Posted on: 2023年1月26日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

NYのノイズ・トリオで、ペダル・メーカーのDeath by Audioのボスでもあるオリヴァー・アッカーマン(Vo. Gt.)率いるA Place To Bury Strangersが、2022年11月に久々の来日を果たした。ジョン・フェドウィッツ(Ba.)とサンドラ・フェドウィッツ(Dr.)という新たなメンバーを携えたAPTBSのステージは、ほとんど狂気の沙汰だった。そこへ迎え撃ったTokyo Shoegazerとオープニング・アクトのCIGARETTE in your bedの2組。11月17日、この日の高円寺HIGHは、間違いなく人生最高の空間になっただろう。

文=對馬拓 
写真=井上恵美梨 

* * *

01 / CIGARETTE in your bed

サイジョウカズヤ(Gt. Vo.)
Chihirö(Ba.)
ジョセフ(Dr.)

このとんでもない日のオープニング・アクトとしてトップバッターを託されたCIGARETTE in your bedは、想像を軽々と超える爪痕を深く残していった。とにかく執拗なまでにアーミングを使い倒す演奏スタイルは、My Bloody Valentineの曲名を冠したバンド名に相応しくシューゲイザー直系の文脈と言えるものに思えるが、ヴィジュアル的にはゴスの要素も強い(アートワークのデザインもどことなくThe Cureの影響があるように感じたりする)。

特にChihirö(Ba.)の存在感によって、UKから受け継がれ日本の地で変容を遂げたシューゲイズという印象を強めており、興味深い。ドラムは中央前方でシンバルが高く設置され、プレイもダイナミックだ。そこへシューゲイズ的でありながら、グランジの香りをまとったアグレッシヴなギターが加わり、スリーピースとは思えない厚みのある音が迫ってくる。先述したアーミングなど先人からの影響やリスペクトを感じさせる一方で、自らのオリジナリティも色濃く提示されていた。

ラストの「tomorrow」では大音量のフィードバック・ノイズで音の壁が出現。お構いなしに轟音を撒き散らしてステージを去っていく様が爽快だった。わずか4曲ながら、オープニング・アクト以上の役割を果たし、最高の形でバトンをが渡されていったのだった。

CIGARETTE in your bed / setlist

1. Nothing
2. Don’t touch me, I’m sick
3. I wish
4. tomorrow

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02 / Tokyo Shoegazer

ササブチヒロシ(Dr.)
渡辺清美(Gt.)
菅原祥隆(Gt.)
さはら(Vo. Gt.)*Support
本間智行(Ba.)*Support

まず転換の際に巨大な要塞のようなボードがステージに運び込まれ、一体どんな轟音に包まれるのだろうと否応なしに期待が高まった。そして当然、期待していた以上の体験が我々を待っていた。この日は2人のアディショナル・ミュージシャンを迎えた5人編成で、さらにVJ Boriによる映像美も同時に展開。観客をここではない、遥か遠くの彼岸へといざなったのだった。

5人による厚みのあるアンサンブルには、独特の温度感があった。何もない、真っ白な雪原に突然放り出されるような冷徹さと、豊かな緑と優しい太陽光に抱擁されるような温かさ、その両方があった。曲間がシームレスに繋がることでライブ全体が組曲のようになり、森羅万象を描き出すかのようなサウンド・スケープが展開されていく。もしかすると、Tokyo Shoegazerにとって音を奏でるというのは、架空の風景を現出させる行為に近いのかもしれない。東京という街で幻視する、遥かなる原風景。それは即ち東京で俯いて見る夢だ。

終始、轟音とその中で灯火のように揺らめくハイトーン・ヴォイスを響かせ、ラストの「Destroy」で臨界点に達した。数分間に及ぶノイズ・ビットはMy Bloody Valentineのそれに引けを取らない。初めは「この轟音空間から一生出られないのでは」という恐怖感こそあったが、気がつけば「一生閉じ込められていたい」という願っている自分がいた。

Tokyo Shoegazer / setlist

1. DEEP RAINBOW
2. Just Alright
3. The Dreamer
4. Constellations
5. Waltz Matilda
6. Open Air
7. Tasogare Perspective
8. Destroy

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03 / A Place To Bury Strangers

Oliver Ackermann オリヴァー・アッカーマン(Vo. Gt.)
John Fedowitz ジョン・フェドウィッツ(Ba.)
Sandra Fedowitz サンドラ・フェドウィッツ(Dr.)

人生最高の日というのは、果たしてどんな日だろうか? 何を言っているのかよく分からないかもしれないが、答えは“ここ”にあった。公演前のインタビューでは笑顔が終始絶えず穏やかな空気が流れていたが、ステージに上がった3人は嘘みたいに豹変した姿を見せた──特にオリヴァーはその大きな身体でギターをぶん回し、別の人格が憑依しているようにも思えた。

オリヴァーはずっと狂気じみた様子で(インタビューでも「俺たちは薬中みたいなものでね」などと言っていた)、自分の意思/意志というよりは巨大な力によって突き動かされているかのようだった。ジョンはそれが普通ですみたいな態度でひたすら歪んだ低音をはじいていたし、サンドラは恍惚的な表情を浮かべてドラムを叩き、この時間を心底楽しんでいるようだった。

その勢いを増幅させるようにライブは突き進み、3曲目「Never Coming Back」でオリヴァーは早くもクライマックスだと言わんばかりにギターをステージに打ちつけ始めた。この時点でギターは既に楽器というよりは、ノイズをただ放出する装置、もしくは死んだ木の塊でしかないようにも思えた。

背後にはグリッチノイズ混じりの妖しげな映像がひたすら流れており、自分の目も耳も得体の知れない液体とか触手とかに侵食されてしまうような感覚に陥った。人間の本能の、特に性的な部分に深く訴えかけてくるような、非常に危険な空間にこの身が晒されている。これはいけない。

オリヴァーはひとしきり暴れた後、4曲目「We’ve Come So Far」が始まる時にギターを置いたので少しホッとしたが、新たに持ち替えたギターもボディの半分が大きく欠けており、こいつも過去のステージで散々にやられたんだろうなと想像すると笑えてきてしまった。この時、自分は間違いなく笑顔になっていたが、そのマスクに隠れた表情はこわばっていたと思う。恐怖から来る笑顔だ。

つまり壊されたのはオリヴァーのギターだけではなかったのだろう、同時に我々の中の何かが破壊され、瓦解していったのだ。そしてドラム・セットさえも解体され、前へ出てきたサンドラは立ったまま、満面の笑みでスティックを振り下ろしまくっている。デザインされた日本的な美しさがあるのがTokyo Shoegazerの音楽だとしたら、APTBSは本能的/破壊的な衝動の中に美しさを見出そうとしている、とでも言うべきか。両者のアプローチは真逆で、そのコントラストに目眩さえ覚えた。

この異常空間に身を委ねていると感覚が麻痺し、全てが快楽になっていく(ように錯覚していく)。ラスト2曲「Deeper」「Have You Ever Been in Love?」では横一列に並んだ3人が、轟音と共に覆い被さってくる。そういやオリヴァーのペダル・ブランドはDeath by Audioという名前だったことをここで思い出す。我々はただ、APTBSにされるがまま、それを喜んで受け入れるのみだった。

A Place To Bury Strangers / setlist

1. Dragged in a Hole
2. Alone
3. Never Coming Back
4. We’ve Come So Far
5. Lost Feeling
6. Missing You
7. Ringing Bells
8. End of the Night
9. I Lived My Life
10. Deeper
11. Have You Ever Been in Love?
En. Ocean