Posted on: 2022年4月23日 Posted by: 鴉鷺 Comments: 0

Label – New Heavy Sounds
Release – 2022/03/25

UK・レクサムを拠点に据えるヘヴィー・シューゲイザー・バンドによる5thアルバム。近未来のサイバーパンク都市でオカルトの探求を続けるゴシック青年たちが集い、対岸を憧憬しつつ編み上げた異端のヘヴィー・シューゲイザー、というと彼らの音楽をイメージ出来るだろうか。

サイバーパンク・ディストピアンの世界に対する眼差しを伝えるオープニング・トラック「Oblok Magellana」がMWWBの作品世界を予見させる。そしてオカルト、ニュー・メタル、ポスト・フューチャー、もしくはサイバネティックな電子音楽、そしてシューゲイザーの高度な融合と溶解であるタイトル・トラック「The Harvest」で少なくとも筆者は心を奪われた。現代を生きる上で筆者も含めたある種の人々が抱え込む、明らかなディストピアである世界に対するアンチテーゼとしてのシューゲイザー、つまりまだ見ぬ、または不在の美しい「向こう側」を幻視し、美に奉仕する音楽という結晶体によるプロテストが完璧に演奏されているからだ。オカルティックなニュー・メタル・マナーの刻まれるリフとヘヴィなビートに華やかでゴスな美しい女性ヴォーカルとその和声が展開される優れた楽曲である。

そして、インターリュードである「Intersteller Wrecking」は彼らがダーク・アンビエントの潮流である近未来志向のアーティストたちを参照している事を伺わせる。

続く「Logic Bomb」もまた「The Harvest」以降の美しいゴシック・シューゲイザーだ。MWWBの音楽の特徴として、ゴシックで美しい質感を持ったヴォーカルを全面に押し出し、またそれも美しく展開された和声をトラックの中核に持ち込むことが挙げられる。古くはMy Bloody Valentine『Loveless』が提示した手法のモダナイズで、その優れた例として挙げられる。

高水準のシンセ・ウェイヴである「Betrayal」もまた美しく、アルバムは速度を上げ続け、最終曲である「Moon Rise」に辿り着く。

現代というディストピアにおけるゴシック青年たちのサイバーパンクとオカルトの探求はシューゲイザーというある種の彼岸に辿り着き、美しい結晶として受胎した。間違いなく2022年の秀盤であり、20年代のヘヴィー・シューゲイザーの中でも高い達成であるこのアルバムを今後も愛聴したい。

Author

鴉鷺
鴉鷺Aro
大阪を拠点に活動する音楽ライター/歌人/レーベル主宰者。Sleep like a pillowでの執筆や海外アーティストへのインタビューの他、遠泳音楽(=Angelic Post-Shoegaze)レーベル「Siren for Charlotte」を共同オーナーとして運営し、主宰を務める短歌同人「天蓋短歌会」、詩歌同人「偽ドキドキ文芸部」にて活動している。好きなアニメはserial experiments lain、映画監督はタル・ベーラ。