Posted on: 2022年2月4日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

漠然と生きることができない時代になってしまった

── 今作も特別にコロナ禍を意識した作品ではないと思いますが、この鬱屈した空気感の先を見据えた音楽としても感じられると思うんですよね。それは今作の「失ったものとの再会への希望」という、ある種の普遍的なコンセプトがこの時代においてより意識的になった結果なのかなと。

意識してない……といっても、結局その時代に生きてるわけだし、我々は24時間ずっとその時代の空気の中にいるじゃないですか。だから潜在意識みたいなものは絶対あると思います。少し前に祖母を亡くした時、コロナ禍だから距離感とかにすごく気を遣ったんですよ。そういう出来事も今作のテーマに繋がってるのかなと。それに、この時代に生きることで、後悔する瞬間が増えた人って多いと思うんですよね。「あの時こうしておけばよかったな」みたいな後悔がどんどん浮き彫りになる時代に僕らは生きてて、そういう気持ちを無意識にピックアップしてるんだろうな、と思います。

── 分かる気がします。僕自身も2019年に祖父を亡くして、それを機に「失ったものへの感情」は昔より強く感じるようになりました。それでさらにコロナ禍になって、2020年頃は気持ちが落ち込んじゃったんですよね。当時はディスクユニオンで働いていましたが、1回目の緊急事態宣言の時に1ヶ月半くらい休業になって、ちょうどその時に高熱を出しまして。笑 当時はPCR検査の体制が確立してなくて受けさせてもらえず、結局コロナだったのか分からずじまいだったんですけど、一週間くらい寝込んで、とにかく辛くて。一日一日を大切に生きなきゃ、って思いました。全ては有限ですからね。

そうですよね……。

── そんな時代の中で『Pray Pray Pray』がリリースされて、少なからず救われる人もいるんじゃないか、という気がします。

だと嬉しいですね。

── また、今作も愛犬に対する感情が綴られてる印象もあって。前回のワンマン(2021年1月31日の渋谷WWW公演)でも、愛犬のルークくんを失いそうになったエピソードをMCで語っていましたよね。その体験が今回のアルバムの一つの軸にもなっているとのことで。

やっぱり一番近い位置の存在だし、いつかは失ってしまうことを覚悟した上で一緒にいるので、その先どうすれば良いのかを考えてて。でもそれって愛犬以外にも、バンドとか家族、友人に対しても言えることで。對馬さんが言ったように、物事は有限なので、終わりのボーダーラインを見た上で、自分はどう生きるのか、どう生きていたいのかって考えると、生活だったり相手に対しての感情の向け方が、すごく変わってくると思うんですよね。前作とも繋がるテーマなんですけど、そういうものが今回のアルバムの大きな核になってると思います。

── どうしても漠然と日々を過ごしてしまうことってあるじゃないですか。もちろん「ちゃんと生きなきゃ」って意識しすぎるのは健全ではないし、そこに切迫感があってはいけないと思うんですけど、そういう感情は忘れちゃいけないということを僕もこの1〜2年で学んだんですよね。

ある意味、漠然と生きることができない時代になってしまった気もします。みんな色々なことに敏感になってるだろうし。

── 自分のことばかりに意識が向いてしまって、なかなか外を向く余裕もないという。

自分の心とかお金に余裕がある時に人に優しくすることって、すごく簡単なことなんですよね。でも、忙しかったり色々な面で自分に余裕がない時に、ちゃんと何かに対して愛情を持って接することって意外と難しくて。それができるようにしたいと日々思って過ごしてます。

── 優しくありたいですね、人として。

まあ、優しさの正体が何なのかって、分からないですけどね。笑

音楽の正体って「なんかやばいな」だと思うんですよね

── 今作は全国流通や配信に先駆けて、ライブ会場限定でCDが先行リリースされたじゃないですか。その理由として、2021年中に出したかったのかなと勝手に想像したのですが、その辺りはどうでしょうか?

少し業務的なことを言うと、リリースよりも先にツアーの日程が決まってて、流通盤がツアーに間に合わない可能性があったんですよ。でもツアー自体はリリースツアーにしたかったので、これはもう会場で出すしかないだろうと。でも普通に出してもつまらないので、流通盤とは別のフォーマットにして、お店で買うのとは違った部分を楽しめるようにしたかったんですよね。結果的に、作品を渡す時にお客さんの顔が見えるっていうのは今の僕らにとっても救いになるし、アルバムのコンセプトとしても合ってる気がします。

── この時代だからこそ、対面で渡せるっていうのは重要ですよね。2021年のpollyを象徴する作品、という意味でもそうですし。

いち早く聴いてほしい、っていう気持ちもありますからね。常に今の僕らが一番最高だと思ってるので、聴いてもらわないのはもったいないと思います。

── 常に今がバンドにとって一番良い状態っていうのは素晴らしいことですね。

pollyは2022年の4月で結成から丸10年になるんですけど、やっと自分のしたいことをちゃんと表現できる力量をつけられたなって。『Clean Clean Clean』の頃から「振ったら当たった」みたいな感じではなくなって、それを今まで毎回クリアできてる自負もあるので。ただ、次回は今回よりも良いものができるのか?っていう漠然とした不安が、実は今すごくあります。

