Best Shoegaze Albums 2021 / Top 30
■ 30. Fleeting Joys – All Lost Eyes and Glitter
only forever recordings
2021/11/27
カリフォルニアを拠点に活動する、ジョンとロリカのローリング夫婦によるシューゲイズ・ユニットの4thアルバム。2019年の前作『Speeding Away to Someday』で長い沈黙を破り完全復活を遂げたのも記憶に新しいが、これまでに比べれば短いスパンで出されたアルバムは既に異なるベクトルを向いていた。轟音など「らしさ」を残しつつ、より歌を聴かせようとする姿勢、さらにはよりダウナーな方向性が見られるのだ。おそらくパンデミックが本作に影を落としているのだろうと推察するが、それ以上にMBVフォロワー的ポジションには決して甘んじないという気概すら勝手に感じてしまう。中堅以上のキャリアを誇りながら──否、だからこその新たなアプローチと、いぶし銀の輝きを放つ重要作。(對馬)
■ 29. re:lapse – re:lapse.ep
DREAMWAVES
2021/09/08
2019年結成、東京を拠点に活動する4人組の1st EP。再生するや否や、揺蕩うような至上のシューゲイズ・サウンドが耳へと流れ込むオープナー・トラック「f」がとにかく圧巻で、ゆったりと前進するドラムと淡く輪郭がぼやけたヴォーカルも相まって、リスナーを「ここではないどこか」へと運んでいく。さながらオリジナル・シューゲイザーを現代的なセンスで蘇らせたかのような緻密なサウンド・デザインが印象的だが、この感覚はメンバーにグラフィックデザイナーが在籍しているという事実も作用しているのかもしれない。既に破格のスケールを感じさせる、記念すべきデビュー作。(對馬)
■ 28. My Lucky Day – All Shimmer in a Day
TESTCARD RECORDS
2021/03/03
熊本出身のシューゲイズ・ポップ・バンドによる1stアルバム。シューゲイザー周辺のリリースが充実するTESTCARD RECORDSより。軽快にかき鳴らされるノイジーなギターや、甘酸っぱいメロディと透明感のあるヴォーカルが、夏の熱気を振り切る涼風のように颯爽と駆け抜けていく内容で、2021年の同レーベルの中でもとりわけ印象深かった。まさに『Sunny Sundae Smile』期のMy Bloody ValentineやThe Pains of Being Pure at Heartを受け継ぐ、あまりにも眩しいシューゲイズ・ポップを鳴らす渾身のデビュー作。ちなみに本作のエンジニアには同郷のバンド、talkのKensei OgataとJun Kawamotoが参加している。
■ 27. For Tracy Hyde – Ethernity
P-VINE
2021/02/17
東京を拠点に活動する5人組シューゲイザー・バンドの4thアルバム。毎作挑戦と変化を続けてきたバンドは、今作ではグランジやスロウコアを参照したヘヴィーなシューゲイザーを制作している。今までの作品の延長線上、もしくは進化の過程にあるような「Just Like Firefly」、リリックが特に美しい「Interdependence Day Part 1」、Nirvana「Heart Shaped Box」のシューゲイザー以降の優れた再解釈と言える「Chewing Gum USA」、個人的に白眉と考えるヘヴィー・シューゲイザーの名曲「ヘブンリィ」など、現時点での最高傑作と呼べる楽曲が並び、シューゲイザー史上の美しい到達点と言うべきアルバム、と個人的に捉えている。言うまでもない名盤。(鴉鷺)
■ 26. MOXPA – Огнём природа обновляется всецело
† ИЗЫДИ RECORDS †
2021/10/18
ロシア・サンクトペテルブルグを拠点に活動するブラックゲイズ・バンドの1stアルバム。彼らの音楽を特徴付けているのはシューゲイザーとブラックメタルのみならず、ポスト・パンク、特にデス・ロックと呼ばれる一連のバンドの影響を取り込んでいる点だろう。思想的な部分を見るとジャケットにも表れている通りオカルティックな側面が色濃いが、邪悪で呪詛の籠った作風ではなくある種の清々しさを感じさせるのは、極度に知的で思弁性の色濃い音楽だからだ。今年のブラックゲイズの中でも特に気に入っている一枚で、この作品がお気に召した方は是非† ИЗЫДИ RECORDS †の他のバンドの作品もご一聴されたい。(鴉鷺)
