Posted on: 2022年7月14日 Posted by: Sleep like a pillow Comments: 0

1991年にリリースされ、シューゲイザーの金字塔を打ち立てたMy Bloody Valentineの2ndアルバム『Loveless』。2021年11月でリリース30周年を迎えた本作を記念し、弊メディアでは「My Best Shoegaze」と題した特集記事を展開中。様々なリスナーを招き、各々が思うシューゲイザーの作品を5枚選出していただく。

【Feature】My Best Shoegaze

Vol.19は、For Tracy Hydeやエイプリルブルーの他、ソロ・プロジェクトであるLetters To AnnikaやRAYへの楽曲提供など、マルチに活躍する管梓(夏bot)が選ぶ5枚。

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■ Colfax Abbey – Drop(1996)

Label – Prospective
Release – 1996/02/27

なぜか配信で聴けるのがApple Musicのみという不遇な状況にありますが、個人的にはCDを探し出してでもお聴きいただきたい、Ride + Slowdive + emoな問答無用の傑作です。

クールでありつつ時折熱をにじませる青いヴォーカル、美しいメロディ、世間一般の音質の良し悪しを考慮せずに、楽曲を引き立てるための然るべきテクスチャーをもたらすことを念頭に置いたと思われるサイケデリックで耽美な音像……僕がシューゲイズに求めるすべてが高純度で結晶化されていて、特に冒頭を飾る「Feel」はFor Tracy Hydeのライブの登場SEにもしていたくらい大好きな曲です。

■ Ride – Nowhere(1990)

Label – Creation
Release – 1990/10/15

言わずと知れた金字塔。シューゲイズというジャンルに出会ったばかりの16~17歳の頃にこの作品から受けた衝撃、そしてその後の僕の音楽人生への影響は言葉に尽くせません。僕が12弦ギターを多用するのも彼らの影響です。

若干とっつきづらかったMy Bloody ValentineやSlowdiveと違ってRideには最初からすんなりなじめたのは、まばゆい爆音や激しいビートの核にあるソングライティングがわかりやすく60年代的なマナーに則ったものだったからでしょう。その美しいハーモニーにはまさにオルタナティヴ・ロックの時代にアップデートされたThe BeatlesやThe Byrdsのような感覚があり、60年代サイケデリアで育った僕は瞬時に魅了されました。

■ Revolver – Cold Water Flat(1993)

Label – Caroline
Release – 1993/05/04

Rideのソングライティングの正統派らしい部分をより強く抽出・結晶化させたのがRevolverのこのアルバムではないでしょうか。個人的には『Going Blank Again』と『Carnival of Light』のいいとこ取りのような印象があります。

全体としてノイズ・ギターは控えめで、全編を貫くマッカートニー的な感傷に満ちたビタースウィートなソングライティングはバラードをもいとわず、管弦楽器の大胆な導入や高らかに熱唱するヴォーカルからもポップ・アーティストたらんというシューゲイズ・シーン出身のバンドらしからぬ野心が感じられます。秋に聴きたい極上のメロディに満ちたインディ・ロックの名盤。

■ Ides of Space – There Are No New Clouds(2001)

Label – Better Looking
Release – 2001/10/16

ポスト・ロックやエモの影響を感じるアンサンブルをコンパクトな轟音ギター・ポップにまとめたオーストラリアのバンドのデビュー作。穏やかなきらめきに満ちたサウンドと哀愁たっぷりのメロディがとても美しく、青春のサウンドトラックにぴったりの一枚で、高校~大学時代に愛聴していました。とりわけ「Keep Writing」は感涙ものの名曲です。いま聴くと昨今のエモゲイズと称される音楽の先駆けでもあるように思えます。

ちなみにこのバンドはアルバムが2作しかなく、もう1作の『Sleeping Fractures』も好内容で、1曲目の「Past Midnight」をFor Tracy HydeのSEに使っていました。こちらも併せてお聴きいただきたいところ。

■ DIIV – Oshin(2012)

Label – Captured Tracks
Release – 2012/06/26

元々好きな作品ではあったものの、本質的に理解できたのは比較的最近のこと。サーフ・ロック、シューゲイズ、クラウト・ロック、ポスト・パンクのエッセンスをない交ぜにした結果がオールシーズン対応のモダン・サーフ・ロックだとは……。気分を選ばない抽象的な音像でありつつ清涼感のあるポップネスが耳になじみ、ほかの音楽を聴くのに疲れたときによく聴きます。

For Tracy Hydeの『he(r)art』の制作当時は特にDIIVに傾倒しており、このアルバムは『Oshin』の空間を埋め尽くすような冷たい残響をR&B的なアーバンな楽曲に適用するという実験でした。これを形にするために多用したのが『Oshin』でも全編で使われているRoland Space Echo。この組み合わせは我ながらちょっとした発明です。

文=管梓 a.k.a. 夏bot(For Tracy Hyde / エイプリルブルー / Letters To Annika)
編集=對馬拓

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■ Release

For Tracy Hyde / RAY – フランボワーズ・パルフェのために(7inch)

□ Label – P-VINE
□ Release – 2022/07/20

1. フランボワーズ・パルフェのために (For Tracy Hyde ver.)
2. フランボワーズ・パルフェのために (RAY ver.)