
文/編集=對馬拓
写真=endo rika
2025年2月からスタートしたOaikoの2マン企画シリーズ『みちしるべ』も7回目。Blurred City LightsとRAYを迎え、シューゲイズに照準を合わせた今回は、これまでと比べると少し趣向が異なっていた。バンドとアイドル。単に音楽のジャンルでいえば両者のフィールドは重なるが、表現方法は全く違う。しかしそれでいて共演の必然性が確かにあったことは、その場にいた多くの人が実感していただろう。6月最後の土曜日、上半期の最後を飾るに相応しい特別な夜を振り返る。
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Blurred City Lights
Blurred City Lightsはユートピアにもディストピアにも等しく眼差しを注ぐ。どちらか一方だけを描いたり、都合良くなかったことにしたりしない。2ndアルバム『Utopia / Dystopia』は表裏一体の、もしかしたら “壁に空けた穴くらい” でも反転してしまうかもしれないこの世界を、様々な角度から見つめている。今回のロングセットはその片鱗を堪能できる貴重な時間だった。





ロングセットといっても終わってしまえばあっという間で、しかし身体には確かに重厚なサウンドとメロディが駆け抜けていった痕跡があった。いきなり激しい音の渦で飲み込もうとする「sumire」から始まるあたり、まず容赦がない。次にアウトロの打ち付けるようなドラムとギターの轟音からシームレスに「花束」へ。伸びやかなヴォーカル、美しいメロディにただ浸る。こうした鮮やかで緩急のある曲展開が没入感を生み出すのだ。









そして、「花束」の残響を断ち切るようなドラムから「Whisper」へ繋ぐ。〈想定されていない 矛盾したプロトコル〉──とりわけSF色の強い詞世界と翳りのある音像に浸り、アルバムの “Dystopiaサイド” を追体験する。一転してBCLのキャッチーな面を楽しめる「Orange」では、タイトル通りオレンジ色の照明にステージが照らされ、その様はいつかの夕間暮れを想起させた。ラスサビ前、バックライトでメンバーの姿がシルエットになった瞬間は過剰とも思えるほどエモーショナルだった。





4つ打ちのドラムから、煌めきを纏ったギターのアルペジオ、そしてベースと共に始まる印象的なコーラスへ──「星凪に願う」のイントロで夏が始まる。夏ならではの、楽しさと切なさの両側を行き来するような独特の心地良さ。“Utopiaサイド” もしっかりと示したところで、Blurred City Lightsとしては珍しいMCの時間へ。神谷が2マンライブ自体が初めてだったこと、そしてRAYとの対バンが念願だったことを明かし、次のRAYへの機運も高まっていく。






この日のハイライトとして「亡霊都市」を挙げたい。弓でギターをストロークするボウイング奏法とエフェクターを駆使しながらリアルタイムで音が重ねられ、幽玄なサウンドスケープが広がり続けていく。それに呼応するようにベースとドラムもじわじわと熱を帯びていく。どんな言葉で表現しても稚拙になってしまうような、非凡な美しさが空間を満たした。この感覚は、一度は生で体感すべきだろう。
やがて、増幅された弦の振動に鍵盤の音色が寄り添い「夜明け」が始まる。シューゲイズとピアノの美しいマリアージュは永遠のようにゆったりと揺蕩い、しかしあまりにも瞬間的だ。細やかなニュアンスが光るドラムのタッチ、身体の奥底まで響くようなギター。〈終わりの始まりはいつだって 必然的なんだよ〉と放つ。この時間も空間も収束していくことがそっと告げられる。







エフェクトがかけられたベースの神聖な音は、都市と宇宙が接続する合図のように思えた。10分に迫る大作「きみのこえ」は、Blurred City Lightsにおけるシューゲイズの美学が詰まっているといっても過言ではないだろう。全ての楽器が文字通り渾然一体となり、時間が溶けていくような感覚を生み出す様は何よりも感動的だ。
本当にあっという間だった。3人は深くお辞儀をして去っていった。思わず天を仰いでしまうような、深い余韻に支配されていた。

Blurred City Lights 2025/06/28 setlist
1. sumire
2. 花束
3. Whisper
4. Orange
5. 星凪に願う
6. 亡霊都市
7. 夜明け
8. きみのこえ
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RAY
可憐に、しかし力強く舞い踊り、その刹那の表現に全力を注ぐ彼女たちの姿は尊い。「おーRAY!」という弾けるような掛け声を皮切りに、『Camelia』の冒頭を飾る「Overture」のSEと観客の手拍子が始まり、4人は颯爽とステージに登場した。
間髪入れずに披露したのは「星に願いを」。激しい曲調に合わせてステージを縦横無尽に動き回る。既に目が離せない。「Fading Lights」ではメンバーごとに名前を呼ぶコールがフロアから沸き起こった。ドリーミーかつ疾走感のあるサウンドと、〈どうか導いて欲しい。夢見た澄みきる空、群青の楽園へ。〉というサビの一節が儚くも美しい。





