Posted on: 2022年7月17日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

■ バンドのブレーン、中野ち子に迫る

killmilkyの楽曲は、ギターの中野ち子が全て作詞/作曲を行っている。筆者がkillmilkyを初めて聴いた際は“小森まなこが結成したバンド”という情報のみを知っており、楽曲も小森が手掛けているという勝手な先入観があったため、中野によるものだと知った時は意外だった。彼はバンドを始める前から曲自体は作っていたというが、音楽制作へと向かわせた具体的なきっかけはなんだったのだろうか。

小森:実はこっそり変な曲を作ってるのは私だけが前から知ってて。私が聴いたことあるのは「エーデルワイス」の“ノイズマシマシ・カーニバル・バージョン”みたいなやつで。笑 リコーダーの音で「エーデルワイス」のメロディが流れてて、とにかく変だったんですよ。

中野:それ、めっちゃ昔に作った「幸福な家庭の風景」っていう曲。人生で初めてくらいかな。Cubase(音楽制作ソフト)の無料版が何かを買った時についてきたんですけど、それで「何か作れるんじゃないか?」と思って作ったやつです。まあ曲じゃないですけどね、あれは。

小森は元々WACK所属のアイドル・グループであるBiSのメンバーとして活動していたが脱退。後にバンドを組むことになるが、中野は文学が好きで、小森は中野が作曲だけでなく文章を書くことに長けていることも以前から知っており、曰く「彼が作るものは絶対に良いものになる、という信頼があった」からバンドの結成を持ちかけたという。

中野:元々、音楽より文学が一番好きなんですよ。自分でも小説とかを書いたりしてて。カメラとか映像も好きだけど、一番好きなのは文学。でも、文章だけではできない、音楽にしかできないことが、どうやらありそうだなって思って。

中野:映画だったら、映画でしかできないことをやってる作品が好きで、ただストーリーをなぞるだけの映画は嫌い。小説でも、小説じゃなくて映像の方が良い作品が合ったりするじゃないですか。小説という体裁/媒体でしか表現できないことをやってる作品が好きで、じゃあ音楽だったら音楽だけにしかできないことは何だろう?って考えてます。killmilkyもバンドではありつつ、音楽集団というか──音楽をやってることにはなってるんですけど、自分の中ではバンドという形にもそこまで固執してなくて、表現の一つの手段でしかないですね。僕は「バンドをやりたいんだ!」って感じではないし、ステージに立ってみんなの前でギターを弾いて楽しいと感じるタイプではないので。どっちかというと嫌なんですよね。

小森:最初は「バンドっていう形じゃなくても良い」って話してたよね? “総合芸術集団”みたいな。

中野:考えたりしたね。でも、バンドでしかできないことを考えていきたいですね。今killmilkyでやってることは間違いなくバンドでしかできないことだと思います。ギターとベースとドラムをアナログ的に作って、ライブハウスでデカい音を出して、みたいな。

文学好きの中野は、そもそも普段からあまり音楽を聴かないという。小森曰く中野は「歌詞を書くために曲を作っている」という側面もあるようだ。

中野:映像を撮るためでもありますね。歌詞というか、文章表現と映像表現のBGMみたいなものを作りたい、という願望が根底にあります。

確かに「メロンソ」が顕著だが、歌詞というよりは文章表現という言い方がしっくりくる。しかし、一見して歌詞に見えないフレーズがメロディに乗っていることで、小森は苦労したそうだ。

小森“って言って”がサビの先頭に来たりして、歌い回しの切れ目もなくて、歌うことが想定されてないんですよね。「誘蛾燈」もそうなんですけど、息をする所がないんですよ、ほんとに。

中野:「メロンソ」っていうタイトルの、ちょっとした小説ですよね。ライブに向けて曲を作る時に「どんな曲を作ろう?」って思って、自分が昔書いた文章とかを読み返してたら、小説じゃないんですけど散文詩みたいなものを見つけて、そこから着想を得ました。「おかしくない」も自分の中で形にはなっていない小説の構想があって、そのタイトルを「おかしくない」にしようとしてたんですけど、そのBGMというか主題歌を先に作っちゃおうと思って、それに合わせて歌詞も書いて。