■ 25. BLOOD PICK ME – BLOOD to BLOOD
ROPPONGI KILLS
2021/05/28
東京を拠点に活動するオルタナティヴ・ロック/ヘヴィー・シューゲイザー・バンドの2nd EP。前作『CODE:001』が美しい轟音と毒に満ちた凄まじいEPで、今作に強い期待を持って臨んだが、当然ながら裏切られるはずはなかった。1曲目「Blood to Blood」からTHE NOVEMBERSとBorisがSonic Youthを中心に融解したかのような圧倒的な内容が提示されており、『Goo』期を特に連想させるパンキッシュな3曲目「I.N.U」も凡百のバンドを蹴散らす出来だ。そして最終曲「Black Night Ride」までBPMは落ちることなく、審美的な轟音と洒脱でモダンなヘヴィー・ロックのセンスが躊躇することなく発揮されている。(鴉鷺)
■ 24. Still Dreams – Make Believe
Elefant Records
2021/04/16
大阪を拠点に活動する夫婦シンセポップ・ユニットによる、名門Elefant Recordsからの記念すべきデビュー作。New OrderやThe Human Leagueといったテクノ〜シンセポップの先駆者をはじめ、My Bloody ValentineやThe Pains of Being Pure at Heartなどのシューゲイザーをもリファレンスに、持ち前のポップセンスを遺憾なく発揮し快楽指数の高いドリーミーなシンセポップとして提示した充実のアルバム。日本のアニメ(主にセーラームーン)からの影響を感じさせるジャケットは、タイの新進気鋭のイラストレーター、Kannutsanan Khemthongによる描き下ろし。(對馬)
My Best Shoegaze Vol.3/Ryuta Wachi(Still Dreams)の5枚
■ 23. Señor Kino – Aurora Boreal
Self Released
2021/06/04
メキシコ・エルモシージョ出身の5人組、Señor Kino(セニョール・キノ)の4thアルバム。ほのかにサイケの香りが漂うローファイな音像のインディー・シューゲイズと男女ツイン・ヴォーカルが詰まった至極のアルバムで、近年ではPeel Dream MagazineやUlrika Spacekといった現行サイケ周辺のバンド群とも呼応する印象。どこか浮ついたシンセと気怠げなヴォーカルから始まり、厚みのあるシューゲイズ・ギターへと流れ込んでいく「Plantita」は本作を象徴するナンバー。ちなみに、ベース/ヴォーカルを務めるCarolina Enríquezは今年アルバムをリリースしたMargaritas Podridasのメンバーを兼任している。(對馬)
■ 22. Sicayda – Sicayda
The Blog That Celebrates Itself Records
2021/01/08
カナダ・オンタリオ州を拠点に活動するへヴィー・シューゲイザー・バンドによる2nd EP。彼らが掲げる通りグランジ、特にAlice in Chainsのスケールの大きいサウンドをリファレンスに置いている優れて強烈なシューゲイザーで、今年のへヴィー系シューゲイザーの中でも珠玉の出来と言える。ロック・ミュージックのクリシェから洒脱に逸脱しつつ、Nirvanaのような静寂と轟音を行き来する辺りにもグランジの影響が伺え、SOUL BLINDと並んで今年のグランジ・シューゲイザーのベスト・アクトではないだろうか。スローな展開からヘヴィーな音楽に引きずり込む「Deeper In」からアップテンポな「Stuck」まで息も付かせぬ一枚。(鴉鷺)
■ 21. Sugar House – Surface
WAREHOUSE TRACKS
2021/11/10
