Posted on: 2023年10月12日 Posted by: 鴉鷺 Comments: 0

文=鴉鷺
編集=對馬拓

2012年、そのディケイドにおけるシューゲイザーという観点で、絶対に外すことのできない歴史的名盤である『Moth』が、exloverによってリリースされた。そして、彼女/彼らは再び始動し、10月に来日ツアーを控えている。

このコラムでは、バンドのディスコグラフィーを辿りつつ、その音楽、リリックに触れて、リアルタイムで聴かれていた方から新しく知ったリスナーの方までを対象として記述してゆく。

1. ディスコグラフィーから展望する音楽的系譜

2008年にexloversの最初のシングル、『Just A Silhouette』がリリースされ、そこから夜と愛戀の音楽の系譜が始まった。最初期の特徴的な方向性として挙げられるのは、現在のBig Thiefなどに代表される、オルタナティヴ・フォークを先取りするようなインディー・フォーク的な側面と、その後のシューゲイザー路線に繋がるソリッドで甘やかなインディー・ポップという側面が折衷されていることだろう。タイトル・トラックであり、後の『Moth』にも収録される「Just A Silhouette」は、ユーフォリックで鮮やかな、(消え去ることのない)思春期のパッションのヴォーカルが、後の特徴の一つとなる単旋律のギター・フレーズに彩られる爽やかな音楽だ。

そして二曲目の「Clouds」は愛戀の夢を抱えるNick Drakeのような、イーサリアルな風景を夢想するElliott Smithのような、消えてしまいそうな感傷のヴォーカルと光のアコースティック・ギターの旋律で構成される、イノセンスの結晶である。

このシングルでexloversが達成したのは、Elliott Smith以降のインディー・フォークの方法論、つまりギターのアルペジオや感傷と憧憬のヴォーカルの展開が、必ずしも幻想の轟音を必要としない、新しいシューゲイザーの形に展開されうる可能性を自らの内に宿らせたことだろう。これが最初の布石である。

そして2009年に、『Photobooth / Weightless』がリリースされる。まず「Photobooth」に聴き取れるのは、前述したElliot Smith以降のインディー・フォークをシューゲイザー/インディー・ポップと接続した上で、固有の音楽を展開することの足がかりであり、その過渡期の美しさだろう。明らかに和声進行やメロディーの感傷性が強度を増している。バンドの成長でもあるだろうし、その前述した方法論が極めて優れたもので、まだ誰も知らない、見たことのない景色を描きうる達成の予感でもあるだろう。

二曲目の「Weightless」ではやや翳りのある質感が提示されるが、ヴォーカルの美しさと感傷の中に流れているのは明らかにElliott Smithの血脈である。ストリートを歩きながら、青年の頭の中にある暗さと愛、美しいものと目の前の街路を重ねて夢想するような、現実と夢想のあいだを縫う、exloversにしか見えない音楽の糸が編まれ、ひとつの楽曲として提出される。(全ての優れた作家がそうかもしれないが)インディー・フォークの方法論とシューゲイザーの接続はexloversに固有のもので、それが彼女/彼らの音楽が鮮烈で、私たちに新しい風景と叙情を聴かせてくれることの背景にある。この作品の時点で、exloversが遠くまで歩んでいく事が約束されている。

同年に最初のEP『You Forget So Easily』という記念すべき作品がリリースされる。一曲目の「You Forget So Easily」で聴き取れるのはこの楽曲という一局面で、それ以前の前述したElliott Smithの血脈にあることが飛躍して、ヴォーカルが固有の純粋な後のシューゲイザーとしての高い達成に繋がるイノセンスを獲得していることである。そして、ギターも同様に純粋な結晶性を讃えている。

「New Years Day」でのインディー・フォーク路線でも、飛躍、もしくは後期Elliott Smith的な洗練が聴き取れる。ギターの美しい重なりは後の優れた楽曲群を想起させるもので、作品を重ねるごとに曲が持つ叙情の大きさと、流れの美しさが広がっていることが聴き取れる。

