2019年は、近年稀に見るシューゲイザー豊作の年となりました。国内外から良質なシューゲイズ・アルバムが次々と届けられ、このリバイバルの波はまだまだ続きそうです。
今回は2019年にリリースされたシューゲイザー及びドリームポップなど周辺の作品をまとめ、「Best Shoegaze Albums 2019」「Best Shoegaze Singles 2019」と称してそれぞれ紹介。アルバムに関してはランキング形式で振り返ります。なお、順位自体にはそれほど深い意味合いはありません。現在のシューゲイズ・シーンを捉えるための最新ディスク・ガイドをお楽しみいただければと思う次第でございます。
文/編集=對馬拓
Best Shoegaze Albums 2019 – Top 40
40. Baby Ever Rain – Ever Rain 小品集 2017(Remaster 2019)
Label – BER Records
Release – 2019/10/09
plant cellのエリコ(Vo. G.)によるソロ・プロジェクトが、2017年の音源にリマスタリングを施し新たにリリースしたのが本作。フルカワミキとドリームポップが出会ったような、幼さが残るヴォーカルと微熱のようなギターサウンド。語りから始まる構成など、シーンの中でも異彩を放つ作品。
39. Haleiwa – Cloud Formations
Label – Morr Music
Release – 2019/07/05
スウェーデンのMikko Singhによるプロジェクト、ハレイワの最新作。エレクトロ・シューゲイザー的な文脈も感じつつ、チル・ウェイヴ以降の要素も感じるのが魅力。記号が並べられたジャケットも印象的。
38. plums – paranoid
Label – Frengers Record
Release – 2019/12/21
小樽出身のプラムズによる1stミニアルバム。初期のきのこ帝国を彷彿とさせるギターサウンドが心を掻きむしる。北国特有の空気感を纏った伸びやかな歌声には、確かな強さと誠実さが宿っている。
37. クレナズム – In your fragrance
Label – MMM RECORDS
Release – 2019/12/18
福岡を拠点に活動するクレナズムの最新作。きのこ帝国が撒いた種が北で花開いたのがplumsだとしたら、南はクレナズムになるだろうか。心地良いギターの轟音とリフレイン、そして優しく突き刺さるような歌声に酔いしれたい方へ。
36. Swervedriver – Future Ruins
Label – Vinyl Junkie Recordings
Release – 2019/01/25
今この文脈でスワーヴドライヴァーを語るのは、もしかしたら適切ではないかもしれない。しかし、かつて大名盤『raise』で鳴らしていたエッセンスは本作にも脈々と受け継がれており、その重心の低いサウンドは時を経ていぶし銀のような味わい深さを醸し出している。レコードのリングウェアを模したジャケットも渋い。前作から4年、レジェンドの堂々とした佇まいを改めて提示したアルバム。
35. Hammock – Silencia
Label – Hammock Music
Release – 2019/11/15
ナッシュヴィルの2人組、ハンモックの最新作。全編に渡って展開されるドラムレスのドローン/アンビエント・サウンドは、「静寂」を音にするという矛盾を見事に表現している。ゆったりと宙に浮ぶようであり、どこまでも沈んでいくようでもある様は、夢の中に深く潜り込んで現実逃避する心地良さのような危険な美しさと崇高さを孕んでいる。
34. Grow Rich – Frantic Semantic EP
Label- Latada Records
Release – 2019/10/08
インドネシアのジャカルタ発、Abdur Rahim Latadaによるソロ・プロジェクトの最新EP。確信犯的な猫のジャケットは内省的なサウンドを想起させるが、実際はパンク由来の疾走感溢れるドラムのビートと太いベース・ラインにシューゲイズ・サウンドが絶妙に混ざり合う、ハイテンションでゴキゲンな1枚。
33. Alice B – Kanske
Label – Luxury
Release – 2019/03/15
スウェーデン・ヨーテボリ出身のインディー・ロック・バンド、School’94のヴォーカリストによるソロ最新作。タイトルはスウェーデン語で「カンシェ」と発音し「多分」を意味する。シューゲイザーやパンクを通過したSchool’94とはまた違った、ノスタルジックなジャケットそのままにメランコリックなサウンドと情感溢れる歌声を存分に堪能できる作品。
32. Rocketship – Thanks to You
Label – Darla Records
Release – 2019/10/11