2019年結成、東京を拠点に活動する4人組インディー・ロック・バンドの1st EP。不穏な空気感と鋭さを纏いながらも時に清涼感を醸し出すサウンドは、「ポスト・パンクを吸い込んだDIIV」とでも形容すべきだろうか。全4曲ながら完成度が高く、特に「Disappears」はシューゲイザーとポスト・パンクのクロスオーバーとして近年の海外のシーンとも共振する印象だ。メンバーの佇まいも既に様になっており、今後海外を含め躍進していくことは想像に難くない。ちなみに本作のリリース・ツアーではTAWINGSとも共演、納得の対バンである。(對馬)
■ 20. Blankenberge – Everything
Self Released
2021/11/14
2017年に圧倒的名作『Radiogaze』でその名を知らしめたロシア・サンクトペテルブルク出身のバンド、Blankenberge(ブランケンベルヘ)の3rdアルバム。マス・ロック〜ポスト・ロックを当たり前のようにポップ形式の曲に取り込めるロシアンゲイザー独特の肌感覚と、アンビエントなギターのバランスがピカイチという特徴のバンドであるが、持て余し気味だった才能が今作では終始手のひら上で扱われ続けており、横を見渡せば轟音のセンスが頭一つ抜けることとなった。特有の音、特有のリズムがぼんやり存在している。形式を一度習得することによって逸脱することに成功した彼らは、ついにBlankenberge印のシューゲイザーを確立させたと言っても過言ではない。(鈴木)
■ 19. SOUL BLIND – Third Chain
Other People Records
2021/09/16
NYを拠点に活動するグランジ・シューゲイザー・バンドの2nd EP。筆者はこのEPがとにかく好きだ。理由は言うまでもなくグランジの、遺産と呼ぶにはまだ早いサウンドと思想を完璧に継承しており、それをシューゲイザーという音楽の中で完璧に表現してみせているからだ。大陸的な乾いたシューゲイザーとしてDrop Nineteensなどの優れたバンドたちにならぶ水準の作品と言えるし、美しく歪んだサウンドの完成度はマスターピースと呼ぶに相応しい。90’sオマージュのジャケットも素晴らしいし、彼らの音楽を聴いていると必ずしもリバイバルという動きはモードと連動して起こるのではなく、個の強烈な創意でも可能なのだと理解させてくれる。(鴉鷺)
■ 18. Softcult – Year of the Rat
Easy Life Records
2021/04/16
カナダを拠点に活動するシューゲイザー・バンドの1st EP。メンバーはポップ・パンク・バンド、Caurage My Loveとして既に10年のキャリアを持っている。楽曲もサウンドもゴスで完成度が高く、EP以前のシングルを一聴して心を奪われたのが記憶に新しい。「Music for Mall Goth」とバンドが掲げている通り、全編を通してゴシックなテイストを抱えてはいるがどこか親しみやすく、隣接するバンドとしてNiightsが挙げられる。90’sオルタナティヴ・ロックの影響も色濃く、シューゲイザー流のモダンなアップデートという趣も共通項だろう。来年リリース予定のアルバムが楽しみで、話題を集めることは間違いない。(鴉鷺)
■ 17. Cathedral Bells – Ether
Spirit Goth Records
2021/01/29
アメリカ・フロリダ州発、You Blew It!などのメンバーとして知られるMatt Messore率いるシューゲイザー/ドリームポップ・バンドの2ndアルバム。リヴァーブがもたらす幻想性を最大限に引き出したような音像は深い陶酔感をもたらし、極端にエコーのかかったヴォーカルはアンサンブルの一部かのように溶け込んでいく。全体的にゴシック/ポスト・パンク調でもあり、どこか現実味のない平面的なリズムからはコールドウェイヴの手触りも感じられる。情報過多な日常生活で知恵熱を患い気味になった頭を鎮める冷却装置として遺憾なく力を発揮する、至上のドリームゲイズ。10月にリリースされた、より肩の力が抜けた印象のシングル「I Don’t Care Anymore」とも合わせて聴きたい。(對馬)
■ 16. Optloquat – From the shallow