前述したシングルにも収録されていた「Just A Silhouette」を挟み、「You’re So Quiet」ではThe Pains of Being Pure at Heartを彷彿とさせる疾駆する、ギター・ポップ以降のシューゲイザーが披露される。exloversの音楽はインディー・フォーク的なリリシズムを抱えつつも、速度と極めて相性が良い。それは音楽の抱える叙情の大きさや生の側面が、音楽の速さを抜きにしては表現できないことの証明と言えるだろう。

そして2011年のシングル、『Blowing Kisses』にたどり着く。後の『Moth』にも再録される一曲目の「Blowing Kisses」は、彼女/彼らが固有の至福の感覚、ユーフォリアに手をかけた瞬間だろう。パンキッシュに失踪するリズムの感覚が、The Pains of Being Pure at Heart以降に再導入された、インディー・ポップ的な感性によるコード進行と、旋律と同期しながら進行する清々しい甘さは、その後の作品にも通底している。

「Moth-Eaten Memories」で更に加速するシングルは『Moth』へのプレリュードと呼べるだろう。速度と性急、甘さと多幸がリスナーの精神に突き刺さる叙情としてひらかれ、ダーティーなギターの音響も感情を揺らす。美しいシングルである。

そして、2012年に記念すべき1stアルバムであり金字塔である『Moth』がリリースされる。

2. 代表作『Moth』について

開幕として、「Starlight, Starlight」で始まる瞬間は、2010年代というディケイドの初期におけるシューゲイザーの最も美しい瞬間のひとつであり、生の時間の中で触れる音楽としてこの体験をできることが幸運であり、リスナーとして極めて喜ばしい体験だった。

まず一聴して分かる以前の作品との変化は、全体的に音響が澄んでいることだろう。夜の時間の中で、記憶について、愛について、存在についての随想をひらきつつ、星の光を隠喩として恋人に重ねながら、世界と自らの内面、美しく存在するものどうしが、美しく存在するものと自らが抱える憧憬が、重層的に展開される極めて純粋な言葉が、星の光という核になる絶対的な光の象徴としてのモチーフを軸にしながら、イノセンスと純潔、朧気な夜の光を想起させるギター・サウンドとヴォーカルの重なりと共に展開する美しい楽曲である。楽曲のコーラスに当たるパートでの叙情の濁流は、これ以前、これ以後のシューゲイザーを(ある程度)俯瞰しても類のないもので、シューゲイザーにおいて、美とイノセンスの重なりが極点に向かっていくことで強烈に美しい感情を表すことが可能であることを示すと共に、他のバンドにおける轟音のギター・ノイズはひとつの手段でしかないとさえ思える。

「This Love Will Lead You On」や「Emily」はペインズ直系の、胸に突き刺さる甘い感傷を展開するギター・ポップである。愛の言葉とギター・ポップ━━それはオーセンティックな、Sarah Recordsの頃から脈々と継承されてきた流れである。だが、彼女/彼らの音楽は夜を凝視している。星の光と愛戀を失わず、夜を回遊するように響く美しいギター・ポップである。「Emily」の美しさを支える一側面、いや、『Moth』の美しさとして、単純に悲しみや喜びを歌うのではなく、人間の複雑な、多面的な感情を音楽の中で提示していることを指摘できるだろう。「Starlight, Starlight」におけるコーラスの加速もそうで、「Emily」の感傷的なヴァース、憂鬱な間奏、また開かれていくコーラス、という楽曲構成もそうだ。人間と愛することは必然的に、強く、美しく紐付けられている。だが、その愛は直線的に成立するとは限らない。そこには紆余があり、成就があり、悲嘆があり、喜びがあり、明るさも暗さも、光も闇も紐付けられている。その愛の表現において、exloversは音楽史、シューゲイザー史に光る叙情と美の水脈である。愛情を交わすことにおいて必然的に生じる、定まった形を持たない、水のように震える傷を、美しい瞬間を、鮮やかなシューゲイザーに転化する。それはexloversの一つの本質だろう。