── でも、未来の予測なんてできないし、その時その時の感情で作品が生まれていくと思うので、それは面白さでもある気がします。不安の方が勝るかもしれないですが、これからのpollyも僕はすごく楽しみですし。

ありがとうございます。うーん、どうなるんですかね。笑 曲自体は基本ずっと作り続けてる人間なんですけど、次の具体的なスケジュールとかビジョンがないと、「ただ曲を作ってる」みたいな状態になってしまうんですよね。

── 小野島大さんのライナーノーツにも書いてありましたが、今回のアルバムが遺作になっても良いということで、それくらい完全にやり切ったんですよね。

やり切りましたね。今までは少しは不完全燃焼なものがあったので、初めての感覚なんですよ。ちゃんと当てたいところに当てられたし、これが最後になっても後悔はしないです。

── 今までのpollyの様々な要素をブラッシュアップして詰め込んだ、文字通りの最高傑作だと思います。

自分でも最高だなと思ってるんですけど、だからこそ次が不安です。笑 誰よりも自分が一番聴いてるし、それこそ断片の時から曲のことを知ってるので、たくさんの人に聴いてほしいなって強く思ってます。

photo by Atsuki Umeda

── ちなみに、「これはもうやばいアルバムができるぞ」って思った瞬間はありましたか?

実はデモの段階からちょっと思ってて。「窓辺」「愛している」「Life goes on」あたりができた時、「この高揚感はいつもと何かが違うぞ」と。それでエンジニアを変えたり、マスタリングを海外でやらせてほしいって話になって。あと、レコーディングの初日に福島くんとやりとりしてて、その雰囲気がすごく良かったんですよね。実は作品って制作期間のムードがかなり反映されるんですけど、「名盤を作ってやろう!」みたいなムードを感じ取れたので、今回のアルバムはすごく良くなるっていう自覚はしてました。

── 僕も「A.O.T.O.」を聴いた時は「ヤバいのがきたな」と思いましたよ。

でも、僕はチーム内で唯一「A.O.T.O.」は収録しなくても良いんじゃないかって思ってたんですよ。笑

── なんと。笑

僕からしたら、「A.O.T.O.」はある意味すごく「普通」なんですよね。これは自惚れと思ってもらっても良いんですけど、こういう曲だったら本当に何曲でも作れるんですよ。だから、あんまり面白さを感じてなかったのかもしれないです。でも結果的にライブでやってて楽しいので、良かったなと思います。笑

── そんな曲がリード・シングルにもなりましたよ!笑

それはもう、チームの意向です。笑

── でも、僕の性癖には完全に刺さってるんですよね。まずイントロの、機関銃みたいなドラムから一気に広がっていくような感覚が最高で。

ありがとうございます。シューゲイザーが好きな人なら絶対に好きって言ってくれるだろうなって気持ちはありました。でも、ただの「好き」になってほしくはなかったんですよね。「なんかやばいな」って思ってもらいたくて。音楽の正体って「なんかやばいな」だと思うんですよね。それを感じ取ってもらえたらすごく良いなって。

── ジャケットはexloversの『Moth』のオマージュですよね。

完全にそうです。短命でしたけど、かっこいいバンドでした。

polly「A.O.T.O」ジャケット

exlovers『Moth』ジャケット

── 実はストリーミングになかったりするんですよね。

そうなんですよね。昔はあったような気がするけど。

── あと、歌詞の最後の「Love / Hate」の部分は、勝手にART-SCHOOLを想起しました。

あんまり意識はしてないですね。笑 実は、Beach Fossilsの「Clash The Truth」の終盤をオマージュしてます。

── ミュージック・ビデオも素晴らしかったです。あの建物は廃墟ですか?

です。実は「狂おしい」のMVと同じ場所で撮ってて。福島県の「ヘレナ国際ホテル」という所で、撮影場所として結構使われてます。King Gnuの「白日」とかもあそこですね。

── マジですか。

元々バブルの時にできたリゾート地なんですけど、建設途中で弾けちゃって。でも管理はされているので、電気とかトイレは使えるところと使えないところがあったり。雰囲気としては、『シャイニング』に出てくる、あのホテルを日本版にしたような印象ですね。

【 Next 】
「silence」でアルバムが終わるのは『フランダースの犬』なんだと思います

Author

對馬拓
對馬拓Taku Tsushima
Sleep like a pillow主宰。編集、執筆、DTP、イベント企画、DJなど。ストレンジなシューゲイズが好きです。座右の銘は「果報は寝て待て」。札幌出身。