その勢いそのままに「わたし夜に泳ぐの」へ突入、さらに深くRAYの世界へといざなわれる。轟音が一層強くなるサビで〈そばにいてね〉と歌いながら全員が手を伸ばす様が印象的だ。「逆光」では軽やかに激しく舞う。この日のRAYはシューゲイズを意識したセットリストで臨んでおり、シューゲイズ・サウンドとアイドルの掛け合わせを追求するRAYの本気を見た。
MCでは、琴山が「マイナスイオン担当」、月海が「小動物担当」、内山が「ヒーロー担当」、紬が「人懐っこい担当」と、それぞれの “担当” を交えて自己紹介。瞬時に場を和ませつつ、内山は「神谷さんとはインタビューでいろんな話ができて友達になれた」「Blurred City Lightsはいつか主催企画(『tie in reaction』)で呼びたいと思っていたから対バンできて嬉しい」と胸中を明かす場面も。






そして、月海の「“シューゲイザー・パワー” 見せていきますよ〜!」という一言で、会場全体の高まりを感じた。溌剌としたパワーが直接的に観客へ伝播していくのはアイドルならではかもしれない。披露されたのはマッシヴなサウンドが身体を揺らす「世界の終わりは君とふたりで」。ここで突き刺すような王道の「タイガー! ファイヤー!」のMIXが飛び出し、さらにフロアの熱量が増していく。アウトロでは4人が向かい合い、それぞれが重ねた手を宙に放つ。
力強いビートが特徴の新曲「starburst」で身体が自然と揺らされ、突き動かされていく。4人の楽しげな表情が眩しい。当然といえば当然だが、それぞれに表情や振りのニュアンスが異なり、個々の魅力がある。思えば観客もそれぞれ自由に楽しんでいる。自由でいい。RAYの現場は閉じられていない。










RAYのライブを観るのは久しぶりで、様々な想いが駆け巡った。様々な音楽ジャンルを取り込み、アイドル・シーンのみならずバンド・シーンにも果敢に殴り込んできた胆力。個のキャラクターが強烈でありながら、グループとしてのまとまりも失わないバランス感覚。そして今はもういないメンバーのこと──苦難や危機を乗り越え、2019年のグループ始動から培われた精神性は着実に現在のラインナップに受け継がれ、個の強さにも昇華されていく。そうした歴史の先にこのパフォーマンスがあるということが、今回のライブから少なからず伝わってきた気がした。






鋭いドラムソロから揺らめく轟音ギターになだれ込むキラーチューン「バタフライエフェクト」でも王道のMIXで盛り上がる。この楽曲が持つセンチメンタリズムには特別なものがある。〈スローになって、加速して、ねじ曲がって、突き進む。〉──何もかもに付き纏う “有限” というもの。それでも奇跡は起こせる。
春夏秋冬を4曲で描いた最新EP『Seasons』からは「春なんてずっと来なけりゃいいのに」を披露。春の嵐を想起させるヘヴィーで激しいイントロと、対照的に爽やかさのあるメロディとのギャップにやられる。間髪入れずに始まった「尊しあなたのすべてを」では、より切実さが滲み出る。終盤の縦一列に並んだフォーメーションが脳裏に焼きついた。







ラストはエレクトロ・サウンドと轟音ギターのコントラストが美しい「読書日記」。変拍子のリズムと畳み掛けるような歌唱から、サビで一気に迎える開放感があまりに心地良く、中毒性がある。ずっと浸っていたいがそれも叶わない、しかし不思議と寂しさがないのはこの楽曲のカタルシス的な作用ゆえかもしれない。

バンドとアイドル。表現方法が全く違う両者は、ともすれば二項対立として捉えられがちかもしれない。しかし実際はもっとフラットで、フォーマットの違いは大した問題ではない──RAYのパフォーマンスには、そう思わせる説得力があったような気がした。そしてBlurred City LightsとRAYのどちらにも根底にはキャッチーなメロディという共通項があり、それぞれがそれぞれの解釈と信念でシューゲイズを鳴らしている。親和性の高い、必然性のある2マンはこうして初夏に似合う清々しい余韻を残して幕を閉じた。
RAY 2025/06/28 setlist
SE: Overture
1. 星に願いを
2. Fading Lights
3. わたし夜に泳ぐの
4. 逆光
5. 世界の終わりは君とふたりで
6. starburst
7. バタフライエフェクト
8. 春なんてずっと来なけりゃいいのに
9. 尊しあなたのすべてを
10. 読書日記
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