小森:それこそ「リリイ」とか「メロンソ」のMVもそうだけど、『If you kill milky me』はめちゃくちゃ岩井俊二っぽい作品ですよね。

中野:ただ、僕は岩井俊二も好きなんですけど、篠田昇っていう撮影監督が大好きなんですよね。最初は「自分は岩井俊二が好きなんだ」って思ってたんですけど、ある時点以降の岩井俊二の映画はそこまで好きじゃないんです。明らかに映像の感じが変わってるんですよ。それが何の転換期なんだろうと思って調べたら、篠田昇が『花とアリス』を撮って亡くなってしまってたんですよね。だから僕が好きだったのは篠田昇の撮影技法だったんだと気づいて。すごく良い映像撮る人で、影響を受けてます。

そんな中野が音楽を奏でる側になった大きなきっかけとして、ハプニング的に出会った興味深いエピソードを詳しく話してくれた。

中野:「音楽をやろう」と思って、ギターを買ったきっかけがあるんですよ。昔、渋谷を歩いてたら無料のイベントをやってるライブハウスを見つけて。それがチェルシーホテルだったんですけど、無料だし暇つぶしに良いかなと思って入ったら、いろんなジャンルのバンドとかアイドルが出てて、その最後にヒップホップのグループみたいなのが出てきて。10人くらいメンバーがいたんですけど、全員マイクを持って「生きてるってなんだろ、生きてるってなあに」っていうフレーズを15分くらいずっと繰り返してるんですよ。それがどんどん盛り上がって、メンバーに女性もいるんですけど、みんなどんどん脱いで全裸とかになって、観客側もくるくる回ったりしてて。僕は当時若かったのもあってすごい引いちゃったんですけど、「こういう音楽もあるんだ」って思って。

中野:特に「これだ!」って思ったのが、ある人が「生きてるってなんだろ、生きてるってなあに」って歌いながらお札みたいな紙を自分の顔に貼って、ホチキスでバン!って刺して、どんどん血だらけになって……っていうパフォーマンスをやってて。それを見て音楽の可能性を感じたというか、「音楽ってこういうことができるんだな」「こんなに自由なんだな」って思ったんですよね。NATURE DANGER GANGっていう、もう解散しちゃったバンドで、ホチキスの人も今すごく有名で、ぼく脳っていう人なんですけど、これをきっかけに知りました。

ギターを手に取るきっかけも、誰もがイメージするようなバンドマンのそれとはあまりにもかけ離れている。killmilkyの音楽から発せられる特異性の根底は、こうした部分にも由来しているのかもしれない。

中野:あのライブを最初から「観に行こう」と思って観に行ってたり、あるいはそもそも観てなかったとしたら、音楽の捉え方は違ってたかもしれないです。ギターが上手ければ良いとか、歌が上手ければ良いとか、そういうことじゃないんだって分かったので。確か2015年とかだったと思います。その日までは疑問に感じてたというか、「音楽だけにできることはないんじゃないか?」って思ってたんですよね。あと、これをきっかけにチェルシーホテルも好きになりました。

小森:近い将来、チェルシーホテルでライブができたら良いですね。

最後に、中野は自身の作品に対する捉え方、そして受け手に解釈を委ねるというスタンスについても語ってくれた。

中野:作品を世に出す時点で、そこに作者は存在しないと思ってるんですよね。「テクスト論」っていう考え方なんですけど。「作者の死」(1967年にフランスの哲学者であるロラン・バルトが発表した文芸評論の論文)といって、作品が公開された時点で自分のものではなくなるっていう意識はすごくありますね。大事なものではあるけど、あくまで『If you kill milky me』っていう一つのものになるわけで、そこで作者、つまりkillmilkyは死ぬので、鑑賞した人がそれぞれ勝手に解釈する権利があるし、その結果に正解はないです。解釈違いとかは存在しないし、それぞれが正解だと思います。作品と鑑賞者の関係に作者は介在しない、っていうことですね。