DELTAHEDRON / Jigsaw Records
2021/07/07
東京を拠点に活動するシューゲイザー・バンドの1stミニアルバム。ドリームポップと呼ぶべき優れたシングル群を制作してきた彼らが次の一手として打ち出したのは、今までの制作の経歴が伺える、澄み切ったヘヴィー・シューゲイザーだった。邦ロック的なドラマ性、シューゲイザーとして単純に美しい轟音、隅々までこだわり抜かれた楽曲のアレンジ、清々しいリリックなど聴き所がいくつもあり、何度聴いても飽きないアルバムであると共に今年の国産ヘヴィー・シューゲイザーの突端として捉えて間違いない作品と捉えている。機会があればライブで聴いてみたい、というのは筆者の個人的な願望である。(鴉鷺)
My Best Shoegaze Vol.10/Ryo(Optloquat)の5枚 My Best Shoegaze Vol.13/うぃる(Optloquat)の5枚
■ 15. Mazeppa – Mazeppa
Self Released
2021/02/10
イスラエル・ハイファを拠点に活動する4人組シューゲイザー・バンドの1stアルバム。全体を覆う空気感や音像は確かにシューゲイズ的ではあるが、注意深くエッセンスを抽出すると、サイケやプログレ、ポスト・パンク、果てにはポエトリーリーディングやダブ/レゲエなど、とにかく様々な要素が溶け込んでいる。それらを4ADとも通ずる耽美的なセンスと中東を想起させるエキゾチックなニュアンスによってきめ細かいテクスチャーを構築しており、デビュー作としてはあまりにも破格。今や数多の他ジャンルとクロスオーバーするシューゲイザーの象徴的なアルバムであり、この作品を聴かずして今後のシューゲイザーを語ることすら拒んでしまうような強度を誇る怪作/快作。(對馬)
Mazeppa – Mazeppa(2021)
■ 14. polly – Pray Pray Pray
14HOUSE.
2021/12/11 ※会場限定先行リリース
関東を拠点に活動する4人組の3rdアルバム。自主レーベルを立ち上げ、過去曲のリビルドや喜怒哀楽を率直に表現することで再出発を印象付けた前作『Four For Fourteen』から約1年、彼らは既に新しい地平に辿り着き、音楽を自らのものとしていることが窺い知れる。特にドラムに顕著な音の立ち上がり方の良さ、美しいメロディとハイトーン・ヴォイス、洗練されたストレートに響く歌詞、全編を貫くメッセージの普遍性、そして北欧やシューゲイズへの愛──どこを切っても素晴らしく、自他共に認めるキャリア史上最高傑作と呼んで相違ないだろう。グレッグ・カルビとスティーヴ・ファローンによるマスタリングも大きく功を奏している。今のpollyを聴かない手はない。(對馬)
polly『Pray Pray Pray』インタビュー 漠然と生きられない時代に越雲龍馬が紡ぐ、等身大の言葉と希望
■ 13. cursetheknife – Thank You For Being Here
New Morality Zine
2021/05/28
アメリカ・シカゴを拠点に活動するヘヴィー・シューゲイザー・バンドの1stアルバム。NothingとNirvanaへの愛に溢れたアルバムで、彼らへの回答とも言えるし、ヘヴィー・シューゲイザーの一つの突端とも言えるだろう。冒頭の明らかなNirvanaへの愛情の表明である「Feeling Real」から心を掴まれるし、「In Dreams」はヘヴィー・シューゲイザー流のMy Bloody Valentine「To Here Knows When」への美しいオマージュだ。全編を通してグランジへのリスペクトが伺え、強く歪んだギターが保証する叙情、つまり激情の強固な結晶化としての音楽は2021年のこの周辺の音楽の中でも一際輝く至宝だろう。(鴉鷺)
■ 12. White Flowers – Day By Day
Tough Love Records
2021/06/11