再録曲である「Just A Silhouette」「Blowing Kisses」を挟み、アルバムは「Unlovable」にたどり着く。静かな、フォーク・ミュージック的なギター・コードとヴォーカルがアルバムのテンポを変え、綺麗な感傷の空間を描き出す。「I Wish We’d Never Met」では、初期のエリオット・スミス的なインディー・フォークに回帰する。悲恋についての楽曲は、悲愴を淡さに転じる人間の、音楽の力学として、死と隣接するようなシビアさを裏に抱えながら、鮮やかに展開する。

アルバムは再録曲である「You Forget So Easily」「You’re So Quiet」「Moth-Eaten Memory」を展開し、作品は幕を閉じる。主なシューゲイザーが遠景の美しいものを表しているなら、exloversが表しているのは夜の向こう側、愛と追想、美しいものの向こう側にある澄んだ感情である。そのリリシズムは愛の表現、愛の震え、愛の実体と浮遊を表している。

exloversにおける、もしくは彼女/彼らが触れている愛は、ラブソングとして語られる愛でも、破綻についての簡単な言明でもない。多層性、多面性、その重なりが美しいこと、喪のような失うことの感傷、愛が必然的に激情を抱えること、それが夜の情景や、星の光と重なるような美を持っていること、などと言明できるだろう。そして、その向こう側にあるイノセンス━━死と隣接しているが、でも多幸である美と感情、愛と感傷の彼岸に彼女/彼らはいるのではないか。それが「Starlight, Starlight」における叙情の速度の内実ではないか。

愛の美しさ、愛の複雑さから生まれるexloversの作品やライブはシューゲイザーの愛好家の琴線に触れることは間違いないだろう。体験していただけると筆者としても喜ばしく、強くおすすめしておきたい。

■ exlovers Japan Tour 2023

東京公演 DAY1
2023年10月16日(月)
@新代田 FEVER
OPEN 18:30 / START 19:00
ADV ¥6,900 / DOOR ¥7,400(+1D)
[Acts]
exlovers
GUEST:cattle / Luby Sparks
[DJ]
UEDA
[Ticket]
e+ / Livepocket

東京公演 DAY2
2023年10月18日(水)
@代官山 UNIT
OPEN 18:30 / START 19:30
ADV ¥6,900 / DOOR ¥7,400(+1D)
[Acts]
exlovers 
GUEST:No Buses
[Ticket]
e+ / Livepocket

大阪公演
2023年10月19日(木)
@東心斎橋 CONPASS
OPEN 18:30 / START 19:00
ADV ¥6,900 / DOOR ¥7,400(+1D)
[Acts]
exlovers 
GUEST:Lucie, Too / Wallflower
[DJ]
DAWA(FLAKE RECORDS)
[Ticket]
e+ / Livepocket

名古屋公演
2023年10月21日(土)
@鶴舞 DAYTRIP
OPEN 17:00 / START 17:30
ADV ¥6,900 / DOOR ¥7,400(+1D)
[Acts]
exlovers
GUEST:BLUEVALLEY / polly
[Ticket]
e+ / Livepocket

お問い合わせ:
Twitter:@tomorrow_event
Instagram:@tomorrow_music
Email:tomorrow_herose@yahoo.co.jp

Author

鴉鷺
鴉鷺Aro
大阪を拠点に活動する音楽ライター/歌人/レーベル主宰者。Sleep like a pillowでの執筆や海外アーティストへのインタビューの他、遠泳音楽(=Angelic Post-Shoegaze)レーベル「Siren for Charlotte」を共同オーナーとして運営し、主宰を務める短歌同人「天蓋短歌会」、詩歌同人「偽ドキドキ文芸部」にて活動している。好きなアニメはserial experiments lain、映画監督はタル・ベーラ。