
文/編集=對馬拓
写真=lou
夏も真っ盛りの7月11日、下北沢SHELTERは文字通り溢れんばかりの人々で埋め尽くされていた。Oaiko主催の2マン企画シリーズ『みちしるべ』の第8弾、宇宙ネコ子としろつめ備忘録を迎えた今回は、Oaikoが当初より掲げる “噛み締めるような音楽” というコンセプトを一際強く感じさせる、あたたかくて優しいライブだった。
* * *
宇宙ネコ子
ふわふわと柔らかく揺蕩うようで、あるいはとげとげしている。「Virgin Suicide」の低体温でいてどこか安心できるような音像やメロディーを端的に形容すると、ちょうどそんな感じだろう。それはニットのセーターに袖を通したときの静電気や、道すがら手慰みに摘み取った草花の棘が手を掠めたりするような感触にも似ている──宇宙ネコ子の音楽は、そういった暮らしの温度や質感、ほのかな痛みを伴う機微のようなものを纏っている。





一方、USインディーとも呼応するようなサウンドの新曲「on blue」も鮮烈で、特に力のこもった後半の展開に思わず唸ってしまう。次のアルバムに収録される予定とのことで、期待が高まる。「金曜日の夜にありがとうございます、お仕事があった方はお疲れ様でした」と呟くように労うkano(Vo. Gt.)のMCを挟み、「(I’m) Waiting for the Sun」へ。少し不穏で翳りのあるようなコード感がクセになる。ART-SCHOOLやsyrup16g、SPOOLとも通ずるような危うさ、仄暗さも宇宙ネコ子を構成する重要なエレメントだ。






とりわけ切実な〈誰かを愛すことなんて 終わりにしたいのさ〉というフレーズが胸を打つ「日々のあわ」に続いて、ライブで演奏することは少ないという「スロウ」を披露。過度に干渉しない、“ただそこにある” ような、ぼんやりとした素朴さが優しく空間を満たしていく。それは睡魔に負けて意識を半分飛ばしてしまう、午後の微睡に支配される安らかな感覚に近いかもしれない。





軽快なドラムから始まった「Skirt」では、サポート・メンバーのリズム隊による包み込むような演奏があたたかかった。決して主張しすぎず、しかし確かな存在感でアンサンブルを前進させ、宇宙ネコ子のバンド・サウンドを隙のないものにしている。その駆動力をさらに加速させるように、疾走感が心地良い「Divine Hammer」へと繋いでいく。一転、ミニマルなアレンジとリフレインでじっくりと聴かせる「Like a Raspberry」も至極だった。

そして、「君のように生きれたら」のイントロ、シンプルながらも印象的なギター・リフが爪弾かれる。〈君のように生きれたら 君のように過ごせたら 素敵さ〉──kanoの歌は、ねむこ(Gt.)の熱を帯びるギターによってセンチメンタリズムを増幅させ、観る者の涙腺を刺激する。




最後に披露した「部屋」で、ベッドルームとライブハウスが接続されていくようだった。〈二人の世界は誰も壊せやしないわ〉という一節は、ある意味で宇宙ネコ子の2人を象徴するようにも響く。生活や日常、それらを取り巻く思考を出発点とした、等身大の音楽──それはどんな形であっても、どんな場所であっても、僕らのすぐ近くで鳴り響き、お守りのように寄り添うのだ。

宇宙ネコ子 2025/07/11 setlist
1. Virgin Suicide
2. on blue
3. (I’m) Waiting for the Sun
4. 日々のあわ
5. スロウ
6. Skirt
7. Divine Hammer
8. Like a Raspberry
9. 君のように生きれたら
10. 部屋
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しろつめ備忘録
バトンを渡されたしろつめ備忘録のライブは、優しいアルペジオが印象的な「最近なんだか」からスタートした。あたたかく、それでいて力強くアグレッシヴなアンサンブルは宇宙ネコ子とも近いところがある。詞世界も日常生活を端とする部分が共通している。そこに、ノスタルジアを少し加えたような──日記のページをめくり、記憶をゆっくり反芻するような感覚を潜ませているのがしろつめ備忘録の音楽だろうか。