90年代のギター・ポップと言えばロケットシップの『A Certain Smile, A Certain Sadness』を挙げる方も多いだろう。本作はそんな彼らが13年ぶりにリリースしたアルバム。男女ツイン・ヴォーカルのハーモニーやチープなシンセは健在で、まるでブランクを感じさせない。これぞロケットシップと言うべきインディーロック・サウンド全開の復活作。
31. Bodywash – Comforter
Label – Luminelle Recordings
Release – 2019/08/30
モントリオール発のドリームポップ・バンドによるデビュー・アルバム。揺蕩うようなエレクトロ・サウンドとギター・ノイズで全身を心地良く洗われるような感覚になるのは、やはりバンド名あってのことだろう。GuitarやBoards of Canadaなど、エレクトロ・シューゲイザーの系譜を汲んだ最新形にして重要作。
30. Hatchie – Keepsake
Label – Heavenly Recordings
Release – 2019/06/21
オーストラリアのBabaganouj(バブガニューシュ)のメンバー、ハリエット(Ba.)のソロ・プロジェクト「ハッチー」のデビュー・アルバム。様々なタイプの女性SSWが活躍する中、彼女のようなタイプの登場は必然とも言えるかもしれない。ドリームポップやシューゲイザー、さらには打ち込みなどを絶妙にブレンドしたキュートなサウンドは必聴。
29. SPC ECO – Fifteen
Label- Self Released
Release – 2019/02/15
元Curveのディーン・ガルシアが娘のローズ・ベルリンと組んだユニット、スペース・エコの最新作。無機質なエレクトロ・シューゲイズにウィスパー・ヴォイスが絡まるお家芸は相変わらず。暗く冷たいガラスの部屋に閉じ込められ、向こう側が見えるのに手が届かない。そんな孤立したようなダークな音像に支配された1枚。
28. The Meeting Places – You and I
Label – Saint Marie Records
Release – 2019/05/24
ロサンゼルスのシューゲイザー・バンドによる、実に13年ぶりとなる新作EP。壁のように迫るフィードバック・ノイズと高音ギターが心地良い、正統派シューゲイザーと言うべき快作。
27. Soft Blue Shimmer – Nothing Happens Here
Label – Disposable America
Release – 2019/06/28
ロサンゼルスのドリームポップ・バンド、ソフト・ブルー・シマーのデビューEP。乱反射するまばゆい光の中に浮かぶようなシューゲイズ・サウンドが夢見心地にさせる。日本語を使ったヴェイパー・ウェイヴ風のアートワークや日本人の名前が楽曲のタイトルになっているのも不思議な魅力を醸し出している。
26. The Waterfalls – In The Blue Lagoon / Youthlight
Label – Triple Noriko Records
Release – 2019/08/30
都内を中心に活動する男女4ピースによる、2枚同時リリースの最新作。元々Ride直系のエヴァーグリーンなシューゲイズ・サウンドを奏でる彼らだが、今作も疾走感溢れるノイジーでポップなギター・サウンドが炸裂している。
25. Night Flowers – Fortune Teller
Label – Dirty Bingo Records
Release – 2019/10/25
ロンドン発のシューゲイズ・ポップ・バンドの2ndアルバム。これまでのセンチメンタルなシューゲイズ・サウンドを踏まえつつ、ポップでありながらどこか悲しげな作風へと変化。結果、よりメロディが際立ったアルバムとなった。『ジョーカー』を想起させるジャケットは偶然の産物か。
24. Cigarettes After Sex – Cry
Label – Partisan Records
Release – 2019/10/25
テキサス州エルパソで結成されたドリームポップ・バンドの2ndアルバム。フロントマンであるグレッグ・ゴンザレスのユニセックスな歌声と「スロウ・コア」とも称されるサウンドは、前作と何も変わらないくらい踏襲されている。スペインのマヨルカ島の豪邸で夜にレコーディングされたという本作は、「事後の倦怠感」どころかゆっくりと確実に安楽死を迎えるかのような独特の音像に更なる磨きをかけている。
23. Dayflower – Honeyspun
Label – Self Released
Release – 2019/01/19
イングランドのレスター出身のドリームポップ・バンド最新作。アノラック期のMy Bloody Valentineがそのままシューゲイズしたかのような甘酸っぱさと轟音から始まり、エレクトロ・シューゲイザー的なアプローチまで聴かせ、まるでシーンを丸ごと総括するかのように様々な要素が見え隠れする良作。
