Posted on: 2021年7月23日 Posted by: Sleep like a pillow Comments: 0

1991年にリリースされ、シューゲイザーの金字塔を打ち立てたMy Bloody Valentineの2ndアルバム『Loveless』。2021年で30周年を迎える本作を記念し、弊メディアでは「My Best Shoegaze」と題した特集記事を不定期で連載する。SNS上の音楽フリークやライター、さらにはアーティストに至るまで、様々なシューゲイズ・リスナーに各々の思い入れの強い作品を紹介していただく。

Vol.7は、ライターとして活動し、近年ではSwervedriver『Future Ruins』やRingo Deathstarr『Sparkler』(リマスター盤)の解説なども担当した、宮谷行美の5枚。

■ SPC ECO – 3-D(2009)

Label – Quince Records
Release – 2009/06/15(?)

インダストリアル・シューゲイザーの代表格、Curveの中心メンバーであるディーン・ガルシカとその愛娘ローズ・ベルリンとのユニットで、演奏から収録まですべてディーン自身が担当(本作の日本盤ボートラには、Rideのアンディ・ベルも参加!)。多彩なシンセを盛り込んだ華やかな音使いが印象的で、ローズの甘くドリーミーな歌声と重厚なサウンドが合わさり、身体を侵食するように押し寄せてくるのがたまらなく気持ち良い。特に「For All Time」は、メロディ、サウンド、ヴォーカルとコーラスの掛け合い、そのすべてが最高で完璧です。爆音で聴いてどっぷりと浸るのがおすすめのマイ・ベスト・オブ・シューゲイザーです。

■ Slowdive – Souvlaki(1993)

Label – Creation Records
Release – 1993/05/17

今でこそシューゲイザーの名盤として挙げられる本作も、当時はブリット・ポップ勢の影に隠れ、望ましい評価は得られなかったという。制作時も持ち寄った新曲をすべてアラン・マッギーに突き返され、アンビエント界の巨匠ブライアン・イーノの指南を仰ぐことに(彼は「Sing」と「Here She Comes」にシンセで参加)。陰と陽を描く綿密なサウンド・レイヤリングとやわらかな轟音の美しさはもちろん、アコースティックやダブ要素を取り入れながらも耽美的にまとめるその感性も流石。Cocteau Twinsやヴェルヴェッツらの影響を受けつつも模倣で終わらない、シューゲイザーの魅力を教えてくれたかけがえのない一枚です。

■ Ringo Deathstarr – Shadow(2011)

Label – Vinyl Junkie Recordings
Release – 2011/11/02

ユニークなネーミングと王道シューゲイズ・サウンドで、一際注目を集めてきた彼ら。CDリリースは日本のみという貴重な本作は、人気ドラマ『ツイン・ピークス』のテーマ曲や日本オルタナ界の重鎮Coaltar of the Deepersの人気曲のカヴァーも収録。気持ち悪くて心地良い不協和音と甘い浮遊感に微睡むダーク・サイケデリア、そこへパンキッシュなアプローチを盛り込んでくるところが、MBVの『Loveless』と『Isn’t Anything』を良いとこ取りした印象も。と言いつつ、アグレッシヴな表題曲はまさにリンゴらしい一曲。ライトな面を削ぎ落してヘヴィー・シューゲイズに大きく傾倒し始める初手が本作だったのでは、と個人的には思います。

■ Cocteau Twins – Head Over Heels(1983)

Label – 4AD
Release – 1983/10/31

Slowdive然りリンゴ然り、ドリームポップとゴスを兼ねている初期Cocteau Twinsは、シューゲイザーにとって欠かせない存在…ということで本作をピックアップ。その中でも、低音から高音まで自在に操るエリザベス・フレーザーのオペラ的歌声と狂気的なノイズ・ギターに圧倒される「Musette And Drums」は、シューゲイズ・ナンバーとして是非とも推したい1曲。私たちはある種気狂いみたいなものをシューゲイザーに求めている節があって、自由奔放な様や予測できない音の訪れに興奮を覚えるのだと思います。本作に見る、美と恐怖が隣り合うその高揚感は、シューゲイザーに通ずるものと言えるはず。

■ ART-SCHOOL – LOVE/HATE(2003)

Label – 東芝EMI (現:EMIミュージック・ジャパン)
Release – 2003/11/12

フロントマン・木下理樹の音楽的背景にはシューゲイザーからの影響も大きく、生粋のオルタナバンドでありながら、これまでの楽曲にもさまざまな形でシューゲイザー的要素を取り込んできた彼ら。特に2ndアルバムの本作は、アノラック・サウンド的なキャッチーなメロディと時折やってくる轟音ノイズの魅力が際立ち、オルタナ・シューゲイザーとしての魅力も発揮する一枚に。不安定だからこそ、不完全だからこそ、底知れない美しさを放つ。単なる理屈や技術で上回ることができない美学がある。そういったMBVら元祖シューゲイザー・バンドたちに備わる、いわば「シューゲイザー」という一つの概念を本能的に持っているバンドなのだと思います。

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文=宮谷行美(ライター)
編集=對馬拓

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