続く「ロングサマーバケーション」も、終わりゆく瞬間や過去へ思いを馳せ、切なさを滲ませる1曲。それでも有限を受け入れ、前を向こうとするポジティヴなマインドに背中を押される人は少なくないはずだ。やはり宇宙ネコ子とも似ていて、お守りのような優しさがそこにはあるように感じられる。






ギター1本とヴォーカルだけで始まった「キャラメル」は、バンドの根幹を成す “曲の良さ” が際立っていた。おはらはな(Vo. Gt.)が紡ぐメロディーについてはOaikoのシンマチダも絶賛しており、ごく自然で、しかし一聴して強く印象に残るメロディーは誰にでも生み出せるものではないだろう。楽曲はミドルテンポで一歩一歩確かめるように進み、やがて内に秘め続けた感情をサビで一気に解放する。この緩急が本当に素晴らしい。単純なカタルシスとはまた違う、清々しく気持ちの良い爆発力。








こちらも緩急のある演奏の「haru is imitation」は、疾走感も魅力だ。終盤にかけて盛り上がるアンサンブルに、気持ちもどんどん高まっていく。しかし演奏後、安藤(Ba.)が機材トラブルに見舞われライブが中断。悔しさを滲ませていたが、その後の「アクセルペダル」では爽やかな演奏を披露し、トラブルをあっという間に忘れさせたのが見事だった。スライド・ギターの音色が夏の涼風のようで心地良い。



ここまではサポート・ギターを迎えた4人編成でのパフォーマンスだったが、以降は現在の正規メンバー3人のみによるセットへと転換。幻想的なSEから、新体制となって初のシングル「ebb:flow」を演奏した。電子音を取り入れ、アンビエントやエレクトロニカに急接近したこの楽曲は、しろつめ備忘録の実験性が花開いた重要な1曲であり、同時にこれまで描けなかった新しい景色を浮かび上がらせる。バンドにとって “今” が大きなターニング・ポイントとなっていることを示唆するようだ。

立て続けに披露された未発表の新曲たちは、まさにそのことを証明するようでもあった。まず「wave」では、軽快なメロディーとファジーなギターの轟音が鮮烈に響いた。「かたちあるもの」は、あたたかいがどこか切なさもあるコード感が絶妙だ。歌声は伸びやかで、終盤では降り注ぐようなドラムに合わせてベースの演奏にも熱がこもっていく。リズム隊がアンサンブル全体を駆動させていく印象がとりわけ強いようにも思えたが、それはスリーピース体制になったからこそより感じられるのかもしれない。そしてラストは、しろつめ備忘録らしい優しいメロディーから始まるミドル・チューン「スパンコール」。中盤、マイナー調のコードに変化する展開にぐっと惹き込まれる。バンドとしての表現の幅がさらに広がっていることを感じさせて本編が終了した。






アンコールでは、再び4人編成となって「our youth」を披露。〈日々を噛み締める 朝靄を掴むみたく ただ日が昇るだけ ただ日が昇るだけのour youth〉──終盤、渾然一体となる轟音のアンサンブルがとにかく圧巻で、この日のフィナーレに相応しい幕切れとなった。
“噛み締めるような音楽” という表現は言い得て妙だ。じっくりと味わう音楽は、それだけ自分のものになる。そうやってお守りを増やしていけたらどんなにいいことだろうか。

しろつめ備忘録 2025/07/11 setlist
1. 最近なんだか
2. ロングサマーバケーション
3. キャラメル
4. haru is imitation
5. アクセルペダル
6. ebb:flow
7. wave
8. かたちあるもの
9. スパンコール
10. our youth
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