などはもう黙って、身体をピクリともさせず、棒立ちで食らっていた。やられた、気づいたら身体中に音符を刻まれてしまった、『Nowhere』でびっしりになってしまっている。本当に、この楽しい時間ではなく、曲そのものの良さにフォーカスが向くような、不思議な感覚のライブなのだ。

「In a Different Place」をはじめ、「Decay」「Paralysed」「Here and Now」「Nowhere」など、普段のセットではなかなか聴けない曲が並んでいたことも特筆すべきだろうけど、なかでも特に感銘を受けたのはメイン・セットの最後を飾った「Nowhere」だった。まるでアコースティック・ライブのような構成の(それはさすがに言い過ぎなんですが)、ソング・オリエンテッドなセットで、こと全力ハーモニカが最高な「Here and Now」を演奏し終わったあと、おもむろにライブ用に脱構築された「Nowhere」を大ノイズなしの生っぽい音色でプレイし始めるなんてのは反則だと思った。今までノイズにまみれて気づかなかった各パートの絡まり方や、4つの人間が奏でる音の相互作用を生かしつつの発展であったりが全面にあった、そういう良さにたくさん出会えるライブだったけれど、その象徴がこの曲だったと思う。

だんだん音が減っていってロズのドラムだけになったところで、アンディ・ベルが
“All that left is you and me
and here we are
nowhere”
(残ったのは僕と君だけだ
こんなところに来てしまった
ノーウェア)

と歌う。この歌詞が繰り返され、最終的にはノイズ・パートに入っていく。びっくりした。正直知りませんでした、この感じで最後ノイズやるんですか? この曲にこのパートが入ってたんですか? 驚きつつ楽しみました。「Drive Blind」だけだと思ってましたね、そして、「Drive Blind」のノイズ・パートとは全然違うんですね。

音の恍惚ではなく、物語的な恍惚があった。「Seagull」から始まり、あれあれと終わってしまう、そんな感情が沸いてきて「Nowhere」良いなぁ、と思った。単体になった途端に意味が外れて、めちゃくちゃ不思議になる単語をタイトルにしたアルバムの再現セットにふさわしい、というかコンテクストを作って最後の「Nowhere」に意味を持たせるような、面白いライブだった。

これはRideが主役でありながら、Rideがここにはいないのだな、というような曲解も自分のなかで発生したし、「じゃあどこにいるんですか?」「Nowhere」ということなんですよ。自分の曲をこんなに大事そうに、丁寧に演奏している人を初めて見た。主人公はRideではなく、Ride。今この瞬間を楽しむというよりは、曲そのものに飛び込むような、マジで不思議な感覚のセットだった。

もちろんこのあとには、アンコールというパートがあったのですが……『Nowhere』と関係ない曲と共に出てきたRideが正直、別人すぎて笑った。肩の荷が降りたというか気張ってないというか自然というか、ついに本人登場というか、メイン・セットとアンコールでこんなに雰囲気が違うライブっていうのも変な体験で、2組バンドを観たような、謎のあれ。まあ、今まで通りの知ってるRideだった、こっちの方が気を張らず阿呆になって楽しめるかな、と思いつつも、たまにこういうめちゃくちゃ深く潜るような異様な経験も面白かったな、と凄い対比構造になっていた。

いや、本当に。時は流れたということですよ、多分。1988年に結成され線香花火のように眩しい音楽を生み出し1996年に解散した伝説のバンド、Rideという雰囲気はもう全然ない、良い意味で。

2014年の再結成から今年で9年が経ち、既に当時の活動年数を超えているし、再結成後の公演数は今回の前まででアジアで16回、日本だけでも8回。今年の、30周年ツアーの3公演を足すとと追加1公演を足すと、今回の来日で、再結成後の日本でのライブ回数は12回目を数えることになる。この12という数字はRideが解散前に日本で行った公演数と並ぶ数字ってことを考えると非常に感慨深くないですか?

今回の来日公演は単に名盤の30周年を祝うだけでなく、Rideが昔のバンドでなくなった瞬間のライブって思うと。そう考えると、メイン・セットの『Nowhere』のRideと、アンコールで見た現状目の前にいるRideの対比をこのタイミングで観れたのは、とてもいい経験だったと思う。

最後にあの……僕からは一個だけ。今日からは自分たち達を後追いのRideファンと言うのをやめましょう。1stの再現ツアーを二度、2ndの再現ツアーにベスト盤を記念する公演も、再結成後、2枚のアルバムがリリースされました。だから今日からは、僕らも立派なリアタイ世代です。

Ride – Nowhere anniversary show
2023/04/19
LIQUIDROOM

1. Seagull
2. Kaleidoscope
3. In a Different Place
4. Polar Bear
5. Dreams Burn Down
6. Decay
7. Paralysed
8. Vapour Trail
9. Taste
10. Here and Now
11. Nowhere
En1. Lannoy Point
En2. OX4
En3. Monaco
En4. Leave Them All Behind

Author

鈴木レイヤ
鈴木レイヤReiya Suzuki
愛媛県新居浜市大生院出身、タイ王国国立カセサート大学卒業。小説家。主に若者の鮮やかな夢について、魂のこもった熱い人間とその作品について書いています。東京ヤクルトスワローズのファン。