UK・プレストン出身の男女ドリームポップ・デュオによるデビュー・アルバム。1月にリリースされたEP『Within A Dream』の時点で既に確立されていたスタイルをフルレングスで展開、淡々と鳴らされる荘厳なモノクローム・サイケデリアが呼吸を忘れるほど美しい作品。近年のサウス・ロンドンに代表されるような、現行ポストパンク勢が内包する性急さと熱量を永久凍土の下に封印し、そこからゴシックの要素だけを抽出したかのような冷気を帯びたサウンドは、さながら「体温を完全に奪われたCocteau Twins」とでも言うべきだろうか。ダークサイドのドリームポップとして語り継がれるべき名盤。(對馬)
■ 11. STOMP TALK MODSTONE – Linger In Someone’s Memory With A Lurid Glow
Gezellig Records
2021/01/22
東京を拠点に活動するシューゲイザー・バンド、STOMP TALK MODSTONE(ストンプ・トーク・モッズトーン)の最新アルバム。90年代からニューゲイザーを経て現在に到るシューゲイザーの長い歴史を俯瞰した上で採取、再解釈、再構築を行い、その上で自分たちの音楽として展開した、と書いても簡単過ぎるような奥行きと完成度、審美と陶酔に満ちた今年の国産シューゲイザーを代表すると言っても過言ではない作品。特有の澄んだ音像、構築度の高い楽曲、旧作への原典を超えるオマージュなど聴き所が各所にあり、個人的に何度も聴き返した作品でもある。例えば「You Should Know」でのMBV「To Here Knows When」への美しいオマージュは、シューゲイザーの歴史に記録されて然るべきだろう。(鴉鷺)
■ 10. sonhos tomam conta – wierd
Longinus Recordings
2021/03/23
ブラジル・サンパウロを拠点に活動するソロ・ブラックゲイズ・プロジェクトの1stアルバム。二進数のエーテルの中を幻想のサウンド、ブラスト・ビート、デス・ヴォイスと共に疾走する優れたブラックゲイズ、と一言で書くのは片手落ちだろう。彼の音楽はインターネットという体験以降の身体性の希薄化やヴェイパーウェイヴ的な文明批評、昨今のヘヴィー・シューゲイザーの潮流であるメンタルヘルスの問題への指摘、もしくは個人的な吐露やパスティーシュの否定としての多様な体験の昇華、それに加えて楽曲の優れた美しさがある。決して単なるナードによるブラックゲイズではない。今後も彼の活動を注視したい。(鴉鷺)
sonhos tomam conta – wired(2021)
■ 9. Lunarette – Clair de Lunarette
Baby City Records / Topshelf Records
2021/03/19
NYのインディー・ポップ・バンド、Gingerlys(ジンジャリーズ)のメンバーによって結成されたLunarette(ルナレッテ)のデビューEP。打ち込みのような淡々としたリズム・パターンの上を幻想的なギターとドリーミーなヴォーカルが流れていく「Austin St.」を筆頭に、ダンサブルで風通しの良いシンセポップ・シューゲイズを存分に堪能できる一枚で、フルレングスのリリースを否応なく期待してしまう。『PORTAL』期のGalileo Galileiがそのまま作品をリリースしていたら──というパラレル・ワールドのサウンドとしても機能する(?)名EP。(對馬)
■ 8. butohes – Lost in Watercycle
Self Released
2021/06/16
東京発の4人組、「暗黒舞踏」をバンド名の由来とするbutohes(ブトース)。本作は国内外のポストロックやエモ、シューゲイザー、アンビエントなどの要素を昇華した低体温のサウンドでシーンをざわつかせた記念すべき1st EP。潮風のように流麗なギターと縦横無尽なリズム隊が織りなすアンサンブルの跳躍、そして響きを重視した散文的かつ幻想的な詞作。それらが絶妙なバランスで共存し、本能レベルで脳に快楽物質を発生させる一枚。水のように冷ややかな音像ではあるが、その中には確かな熱量、あるいは闘志のようなものが宿っており、現にライブを観てそのアグレッシヴな一面を目の当たりに。ここまで心を鷲掴みにされた音楽は久しぶりだった。現在制作中という新作も待ち遠しい。(對馬)
■ 7. Slow Crush – Hush
Church Road Records
2021/10/22