22. cattle – Sweet Dream, Tender Light and Your Memory
Label – TESTCARD RECORDS
Release – 2019/09/04
関東を中心に活動する4人組による1stアルバム。The Pains of Being Pure at Heartが活動終了した今、その遺志を正統に継ぐバンドがいるとすれば、やはりcattleだろう。絶妙なチープさとキュートさが心をくすぐる、インディー・ロック/ギター・ポップへの愛に溢れた作品。
21. ・・・・・・・・・ – Points
Label – TRASH-UP!! RECORDS
Release – 2019/04/04
アイドルグループ、通称「ドッツ」のラストにして集大成的なアルバム。グループの終焉に添えられたエモーショナルなシューゲイズ・サウンドが涙腺を緩ませる。新機軸的なテクノ調の楽曲もあるなど、最後までその実験的な精神は続いた。なお、彼女たちのサウンドは事実上の後継グループであるRAYに引き継がれることになる。
20. Niights – Hellebores
Label – Sun Pedal Recordings
Release – 2019/02/15
オハイオ州クリーブランドを拠点に活動するシューゲイザー・バンド最新作は、ドリーミーな前半からヘヴィーな後半へと繋がる二部構成。全体的にジェンナのキュートなヴォーカルが中心にあり、特に前半はポップソングとしても申し分ないほどの開放感に満ちているが、後半の荘厳で厚みのあるプログレッシブなサウンドこそが本領のような気も。
19. Bdrmm – If not, When?
Label – Sonic Cathedral
Release – 2019/10/11
UKハル出身の5人組シューゲイズ・バンドによるデビューEP。内省的なヴォーカルとサウンドはRadioheadやDIIVなどに通ずると言えるし、ドリーミーな感触はThe Cureへのリスペクトだろうか。先人たちのエッセンスを感じさせながらも、その孤独を埋めるようなサウンド・スケープから滲み出るオリジナリティに今後の期待は高まるばかりだ。
18. Star Horse – You Said Forever
Label – Startracks
Release – 2019/08/15
スウェーデンのストックホルムを拠点に活動するシューゲイザー・バンド最新作。低体温なヴォーカルとノイジーなギター、そして耳に残るベース・ラインが魅力。それにしても『You Made Me Realise』のアザーカットのようなジャケットは偶然なのか、確信犯なのか。
17. For Tracy Hyde – New Young City
Label – P-VINE
Release – 2019/09/04
ヴォーカルのeurekaがギターを手にし、トリプル・ギター編成となったフォトハイ最新作。全体的にサウンド自体は初期のシューゲイザー路線に回帰したような印象だが、より洗練され厚みを増したバンド・アンサンブルと、みずみずしくポップで磨きのかかった秀逸なソングライティングはさすがの一言。ギターポップの新たな名盤としても、この時代にシネマティックなコンセプトで全16曲57分のアルバムをリリースするという気概についても、今後も評価されていくべき作品。
16. Still Dreams – Lesson Learned
Label – Miles Apart Records
Release – 2018/08/31
大阪のドリームポップ・バンド、Juvenile Juvenileのメンバーによるシンセポップ・ユニット最新作。80〜90年代のシンセポップやSF作品に影響を受けたというコズミックでドリーミーなサウンドはKero Kero BonitoやThe Bilinda Butchersなどとも呼応し、Juvenile Juvenileから引き継がれたキャッチーなメロディも耳に残る。フィジカルはカセットのみのリリースというこだわりにも注目したい。
15. Tennis System – Lovesick
Label – Graveface Records
Release – 2019/09/06
ロサンゼルスのポストパンク・バンド最新作。『Lovesick』というタイトルは、「愛なき世界」への皮肉なのではないかと疑ってしまうほど、冒頭から『Loveless』を思わせる歪んだギターが鳴り響く。一方でパンキッシュな疾走感を聴かせ、かと思えば内省的な音像も聴かせるなど、緩急のあるサウンドも魅力。
14. Kazu – Adult Baby
Label – Adult Baby Records
Release – 2019/09/13
