Posted on: 2022年2月4日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

「silence」でアルバムが終わるのは『フランダースの犬』なんだと思います

── もう少しサウンドの話に入っていきましょう。これは本当に伝えたかったのですが、個人的に今作は特に一聴してドラムの音がとても良くて感動したんですよね。

今回はドラムテックを入れて、一曲ずつリファレンスを提示して作ってるんですよ。特に「A.O.T.O.」とか「Laugher」はギターのレイヤー数が多いので、それに負けないような音にしてもらったり。実際、シューゲイザーのド名盤の『Loveless』も、どれだけギターが鳴っててもビートは聴こえるじゃないですか。ただギターの音量が大きいだけじゃなくて、ちゃんと色々なレイヤーがあってのシューゲイザーなので、そこをちゃんとクリアした作品になってると思います。

── シューゲイザーって「ドラムの音楽」という側面もあると思うんですよね。MBVのサウンドをライブで聴くと、ドラムの音がめちゃくちゃデカくてビビる。

それはケヴィン・シールズ自身も意識してると思うんですよね。『ギター・マガジン』(ケヴィン・シールズを特集した2021年6月号)読みましたか?

── もちろん読みました。

『Loveless』のビートのリファレンスはヒップホップとかR&Bから来てる、みたいなことをインタビューで言ってたじゃないですか。だから意識的なんだろうなと。日本のシューゲイザー・バンドってあんまりビートに意識が行ってないような気がしてて。それはもちろん人それぞれではあるんですけど、僕はそっちの方には向きたくなかったんですよね。ビート・ミュージックとかヒップホップも好きなので。

── ビートに意識が向かないのは日本ならではという感じもしますね。メロディ重視というか。それは良い悪いではなくて、一つの特徴なんだと思います。そんな中で、今作だったら特に「Yours」なんかは海外のトラックメーカーの楽曲のような印象もあって。揺らぎの『For you, Adroit it but soft』(2021)にも「Dark Blue」みたいにそういう傾向の曲があって面白かったんですよね。

僕が本当に好きな音楽は「Yours」みたいな音楽なんですよね。笑 それこそWashed Outみたいなビート感とか。声で遊んだ「silence」っていう作品ができたことで「Yours」みたいなものを作る流れができました。完全に僕の趣味ですけど。笑

── このアプローチのpollyをもうちょっと聴いてみたい、っていう気持ちもあります。

でも、こういう作品をバンドで出すのって、マーケティング的にも日本ではすごく難しくて。だからソロでやろうかなと考えたりしてます。そういうものをいつも遊びで作ってたりするので、形にして作品にできたら良いなって思ってます。

── 最初に「silence」聴いた時びっくりしましたもん。笑 ありがたいことにリリース時のコメントも書かせていただきましたが……バンド、解体されてるじゃん、って。笑

ははは。笑 バンドの音が一つも入ってないですからね。でも、そんな曲をバンドで出すということが、すごく良いなと思って。ソロでも良いかなと思ったんですけど、對馬さんがコメントに書いてくれたように、『Kid A』のRadioheadみたいな──あのアルバムって別にトム・ヨークのソロでも遜色ないじゃないですか。でもバンドで出したことに意味があったはずで。難しい曲を作ってしまったな……って思ってますけど。笑

── あれって、声を重ねてるんですか?

声を重ねてハーモニーを作って、それに加えてヴォーカル・シンセというか、一度録ったヴォーカルを和音に変換してコードで弾いたりして、それを何回か重ねたりしてます。あと、高性能なイヤホンとかスピーカーでしか分からないと思うんですけど、ものすごく低いシンセ・ベースが入ってたりもします。声だけでは成り立たないアンサンブルになってるので、じっくり聴いてみてほしいですね。

── そんな曲がアルバムの最後にあるのがまた良くて。独特な余韻を残して行きますよね。最後に配置した意図はあったりしますか?

曲順に関してもチーム内で色々な案があって、これは僕の案ではないんです。意図はぶっちゃけ分かりません。笑

── 笑

でも、「silence」って暗い曲だと思われがちなんですけど、僕の中では讃美歌みたいなイメージで作ってて、そういう曲が最後にあるのは良いなって思うんですよね。『フランダースの犬』って、最終的に二人が天に召されていくじゃないですか。でもバッドエンドだとは思ってなくて。自分の愛する者と同じタイミングで終わりを迎えて、また必ず出会って同じ生活ができるんじゃないか、という希望がある気がするんですよね。そういう意味でも今作のテーマにも繋がってますし、「silence」でアルバムが終わるのは『フランダースの犬』なんだと思います。笑

── その感覚、めちゃくちゃ分かる気がします。少し逸れるかもしれませんが、僕は『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が好きなんですけど、あの映画も壮絶な内容ではありつつ、決して絶望の物語ではないと思うんですよね。

愛の話、ですもんね。

── 母親が愛を貫く話ですよね。絶望を描き切ることで希望を見出そうとしている、というか。そういう部分は「silence」のイメージにも近い気がしました。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』4K版ポスター

『ミッドサマー』日本限定ポスター

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は、テーマとしては決して暗いものを描きたかったわけではないと思うんですよね。母親としての愛情の強さが「あの結末」に繋がっているという。だからテーマとしては素敵だと思います。そういえば『ミッドサマー』は観ました?

