Posted on: 2021年9月30日 Posted by: Sleep like a pillow Comments: 0

1991年にリリースされ、シューゲイザーの金字塔を打ち立てたMy Bloody Valentineの2ndアルバム『Loveless』。2021年で30周年を迎える本作を記念し、弊メディアでは「My Best Shoegaze」と題した特集記事を不定期で連載する。SNS上の音楽フリークやライター、さらにはアーティストに至るまで、様々なシューゲイズ・リスナーに各々の思い入れの強い作品を紹介していただく。

Vol.11は、シューゲイザーやポストロックなどに影響を受けた低体温のサウンドを鳴らすbutohes(ブトース)のフロントマン、Michiro Inatsugの5枚。

■ Kyte – Kyte(2007)

Label – Rallye
Release – 2007/10/20

シューゲイザーという音楽は、やり尽くされているようで全くの未開拓と言って良いでしょう。初期のKyteは所謂ニューゲイザーに分類されることがままありますが、シューゲイザーを咀嚼する者のアティチュードとして一部のそれらのバンドには大変な感銘を受けました。いちバンドマンとしてのごく個人的な見解ですが、シューゲイザーは必ずしも轟音に帰結しないと思っています。もちろんそういったサウンド・スケープの諸兄には並々ならぬ敬意を持っていますが、僕は全ての必然性が調和した音像を最もシューゲイザー的に感じます。Kyteは偉大な先達の手法や方法論を独自に消化し切ってみせました。暖かい氷のような音像を初めて知覚したのはこのアルバムでした。

■ Slowdive – Slowdive(2017)

Label – Dead Oceans
Release – 2017/05/05

不朽の名盤『Souvlaki』をはじめ、Slowdiveはとにかく大好きで日常的に愛聴しておりますが、アルバムとしての完成度はセルフ・タイトルが群を抜いているように思います。偉大なバンドの歴史の中で唯一リアルタイムに自分が体感できたリリースであるのも選定した理由の一つです。現代的なサウンドと緻密なレイヤーが飽和し、救済や抱擁の風体を感じるほどに優しく輝きます。この時代に彼らが音を鳴らす必然性が、アルバムを通じてありありと描写されているのです。この作品がリリースされた時には大変な勇気をもらいました。よく知るSlowdiveの新たな一歩として未だにセンセーショナルであり続けています。

■ The Radio Dept. – Clinging to a Scheme(2010)

Label – Labrador Records
Release – 2010/04/19

メランコリーで通底した耽美性を持つ『Pet Grief』の国内盤も特にボーナストラックが大好きでよく聴いていましたが、名曲「Heaven’s on Fire」票と後述の観点からこちら。The Radio Dept.は紛れもなくシューゲイザー的ですが、彼らは常に(特にリズムに対して)実験的です。時にアヴァンギャルドに、時に繊細に、シューゲイザーという括りすらも小さく感じるほどに縦横無尽です。シンセサイザーやヴォーカルの質感によってクラシック・シューゲイザーへのリスペクトを感じますが、シークエンスの綿密さやサウンドメイクの観点からも革新的です。おそらく相当幅広いジャンルと年代の音楽をリファレンスしていることでしょう。音楽に対する並々ならぬ愛とリスペクトを感じる一枚です。

■ Chapterhouse – Whirlpool(1991)

Label – Dedicated Records
Release – 1991/04/29

説明不要の名盤ですが、Chapterhouseは初期シューゲイザー・ムーヴメントにおけるどのバンドに対しても引けをとらないオリジナリティのあるバンドだと思っています。この『Whirlpool』は(特に同年代のシューゲイザーと比較すると)ドラムのアンビエンス成分がかなり強く、ロック的でアグレッシヴなのに全体の音像は優しくメロウに感じる不思議なアルバムです。(時にはサイケやクラブ・ミュージックの振れ幅を見せつつも)爽快なロックとメランコリーの調和の形態として、どのバンドよりも腑に落ちています。

■ Blonde Redhead – 23(2007)

Label – 4AD
Release – 2007/04/10

初めて聴いて以来ずっとオルタナティヴのスタンダードとなっています。執筆させていただいて改めて気づきましたが、僕のシューゲイザー観はかなりアティチュードに寄っているかもしれません。シューゲイザーであるということよりも、空間を支配する強烈な恣意性をシューゲイザー的で美しいと思うのです。彼らに関して言えば、国籍不明のインディー感の中に肉感のあるメロディが煌々と君臨する様が、存在者の佇まいとしてかなりシューゲイザー的であると感じます。実に明瞭な遠近感の中でクールで在り続けるエキセントリックな音像を持つ彼らに、ずっと思い憧れ続けています。

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文=Michiro Inatsug(butohes)
編集=對馬拓

Release

butohes – Lost in Watercycle

Label – Self Released
Release – 2021/06/16