Blonde Redheadの紅一点、カズ・マキノによるソロ・デビュー作。無駄なものが一切存在しない削ぎ落とされたミニマルなサウンドと不思議な温度感を持ったヴォーカルが、他を寄せ付けない幽玄的な美しさを放っている。ジャケットを含め、アダルトでアート志向の高い作品。ちなみに、Atoms For Peace のMauro Refoscoが参加する他、5曲で坂本龍一とも共演している。
13. polly – FLOWERS
Label – UK.PROJECT
Release – 2019/11/06
THE NOVEMBERSの小林祐介をプロデューサーに迎え、「和製4AD」を志向し制作されたミニ・アルバム。前作『Clean Clean Clean』での激しさは鳴りを潜め、聴き手に寄り添うようなサウンド・スケープとなった。プラスチックな冷ややかさと誰かに花束を手向けるような温かさが同居する様は彼らならでは。いくつもの季節を越えて手にした確固たる信念としたたかな言葉たちが胸を打つ美しい逸品。
12. Blankenberge – More
Label – Blankenberge
Release – 2019/04/10
ロシアのシューゲイズ・バンド、ブランケンベルへの最新作。隙のないバンド・アンサンブルは前作に比べ深みが増し、重厚感のあるシューゲイズ・サウンドからは貫禄すら漂う。大地を揺るがすような強靭なリズム隊とサンクト・ペテルブルグの極寒の冬を思わせる粒の細かいギター・ノイズは圧巻。まさに他を寄せ付けない厳しい自然の猛威と共にあるような音楽だ。
11. VAR – The Never-Ending Year
Label – Rimeout Recordings
Release – 2019/09/18
アイスランドのポストロック・バンド、ヴァーの最新作。紅一点のMyrra Rós脱退後に制作されたアルバムだが、喪失こそがクリエイティビティへの起爆剤となることを証明することになった。激情と静寂を行き来するサウンドはさらに磨きがかかり、圧倒的なスケール感で聴く者へと押し寄せる。憂いを帯びた透明なヴォーカルも相まって、北欧の空気をそのまま音楽として真空パックすることに成功している。
10. The Stargazer Lilies – Occabot
Label – Rad Cult
Release – 2019/11/01
Soundpoolのメンバーによるシューゲイザー・バンド最新作。古い写真に被った埃を指でなぞるような、はたまた閉鎖された遊園地で朽ち果てたメリーゴーランドのような、レトロチックでサッドネスにまみれた音像が耳を支配する。ノイジーかつドリーミーなサウンドは耽美派と呼ぶに相応しい。どこか怪しげでグロテスクなジャケットも、人間の美しさと醜さを示唆するかのよう。
9. Blushing – Blushing
Label – HANDS AND MOMENT
Release – 2019/09/04
オースティン出身のドリームポップ・バンド、ブラッシングのデビュー・アルバム。Lushを彷彿とさせる女性ツイン・ヴォーカルと、Cocteau Twinsを経由したゴシックでドリーミーなサウンドが魅力。全体的に甘美なテイストながら所々で鳴らされるディストーション・ギターも心地良く、そのサウンド・スケープを見事に表現したジャケットもとにかく素晴らしい。先人たちのエッセンスを現代的な感覚で見事にまとめ上げ、新世代の到来を高らかに告げた作品。
8. Agent blå – Morning Thoughts
Label – Luxury
Release – 2019/05/10
スウェーデンのヨーテボリ出身、男女混合6人組アゲント・ブローの最新作。ポストパンクやドリームポップを通過した自らの音楽性を「Death Pop」と称し、ダークなシューゲイズ・サウンドを奏でる期待の若手。今作ではその路線を踏襲しつつも、ネオアコ的なアプローチやアノラック風のサウンドなど、新たな一面も覗かせている。とは言え、やはり全体を覆う曇り空のような退廃的な空気感こそが彼らの最大の魅力。
7. Submotile – Ghosts Fade on Skylines
Label – MotileRev Records
Release – 2019/04/16
アイルランドのダブリン出身のシューゲイザー・バンドによるデビュー・アルバム。轟音の狭間からうっすらと聴こえてくる低体温なヴォーカルは、まるで吹雪の彼方からわずかに差し込む光のよう。ギター・ノイズに埋もれて形を失う寸前のメロディを夢中で追いかけているうちに何周もしてしまう魔力が潜んでいる作品。音像を可視化したかのような、やや過剰とも思えるジャケットも独特。
6. Misty Coast – Melodaze
Label – Brilliance Records
Release – 2019/01/25
