Posted on: 2021年10月6日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

前作から実に4年──2021年10月6日、名古屋を拠点に活動する5人組シューゲイザー・バンド、softsurfが2nd EPとなる最新作『Returning Wave』をリリースした。

名古屋のシューゲイザー周辺のシーンといえば、溶けない名前を筆頭に、EASTOKLAB、me in grasshopper、The Rainy、mishca、Aysulaなどを思い浮かべるが、まさに真打の登場と呼ぶに相応しいサウンドを携え、softsurfは見事なカムバックを遂げた。

そう、カムバックである。2017年にリリースした1st EP『Into the Dream』が国内外で高い評価を得て、同作は今年刊行された『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』にも掲載されたのだが、ここ1年ほどはメンバーチェンジやコロナ禍などが重なり、バンドの活動自体は休止を余儀なくされていた。そんな苦しみを経てリリースされた『Returning Wave』は、沈黙期間を夢幻的なシューゲイズ・サウンドで終わらせる会心のEPだ。このタイミングで彼らに話を聞かない手はないだろう。

なお、今回のインタビューは昨今の情勢や物理的な距離を鑑みて、リモートで敢行。Nobuaki Kitamura(Vo. Gt.)、Yutaka Mukoda(Ba.)、そして新メンバーであるSatomi Kitagawa(Vo. Gt.)の三名を迎え、結成当時のエピソードやメンバーチェンジ、それぞれの音楽的背景、そして新作に至るまでの過程など、時間の許す限りたっぷりと話を聞いた。

インタビュー/文/編集=對馬拓

* * *

■ 1stも出ずに終わってた可能性も十分にあります

── 新作の話に入る前に、まずはsoftsurfというバンドについて掘り下げたいと思います。はじめに結成の経緯をお聞きしたいのですが。

Nobuaki Kitamura(Vo. Gt.):基本的には僕が立ち上げたバンドです。最初はsoftsurfではなくて、2014年くらいにシューゲイザー/ドリームポップをオリジナルでやりたいと思って結成したユニットがありまして。その時のメンバーは今と違う人なんですけど、結局そのユニットは作曲だけして、ライブはせずに半年くらいで頓挫してしまって。曲だけ残ってた状態だったので、ネット上でメンバーを募集して、それで集まったのがsoftsurfになりました。2015年の終わりくらいだったと思います。

Yutaka Mukoda(Ba.):初期メンバーだと僕が一番最後に入ったんですけど、確か2016年の2月とかだったので、その辺りが活動開始の時期ですね。

Kitamura:Yutakaさんは募集じゃなくて、初期メンバーのドラマーの方からの紹介で入ってもらってます。

── それまでYutakaさんは他の音楽活動をしてらっしゃったんですか?

Yutaka:softsurfに入る数ヶ月前まで別のバンドをやってました。ちょうど宙ぶらりんになってた頃に声がかかったので、とりあえず話を聞いてみようかなって。

Kitamura:後で聞いた話だと、当時Yutakaさんはバンド活動自体をやめようと思ってたらしく。

Yutaka:そうですね。笑 もうやらないかもな、と思ってました。

── そうだったんですね…!

Yutaka:ただ、知り合いのドラマーの方に声をかけてもらって、デモを聴いたらすごい良くて。それまではバンドに対する想いが強すぎて上手くいかないこともあったので、今回はもうちょっと肩の力を抜いてやってみたいな、という気持ちで加入しました。

Kitamura:にしては、前のバンドより色々とやっていただいてるかもしれませんね…。

一同:笑

Kitamura:Yutakaさんはポジション的に副リーダー的な部分もあるので、苦労もかけてるとは思います。でも、バンド活動をやめようと思ってたタイミングで入ってもらえたのは、すごく運が良かったなと。たまたま自分と同い歳っていうのもあったので、そういう面でもやりやすいし。あと、現状のメンバーで一番古株なのはMaruyamaさん(Yohei Maruyama/Gt. Cho.)で、Yutakaさんのちょっと前に入ってるんですけど、Maruyamaさんは前任のヴォーカリストの方の紹介です。当初はMaruyamaさんがベースを弾いたりしてて。でもさすがにギターが本職なので、それでYutakaさんに声をかけて…という感じです。

