文/編集=對馬拓
写真=井上恵美梨
2026年2月24日。渋谷のど真ん中、凄まじい音圧に晒されながら、私は茫然と立ち尽くしていた。全身がビリビリと震える強烈な感覚だけが、目の前で繰り広げられる非現実的な光景に圧倒的なリアリティを持たせていた。妄想でも幻覚でも蜃気楼でもなく、ちゃんと現実なのだ。彼は、Parannoulは、確かに存在した。
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「QUATTRO Alternative #1」──この時代において「オルタナティヴ」であることとは、果たしてどういうことなのだろう? 自戒を込めて言えば、我々は「オルタナ」の四文字を軽率に使いすぎている気がしてならない。単に独自性があれば「オルタナ」なのか? 既存のものに対するカウンターが「オルタナ」なのか? オルタナティヴ・ロックは全て「オルタナ」なのか?
おそらくそれらの問いに、固定の回答は存在しない。文脈や視点や時代によって、「オルタナティヴ」であることの定義は少しずつ変化しているように思える。ただ、少なくともこの日は、私が求めていた「回答」を手にしたような気がしたのだ。
バキバキのエレクトロ・サウンドを操り、異様に強い低音とキックをラップトップから放つ君島大空を目の当たりにして、私は早速嬉しい悲鳴を上げたくなっていた。音が跳躍し、それらがパッチワークのように綿密に繋ぎ合わされ、瞬く間にそこらじゅうが電子の海になる。いびつで、美しい。その一方、彼はアコースティック・ギターを手にして、情念をそのまま出力したかのような指捌きをも見せる。弾き語りという概念すら変えてしまいそうだ。





そうやって、彼は打ち込みと生楽器を自在に行き来していった。まるで自らの理性と本能を掌握し、完全に制御しているかのようだった。その様は、真に自由であるように見えた。当然、そこにはジャンルやカテゴリーといった境界線は存在しないが、しかし無秩序だとは全く思えない。彼の作家性が確立されている、何よりの証拠である。
君島大空がたった一人で作り上げた、整然としたカオスとでも呼ぶべき空間──そこへ劇薬が投入された。バンド・セットにより最大出力となったMudd the studentのパフォーマンスは溌剌としており、観る者の感情にまっすぐ訴えかけ、否応なくアジテートしていく。突き刺すような轟音。グルーヴを生むベースとドラム。アグレッシヴに躍動するアンサンブルに、ひたすら身を任せた。






Mudd the studentの音楽にも様々な要素が混在していた。バンド・サウンドを主体としながら、電子音も随所に入り混じり、時にはドラムンベースなんかも顔を覗かせる。「魔改造」という形容が似合うかもしれない。自分がクールだと思うことに対して極めて正直な、どこかジャンキーな質感のサウンド。深夜に糖分を摂りすぎてシュガー・ハイにでもなったかのような、抗えない中毒性の波が押し寄せる。








この日、Asian GlowがMudd the studentのサポート・ギターを務めていたことは、多くの人にとって嬉しいサプライズだったはずだ。ところが、それだけでは終わらなかった。そのステージに、Parannoulがゲスト・ヴォーカルとして登場したのだ。

──瞬間、私は理解が全く追いつかなかった。

Mudd the studentのライブが終わり、あまりに現実感のない、フワフワとした余韻のまま転換の時間を過ごした。耳鳴りの向こう側で、あの瞬間がリフレインしていた。いつしかParannoulが再びステージに現れ、機材のセッティングを進めていく。PCとギター。たったそれだけだ。たったそれだけ、なのに。
──「何聴いてるの?」
──「……リリイ・シュシュ。」

2026年2月24日。渋谷のど真ん中、凄まじい音圧に晒されながら、私は茫然と立ち尽くしていた。全身がビリビリと震える強烈な感覚だけが、目の前で繰り広げられる非現実的な光景に圧倒的なリアリティを持たせていた。妄想でも幻覚でも蜃気楼でもなく、ちゃんと現実なのだ。彼は、Parannoulは、確かに存在した。
音源の、あの音だった。あの声だった。それだけで、もう胸がいっぱいだった。





PCとギター。あまりにもミニマルなセットだが、そうは思えないほど分厚いノイズの嵐に巻き込まれていくうちに、ようやく驚きの感情が追いついてきた。不要で不快なノイズが溢れるこのろくでもない世界を、さらに大きなノイズで覆い、満たし、美しい世界に書き換えてしまおう──「Beautiful World」はそう宣言しているように思えてならなかった。空間を隙間なく埋め尽くす轟音に溺れ──否、それはLCLのようにむしろ我々の居心地を良くするものだった。自意識が薄れていく。もう、余計なことを考える必要はない。
Google翻訳の読み上げ機能を使ったMCで、彼は人前でギターを弾くのは今日が初めてだと告げた。急いで作ってきたという新曲を演奏した。ParannoulだけでなくMydreamfever名義の曲も披露してくれた。声を張り上げ、ギターをかき鳴らし続けた。一時は「もうライブはやらない」と言っていたはずだが、いきなり日本に来て、まるで話が180度違うじゃないか。人の気持ちというのは、かくも変化するものなのだ。そのポジティヴな心変わりに、ただただ、ありがとうと言いたい。







「オルタナティヴ」であること。それは、開拓者であるということ、そして、自分の居場所をつくるということだ。「QUATTRO Alternative #1」に集結した3組は、強烈な「個」をもって、前人未到の全く新しい境地に辿り着き、自分自身を世界とした。それは、この世界を変えることと、ほとんど同義ではないだろうか。
Parannoulがステージから去り、自意識の輪郭は元に戻ってしまった。投げ出されたギターから、残響が延々と鳴っている。やはり、夢なんかじゃなかった。PCとギターだけで、ベッドルームから世界を変えてみせた彼の存在は、確かにそこにあった。あまりに美しい、忘れ難い残響だった。

QUATTRO Alternative #1
2026/02/24
渋谷CLUB QUATTORO
君島大空 (Solo set)
OHZORA KIMISHIMA
ELEKTRIK INNER LANDSCAPE SET
1. SubetenoYukiGaTokeruOto
2. 除
3. ˖嵐₊˚ˑ
4. 向こう髪
5. 19℃
6. 映画
7. –nps–
8. Gogo No Hansyakou 1/2 (hyp bst nkd edition)
Mudd the student (Band set)
1. cache
2. Undertake
3. APA freestyle
4. Fireman
5. 잘한 일이
6. 활동 중
7. 123
8. Off Road Jam
Parannoul (Solo set)
1. Beautiful World
2. Excuse
3. Analog Sentimentalism
4. New Song 1
5. New Song 2
6. Chicken
7. White Ceiling

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