ノルウェーのシューゲイザー・バンド、The Megaphonic ThriftのLinnとRichardによるドリームポップ・デュオ最新作。甘美なヴォーカルとポップでドリーミーなサウンドは、身を任せているうちにたちまち眠りに落ちてしまいそうなほど。そして見る夢はきっと外国の甘いお菓子で溢れかえっている。シュールレアリスム的なジャケットも素晴らしい。
5. Ride – This Is Not a Safe Place
Label – Wichita Recordings
Release – 2019/08/16
復活後2作目、通算6作目となるアルバム。制作陣が前作と一緒ということもあり基本的な路線も踏襲している印象。My Bloody ValentineやSonic Youthなど影響源との繋がりを強固にしつつ、彼らならではのメロディやコーラスワークは健在。
何より復活後もコンスタントに活動しアルバムもリリースすること自体が嬉しい限りだが、今の彼らは全盛期を思わせる勢いに満ちている。成熟したバンド・アンサンブルとRideらしい「青さ」が同居する、新たな代表作と言って良いだろう。『Nowhere』を彷彿とさせるジャケットも憎い。
4. DIIV – Deceiver
Label – Captured Tracks
Release – 2019/10/04
ブルックリンのシューゲイズ/ドリームポップ・バンド、ダイヴの3rdアルバム。中心人物であるZachary Cole Smithが前作リリース後に専念していた薬物の治療を終えて復帰し、Deafheavenとのツアー中に新曲を披露しながらブラッシュアップして本作を完成させたという。
時にデカダンスで不協和音気味な音像はコール自身の心境を反映している気もするが、再スタートへの決意のように高らかに鳴り響くギターが心地良くもある。それはやはり、プロデューサーに起用されたSonny Diperriの手腕によるところが大きいかもしれない。いずれにせよ、苦境を乗り越え見事な復活を遂げた会心作に違いはない。
3. SPOOL – SPOOL
Label – TESTCARD RECORDS
Release – 2019/02/13
およそ10年に及ぶ活動歴を誇るSPOOLが満を持してリリースした1stアルバム。2018年にリード・ギターが加入したことで厚みを増したアンサンブルと幅の広がったアレンジを携え、過去曲のアップデートと新曲を織り交ぜて収録。セルフ・タイトル通りの自己紹介的な作品となった。
随所で先人たちへのオマージュに溢れたアレンジを聴かせているが、それでいてオリジナリティを損なわないセンスには脱帽。ギター、ドラム、ベースが渾然一体となる様は、ロック・バンドとしてのタフさも示している。
シューゲイザーやグランジ、US/UKオルタナティヴ、そして90年代のJ-POPへの憧憬。水の底から浮かび上がるような、あるいは天空の彼方から降り注ぐような、聴く者の身体にじわりと染み込んでいく歌声。テン年代の最後を青く締め括る新たな名盤の誕生だ。
2. Westkust – Westkust
Label – Luxury / Run For Cover
Release – 2019/03/01
スウェーデンのヨーテボリ出身の4人組による、実に4年ぶりとなる2ndアルバム。メンバーの脱退や加入を経てレコーディングされた本作は、1stアルバム『Last Forever』に比べ、より洗練されたアレンジとアンサンブルが展開されている。
絶妙な具合で歪むギターと切なさを振り切るような疾走感、耳に残るキャッチーなメロディ、そして全面的にフィーチャーされたジュリアのドリーミーで甘酸っぱいヴォーカル。全9曲、約30分という短尺ながら、その密度の高さと完成度には舌を巻くばかりだ。
そのジャケットのように、吸い込まれそうな青空と鮮やかな花々が咲く草原との間を駆け抜けていくような、開放的なサウンド・スケープと過剰なまでのセンチメンタリズム。間違いなく彼らの最高傑作であり、シューゲイズ・ポップの新たなスタンダードとも言うべきアルバムが完成した。
1. Fleeting Joys – Speeding Away to Someday
Label – only forever recordings
Release – 2019/12/13
ついにFleeting Joysが帰ってきた。敬虔なMy Bloody Valentineのフォロワーとして絶大な支持を誇るジョンとロリカのローリング夫婦によるユニット、約10年ぶりとなる新作アルバム。
「マイブラよりもマイブラらしい」とはよく言ったもので、本作は『Loveless』で確立したサウンドのスタイルを過去最高レベルで限りなく踏襲している。執拗なまでのトレモロ・アーム奏法はその象徴。しかし、それでいて二番煎じとなることは一切なく、何とも変な言い方だが「真にマイブラの新譜」と形容するのが相応しい。そして、そこには「拒絶」は存在せず、ただ「多幸感」だけが聴く者を包み込む。