── 本当に巡り合わせというか、タイミングの賜物ですね。

Kitamura:それもありますし、(加入前の)Yutakaさんに聴いてもらったデモが、1st EP(『Into the Dream』)に入ってる「Blue Swirl」「Beautiful Day」「Dawn of the Sun」だったので、その3曲を作れたのがこうして加入してもらえた理由になったのかなと思いますね。

── その時点で、その3曲は既に存在してたんですね。

Kitamura:ユニット時代に作って、もうほとんど完成してるような状態でしたね。細かいアレンジは変わってるんですけど。(世に出ていなくて)もったいないと思ってたので、皆さんの力もあって(リリースに)漕ぎ着けることができて本当に良かったと思います。特に「Blue Swirl」は代表曲みたいになってくれたし。ありがたいことです。

Kitamura:Itoさん(Mitsuki Ito/Dr.)の加入に関しては…Yutakaさんを紹介してくれた前任のドラマーの方は、他のバンドでもバリバリやられてて。Yutakaさんも元々ファンだったくらい、ドラムのテクニックはすごく高かったんですよ。ただ、同期があまり好きじゃなくて、それで脱退してしまって。softsurfはシンセの音とかを同期で流したりするんですね。本当はキーボーディストがいれば良かったんですけど、シューゲイザーでキーボードをやる人ってあんまりいなくて、特に名古屋周辺だとそもそもシューゲイザーのバンドやるっていう時点で、ほとんど人がいない状態で。笑 それで、同期をドラムと一緒にお願いしたかったんですけど、一回だけライブでやって、もうやめたいって話になって。

── そんな事情が。

Kitamura:同期が好きじゃないっていうのはよく分かるんですよ。そんな中でドラマーを募集して、Itoさんに加入してもらいました。同期はやったことがなかったみたいなんですけど対応してくれてます。

── ドラマーが同期を好まないという話は初めて聞きました。そう感じるドラマーさんは意外と多いのでしょうか。

Yutaka:そうですね。基本的にバンドは、ドラマーに他の楽器隊が合わせるのが普通なんですけど、そもそもドラマーが同期のクリックに合わせる作業が必要になっちゃうし、なかなか自由なグルーヴが作れないと考える人もいて。

── なるほど…。

Kitamura:ドラマー側としては、自分がリズムやグルーヴを引っ張っていきたいという思いがあって、同期だとクリックに縛られる意識が強いみたいです。Itoさんも最初は難儀してたんですけど、次第に慣れて。今はむしろ同期のない曲でも逆にクリックがあった方が良いっていう。笑 おそらくItoさんなりに、クリックに合わせつつ自分のグルーヴも調整しながらやってるんだと思います。

── 同期が絡んだ問題というのは、ある意味シューゲイザーならではという部分もありそうなので、非常に興味深いですね。

Kitamura:ただ、そもそも同期を嫌がったり、あえて同期っぽくしないようにしてるバンドもいると思うので、うちみたいに同期をメインで出してるバンドはそこまでいないとは思います。数曲で同期を使ってるバンドはいますけど、うちはほぼ全曲やってるような感じなので。

── 言われてみると、確かにそれは少なそうですね。

Kitamura:そういう意味では、それがsoftsurfの特色かもしれないです。

Yutaka:もしミッキー(Itoの愛称)が入ってくれてなかったら、softsurfはあのまま解散してたかもしれないですね。

Kitamura:1stも出ずに終わってた可能性も十分にあります。笑

── それも巡り合わせですね…。

Kitamura:人間的にも波長が合うので、そこも良かったですね。あと、Itoさんは音楽的にもシューゲイザーというよりポストロックだったり、メインはジャズとかファンクの方が好きで。softsurfは元々、メンバーそれぞれ聴く音楽が割とバラバラなんですけど、そういう面でもバンドとしての方向性がまた広がったと思います。