ベルギーを拠点に活動するヘヴィー・シューゲイザー・バンドの2ndアルバム。グランジ・シューゲイザーとして至高の1stアルバム『Aurora』で周辺のリスナーの耳目を集めた彼らの新作はこちらの想像を上回る、異次元もしくは新しい地平を展望する作品だった。グランジ/パンク的な直情の楽曲展開が冴え渡っていた1stと比較すると、明らかに耽美的、審美的な方向が志向されており、楽曲展開に芸術上のドラマを持ち込んだ事も伺える。彼らのルーツにはシューゲイザーと共にグランジがある。耽美的な志向がシューゲイザー由来のものだとすると、そのドラマティックな展開は恐らくグランジのダイナミズムに寄る所が大きいのだろう。(鴉鷺)
■ 6. plant cell – Nature Reserve
Self Released
2021/08/29
花、植物、自然風景を題材にした「FLOWERGAZE」をコンセプトに掲げて活動するシューゲイザー・バンド、3年ぶりとなる2ndアルバム。アイスランドのホーンストランディア自然保護区(Hornstrandir Nature Reserve)をヒントに制作されたという本作では、北国の荘厳ながらも美しい大自然の情景を想起させる音像を追求している。深度のある重層的なアンサンブルは極寒のブリザード、その中に溶け込み輪郭を失う寸前のヴォーカルはさながらシュプールのようだ。なお、本作には客演として「Evergreen Road」にシンガーソングライターのLiélla、「Wind & Wing」にはあみのずの紺野メイがそれぞれ参加し、華を添えている。(對馬)
■ 5. The Florist – IN CVLT
PCI MUSIC
2021/11/24
東京を拠点に活動するシューゲイザー・バンドの3rdアルバム。The Floristの音楽は審美的だ。1st、2ndを聴いても審美眼が高く、独創的な美学を持つバンドであることは明らかで、その点に疑いを挟むリスナーは居ないと思われる。そして今作、彼らはヘヴィー・シューゲイザーを志向し始め、美しく叙情するポップ・センスはそのままに、シリアスで強靭なサウンドを獲得した。例えばTHE NOVEMBERS『Hallelujah』のような濁りやダーティな所が一切ないヘヴィー・シューゲイザーの作品と並置して語ることもできるだろうが、無二の地平に居る、というのが正しい所だと捉えている。(鴉鷺)
■ 4. Submotile – Sonic Day Codas
MotileRev Records
2021/04/09
アイルランド・ダブリンを拠点に活動するエモ・シューゲイザー・バンドによる待望の2ndアルバム。やはり彼/彼女らの音楽の駆動力、つまり音楽を前進させる力は途方もなく強い。それは清廉なギターの轟音や手数が多くドライブするドラムによる所が大きいのだろう。そして、もう一つ挙げられるのは明らかに既存のバンドとは異質なその叙情だ。澄んでいる、という表現では片手落ちだろう。新たな地平、誰もまだ見たことのない美しい光景、幻想のその先の開けた展望であり、シューゲイザーが宿命として抱え込んでいる対岸を見つめること、その対岸に在るのがSubmotileの音楽ではないだろうか。3rdアルバムと共に来日公演を待ちたい。(鴉鷺)
■ 3. Deafheaven – Infinite Granite
Sargent House / Daymare Recordings
2021/08/20
サンフランシスコの5人組が5thアルバムで見せたのは、言わずと知れたブラックゲイズのパイオニアがデス・ヴォイスとブラスト・ビートを封印し、王道のシューゲイザーであろうとした姿だ。しかし、それはあまりに異様なポップソングの塊として完成している。LAのインディー・ロック・シーンで磨きあげたポップネスが前面に押し出されたことで、Deafheavenが魅力としていた構成のダイナミクスがさらに秀でて聴こえ、全く違うバンドのように聴こえるほどの意欲作であるにも関わらず、どの作品よりも「らしさ」を感じてしまう作品になっている。核となっているものは常に変わらない激情だ。ずっと彼らの躍進を支えてきたロック・ミュージックへの愛がついに表面的に認められたことにも幸福を感じずにいられない。(鈴木)