── 今年(2021年)の元日に観ました。笑

絶対に元日に観る映画ではないですよ。笑 あの映画、僕は理解できなかったんですよね。すごく綺麗な作品で、好きではあるんですけど。なんというか、ホワイトノイズ的な映画なんだなって思いました。感動したかと言われたら、あんまり心は震えなくて。

── 確かに、決して感動的な映画ではないですね。

愛の話ではないじゃないですか。だから今の自分にはフィットしなかったのかなと。でも、作品としては素敵だと思ってます。アートワークも綺麗だし。

──『ミッドサマー』もある種の救いの物語、という側面もありますよね。

まあ、不気味ですけどね。

── 映像の美しさと描写の壮絶さで押し切ってるというか、そういうのを楽しむ映画なんだと思います。

映像美とストーリーのコントラストがすごいですよね。僕もそこには衝撃を受けました。……なんで『ミッドサマー』の話になったんだろ。笑

『Pray Pray Pray』は『Clean Clean Clean』とすごく近い作品

── 話を戻しましょう。笑 「silence」の前に「Life goes on」っていう曲があると思うんですけど、サウンドとしては北国特有の空気みたいなものを感じて。僕は地元が札幌なんですけど、雪の積もった札幌で、パキッとした空気の朝に聴きたいと思いました。

開けた曲にしたかったんですよ。朝靄の中に入る陽の光、みたいな曲を作りたくて。僕としても、それこそアイスランドとか北欧っぽい音像を目指したんですけど、それだけではだめだなと思ったので、メロディの転調の仕方とかにはかなりこだわりました。一番アレンジに悩んだ曲ですね。でも聴いてても演奏してても高揚感があるし、アルバムの一曲目でも合いそうだなって思います。

──「人生は続く」というタイトルから、ある種の「業」のようなものも感じます。とはいえ、「silence」と同じで絶望だけに陥ることはなくて、前向きでポジティブな部分も感じられる「still life goes on」なのかなと。

モードとしてはポジティブなんですけど、「それでも人生は続いていく」って言葉は、実はネガティブな気もしてて。だから、どっちとも取れれば良いかなって。「それでも続いていくから大丈夫だよ」なのか、「それでも続けなくちゃならないんだ」なのか……。何かの基準までとりあえず続けていくことを定めとして書いた歌詞なんですよね。だから、なるべく具体的な言葉を使いたくなくて、歌詞を見た時に何が言いたいのか、そこまで分からなくても良かったんですよ。

── 最後に、アルバムの核となる部分に迫っていきたいと思います。冒頭でも触れましたが、今作はこれまで以上に歌を重視していて、特に「窓辺」から「Farewell Farewell」までの流れがとても良くて。今作のコンセプトが特に色濃く表出しているのはその部分なのかなと思いました。

前作よりも分かりやすく描きたかったんですよね。でも、薄っぺらい分かりやすさにはしたくなくて。だから、誰でも書けるものにはしたくなかったけど、誰でも分かるような言葉で、景色が見える歌詞にしたかったんですよ。そこはクリアできたかなと。

── 歌詞の精度が高いですよね。「愛している」なんて、タイトルを含めてかなり直球じゃないですか。でも誰でも書ける歌詞ではなくて、ここまで音楽を作ってきたりとか、日々生きてきた蓄積から出てくるフレーズだったり言葉の選び方、っていうのが伝わってくる気がして。

ありがとうございます。こんなシンプルな言葉、使って良いのかな?みたいな難しさはあったけど、自分にとっては嘘偽りないものだし、それをちゃんと書けたことに対する喜びみたいなものはあった気がしますね。今までだったら絶対書かなかったし。でも今の自分の等身大の言葉だし、昔からpollyが好きな人にも、まだ僕らのことを知らない人にも届く作品になってる気がします。

── シューゲイザーってどうしても歌詞よりもサウンドに意識が向く音楽という側面もあるじゃないですか。でも今のpollyの良さはメロディとか言葉にもあると思うので、サウンドをきっかけに知った人も歌詞の良さに気づいてほしいと思いますし、初期しか聴いていないような人も今のバンドの状態が良いということを知ってほしいですよね。

個人的に、『Pray Pray Pray』は『Clean Clean Clean』とすごく近い作品だと思ってるんですよ。多分、一番近い。なんというか……出来上がった時の感覚だったり作ってる時のマインドが似てたんでしょうね。ただ『Clean Clean Clean』の時と違うのは、やっぱり今作はバンドのムードがすごく良かったんですよね。あの時は僕が色々なものに対して押し付けてしまってたというか。そういう美学もあるとは思うんですけど、今回は、どうしても自分がやりたい音楽をやらせてほしいというのを伝えた上で、ちゃんとチームが一丸となった感覚があったので、近いけど違う感じです。

── 表裏一体、みたいな。

まさしくそんな感じですね。黒と白って対照的に見えるけど、絶対近くにあるものじゃないですか。そういうのと一緒で、一見違うように聴こえたり見えたりするけど、実はすごく近い距離感なんだろうなと思います。

◯2021年12月4日 ぽえむ狛江南口店にて

* * *

■ Release

polly – Pray Pray Pray

Label – 14HOUSE.
Release Date – 2022/02/02

1. Laugher (feat. 志水美日)
2. Light us
3. A.O.T.O.
4. 窓辺
5. Daybreak
6. 愛している
7. one
8. Farewell Farewell
9. Yours
10. Life goes on
11. silence (remaster)

■ Profile

polly are(L→R)

飯村悠介
Yusuke “yansu” Iimura
Guitar / Synthesizer

須藤研太
Kenta Sutou
Bass

越雲龍馬
Ryoma Koshikumo
Vocal / Guitar / Programming

高岩栄紀
Hideki Takaiwa
Drums

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Author

對馬拓
對馬拓Taku Tsushima
Sleep like a pillow主宰。編集、執筆、DTP、イベント企画、DJなど。ストレンジなシューゲイズが好きです。座右の銘は「果報は寝て待て」。札幌出身。