■ 本当に奇跡的な巡り合わせなんですよ

── Satomiさんの加入はどうやって決まったのでしょうか。

Kitamura:僕からお誘いしました。2019年の冬くらいだったと思うんですけど、softsurfとは別で個人的にドリームポップのユニットをやりたくて、メンバーを募集する中でSatomiさんを知りました。ただ、急遽softsurfのヴォーカリストの方が脱退することになってしまい、Satomiさんを誘った結果、2020年の春くらいに加入してもらった、という経緯です。当初は「softsurfに入るのは気が引ける」って言ってたんですけど、Satomiさんのバンドのデモとかを聴かせてもらって、初めて聴いた時からsoftsurfにも合う声だなと思ってたので、ダメ元で声をかけました。本当はすぐに(加入を)発表して曲も作ってライブもして、って考えてたんですけど、なかなかこのご時世で…。

── Satomiさんはsoftsurf以前もバンドの活動をされてたんですね。

Satomi Kitagawa(Vo. Gt.):そうですね。今も一応活動してます。ただ、メンバーの子が引っ越しちゃったので、(名古屋方面に)帰ってくる時にたまに合わせるくらいの感じで。みんな名古屋にいた時はライブも少しやってたんですけど。最近は、昔のデモをオンライン上で作り直してます。

── ちなみにバンド名は?

Satomi:フユフユウです。以前きいろれこーずさんの『FOREVER SHOEGAZE 4』で一曲だけ(「Laziness」)参加したことがあります。

── そうでしたか…!

Kitamura:ちゃんと活動したら、かなり人気の出るバンドだと思いますね。

Yutaka:僕もSoundCloudとかで聴いてます。

Satomi:ありがとうございます。笑(※最新のデモ音源集はYouTubeでも配信中)

── 僕もフユフユウの今後が楽しみになりました。そんなSatomiさんの加入を経て、バンドにどんな変化がありましたか?

Kitamura:Satomiさんのヴォーカルによって、より理想的なサウンドになったと思ってます。フユフユウの活動もそうだし、元々シューゲイザーのバンドを色々聴いてるのもあって、シューゲイザーに対する造詣も深くて。「ここをこうしてほしい」っていう細かい指示もそんなにしてないんですよ。Satomiさんがデモを聴いてイメージしたものが、自分の理想的なイメージと大体合ってる、みたいな。声のトーンも透明感があって、シューゲイザーにすごくマッチしてると思います。

── その辺り、Satomiさん自身はどう感じていますか?

Satomi:加入の話を聞いた時、私も(softsurfの)名前は知ってたし、前の方と私で声質が全然違うので、イメージが悪くなってしまったらどうしよう…っていう葛藤があって。あと、ライブでの声の出し方に悩んでたのもあったり。シューゲイザー・バンドはギターの音が大きいので、やっぱり声がかき消されちゃって聴こえないことも多いんです。それで声を張っちゃうことで、自分が思ってたような歌じゃなくなって、ライブ後に一人で落ち込むことも多くて。だから大丈夫かな?っていう不安はあったんですけど…KitamuraさんもYutakaさんもすごい推してくれたので。笑

一同:笑

Satomi:自分のやりたいようにやってみよう、と思って加入しました。伸び伸びと歌わせてもらってるので「もっとこうしてほしい」っていうところがあったら全然言ってください。笑 あと、今はイヤモニで自分の声を聴いて練習してるので、どうやったら良い感じに歌えるだろう?っていうのは自分でも分かるようになってきました。softsurfに加入したことで自分のヴォーカルが良くなってると思います。

── それは素晴らしいですね。

Kitamura:イヤモニを使ってるのもうちの特色かもしれないですね。Satomiさんが仰ったように、特に女性のウィスパー・ヴォイスはシューゲイザーのライブだとかき消されるというか、PAでは出てたとしても、歌ってる本人は自分の返しの音が聴こえない、っていうのはよくある話で。他のバンドだと、溶けない名前はヴォーカル・エフェクターを使いつつイヤモニもしてるという話を聞いたり、そもそも同期をやる上でドラマー以外のメンバーもイヤモニをした方が良いのでは?ということで、その流れでSatomiさんにも勧めました。

── なるほど。これはライブが楽しみですね。

Kitamura:まだ(Satomiさん加入後に)ライブができていないのが本当に残念です。それこそ、やっぱり名古屋地方でシューゲイザーを知ってて、しかも歌える女性って全然いないので、本当に奇跡的な巡り合わせなんですよ。

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日本のシューゲイザー・シーンに触れて今に至った