■ 2. Parannoul (파란노을) – To See the Next Part of the Dream
Longinus Recordings
2021/02/23
韓国のソロ・シューゲイザー・ユニットによる2ndアルバム。「何聴いてるの?」「リリイ・シュシュ」という岩井俊二監督作品『リリイ・シュシュのすべて』のサンプリングから始まる今作がシューゲイザーのリスナーを中心に注目を集め、Rate Your Musicなどで記録的なバズを見せたことは記憶に新しい。インタビューを参照するとエモ、グランジ、鬱ロック、そして言うまでもなくシューゲイザーを全て自身の美しい感性の中で再解釈したこの宅録によるヘヴィー・シューゲイザーの完成度、特にその強烈な叙情は稀有なものである。後日韓国で行われたオンラインフェスで収録曲のピアノ弾き語りによる未加工の演奏を聴いたが、素の歌声の美しさが伺えた。(鴉鷺)
青春の闇と光についてのサウンドトラック 파란노을(Parannoul)インタビュー 파란노을 (Parannoul) – To See the Next Part of the Dream(2021)
Best Shoegaze Album 2021 / 鈴木レイヤの1枚
■ Kraus – View No Country
Terrible Records
2021/10/22
アメリカ・テキサス州ダラスのウィリアム・クラウスによるソロ・プロジェクトの3rdアルバム。シーンに衝撃を与えた前作『Path』から4年を経て正統進化を遂げた。レーベルメイト、Shawn Marom率いるCryogeyserがギタリストとして参加しているが、影響は一切見えない。むしろメロディアスな作曲は全て置いてきたように聴こえる。今作も緻密に音を積み上げて造り上げた細かいギター&打ち込みサウンドと感情的なドラムの駆け引きで魅せることに変化はないが、轟音への探求がいくらも前進している。色濃く影響を受けていたWEEDらオルタナ系シューゲイザーのサウンドメイクも取り入れ、より一層音の境界はぼやけた。向こうで霞んで見える旋律が何を語っているのかは想像できない。(鈴木)
Best Shoegaze Album 2021 / 鴉鷺の1枚
■ Sadness – April Sunset
Self Released
2021/10/29
アメリカ・イリノイ州オークパークを拠点に活動するソロ・ブラックゲイズ・プロジェクトのアルバム。元々ブラックメタルへのある種の浄化を始点として抱えるブラックゲイズという音楽はこの15年で進化を続け、現在のシーンを見渡しても多様な音楽性が提示されている。その中でも異色であり、全く新しい叙情を抱える新しい芸術としての音楽を数多くのアルバムで提示し続けるのがSadnessである。エレクトロニカ的なギターの旋律、濁った部分の全くないデス・ヴォイス、強烈に美しい轟音など聴くべき箇所は無数にある。最終曲「Collar」で終焉を迎える審美の旅は、聴者の風景を一変させるに十分な音楽だ。(鴉鷺)
Best Shoegaze Album 2021 / 對馬拓の1枚
■ 揺らぎ – For you, Adroit it but soft
FLAKE SOUNDS
2021/06/30
関西〜関東を拠点に活動する3人組の1stアルバム。アトモスフェリックなサウンドと天上的なウィスパー・ヴォイスでシューゲイズ・シーンを席巻するバンドが約3年ぶりにリリースしたカムバック作は、シューゲイザーやポスト・ロックを想起させるサウンドを基調としながらも、エモやスロウコア、打ち込み、環境音などの新しい要素を貪欲に取り込み、自由に鳴らした会心のアルバムとなった。外部ミュージシャンとのコラボや共作などもバンド内に新たな風を吹かせており、動的/静的を行き来するアンサンブルのスケールの大きさを改めて提示。3年という期間でメンバーの鍛錬や研究の成果が開花し、より豊かになった表現力を見せつけた渾身の一枚。間違いなく2021年を代表する名盤だろう。(對馬)
揺らぎ『For you, Adroit it but soft』インタビュー 4人の心情と化学変化がもたらした自由なアルバム
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