オリジネイターたちの登場から紆余曲折を経て20年近く経ったシューゲイザーというシーン。2019年、ここまで完璧な作品が世に放たれたことを心の底から祝福したい。まさにシューゲイザー・リバイバルを象徴する1枚として今後も語り継がれるだろう。
Best Shoegaze Singles 2019
Belinda May – Beautiful Days
Label – Fastcut Records
Release – 2019/11/06
名古屋のインディーポップ・バンドによるデビュー7インチ。スウェディッシュ・ポップとシューゲイザーを掛け合わせたかのような、どこまでも瑞々しいサウンドがあまりにも眩しい。ギター・ポップの新星にして大本命。
COALTAR OF THE DEEPERS – HALF LIFE
Label – U-DESPER RECORDS
Release – 2019/12/11
初期メンバーでレコーディングされた新曲。「これぞディーパーズ」と言うべき疾走感と轟音は、NARASAKI本人が言うとおり『No Thank You』の時代を思い出させる。
COLLAPSE – ENDOGENIC REBIRTHDAY
Label – Self Released
Release – 2019/11/13
関東を中心に活動するコラプスの最新シングル。ハードコアを経由した激しい轟音に全身を突き動かされ、冷ややかな歌声は冷たいガラス片のように深く刺さる。張り詰めた緊張感に支配されながらも、同時に心地良さも感じるパラドックス。
Cuicks – neo teenagers
Label – whirlpool records
Release – 2019/10/28
茨城のエレクトロ・シューゲイザー・ユニット、クイックスの最新曲。天から降り注ぐような電子音を浴びるうちに夢幻の旅へといざなわれる、珠玉のスペース・シューゲイザー。
KAIMY PLANTS – void
Label – Vinyl Junkie Recordings
Release – 2019/12/04
東京を拠点に活動するオルタナティヴ・ロック・バンド最新曲。闇に凶暴さを隠し、ダークな熱量で駆け抜ける1曲。
Luby Sparks – Somewhere
Label – AWDR/LR2
Release – 2019/09/25
国内外問わず注目を集めるLuby Sparksの最新曲。前作『(I’m) Lost in Sadness』の耽美派路線を引き継ぎ、今作ではCocteau Twinsのギタリスト/エンジニアとして活躍したTate Mitsuoがプロデュースに参加。90年代当時のエフェクターなどの機材を実際に使用した「4AD原理主義」的な1曲に仕上がった。
Makthaverskan – Demands/Onkel
Label – Luxury
Release – 2019/01/25
スウェーデンのヨーテボリ出身、マクサヴァスカンの最新シングル。ポストパンク色の強いサウンドながら、ドリーミーなギターの質感はシューゲイザー的とも。舌足らずな女性ヴォーカルも一興。白地に線画のアートワークというところにも、ハードコアなバンドの美学を感じなくもない。
ODDLY – Loaded
Label – Smooth Records
Release – 2019/11/08
元browned butterのメンバーによる新バンドODDLYのデビュー・シングル。グランジやブリット・ポップなどのエッセンスを取り入れつつ、前身バンドから引き継がれたシューゲイザー的なアプローチも忘れない。微熱のような気怠さがクセになる。
RAY – Blue
Label – DISTORTED RECORDS
Release – 2019/11/06
アイドルグループ、RAYの1stシングル。今作は「シューゲイザー × アイドルソング」をテーマとし、For Tracy Hydeの夏botやcruyff in the bedroomのハタユウスケが参加する他、Ringo Deathstarrのエリオット・フレイザーによる全編英語詞の楽曲も収録するなど、アイドルの枠を飛び越え純粋なシューゲイザーとしての完成度をの高さを示して見せた意欲作。
SPOOL – ghost / tip of a finger
Label – TESTCARD RECORDS
Release – 2019/10/18 (ghost) 2019/11/22 (tip of a finger)
『SPOOL』からおよそ8ヶ月というスパンで届けられた『ghost』は、冷たい水の中でゆっくりと溺れていくような音像と極度に低体温な歌声に、時間を忘れて永遠に浸っていたくなる。対して1ヶ月後にリリースされた『tip of a finger』は、Warpaintのようなクールさを全面的に押し出したナンバー。バンドが早くも新しいフェーズに突入していることを感じさせる重要な2曲。
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