◯ 2022年4月3日 原宿にて

* * *

■ それぞれの“私を構成する9枚”

本稿の締め括りとして、killmilkyの根底にある部分をまた異なる角度から解き明かすべく、メンバー全員に「私を構成する9枚」を選んでもらった。自らのコメントと共にご覧いただきたい。

小森まなこの9枚

1. ポルノグラフィティ – ロマンチスト・エゴイスト(2000)
2. BUCK-TICK – SEXY STREAM LINER(1997)
3. the brilliant green – Los Angeles(2001)
4. THE YELLOW MONKEY – 8(2000)
5. JUDY AND MARY – POP LIFE(1998)
6. P-MODEL – P-MODEL(1992)
7. SIAM SHADE – SIAM SHADEⅡ(1995)
8. 戸川純 – 玉姫様(1984)
9. 大森靖子 – 絶対少女(2013)

ねえ、君。覚えていますか。忘れもしない貴方との出逢いは、小学5年生の夏と秋の丁度間ころ。物心ついた時からママの車で何気なく流れていた貴方のベスト・アルバム「BEST BLUE’S」「BEST RED’S」に、ある日突然電流が走るように、ラジオの周波数が鮮明に合うように、ずっとこの日を待っていたかのように出逢ってしまった。CDは擦り切れ、自伝の背表紙が真っ二つに割れてしまうほど、貴方と沢山の、運命の時間を過ごしました。

授業中も音楽が脳内で鳴り止まず、病気になってしまったのかと心配になったほどに、即ちそれが、私と音楽との出逢いでした。THE YELLOW MONKEYやBUCK-TICKは、美しさのなんたるかをスパルタ的に私に叩き込んでくれました。凶器のような美しさで撲殺される感覚は、私の目指すところです。

女性ヴォーカルはほとんど聴かず、誰にも影響を受けていないとなぜか思い込んでいたけれど、挙げたうちの約半数が女性ヴォーカルであり、全くそんなことはないようです。Tommyのダウナーな可愛らしさとYUKIちゃんのとこしえな少女性、純ちゃんと靖子ちゃんそれぞれの不安定さと暴力的な表現はいつも憧れです。彼女たちになりたいとずっと思っているから、私は彼女たちの真似はしません。

沢山のことを、私に教えてくれてありがとう。ねえ、君。同じ景色を私に見せていてね。ずっとずっと、そばにいてくれるといいんだけど。

中野ち子の9冊

1. ロートレアモン『マルドロールの歌』(1868)
2. ボードレール『パリの憂愁』(1869)
3. マルセル・プルースト『失われた時を求めて』(1913)
4. ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』(1920)
5. アンドレ・ブルトン『溶ける魚』(1924)
6. サミュエル・ベケット『名づけえぬもの』(1953)
7. クロード・シモン『フランドルへの道』(1960)
8. ナタリー・サロート『プラネタリウム』(1961)
9. ル・クレジオ『大洪水』(1966)

このアルバムの制作期間はあまり音楽を聴かないようにしていました。というか自然とそうなりました。音楽は自分の生活にとってかなり邪魔で、憎むべきものです。なにか発想が欲しいときは本を読むようにしていました。

影響を受けた作品名としてこれらを挙げさせていただきます。あまり考えずにパッと思いついたものを書きましたが、かなりベタなものになってしまいました。彼らに出会ってなければ全く違った人生になっていたでしょう。自分の興味はボードレールを中心として円形に広がっていく波のようにシュルレアリスムやヌーヴォ・ロマンへと干渉していきました。それらの作品を読む中で音楽に対する価値観も変形し、倒錯していったようです。

今、アルバムを聴き返しても、これらの作品にはある程度影響を受けたような気がします。 轟音の中の静寂という形容を受けることが多いですが、その通りだと思います。騒がしすぎるが故に静か、みたいな感覚は、目標とする到達点のひとつかもしれません。実際、自分は無音こそが最も美しい音楽であると思っています。しかしながら、生きている限り完全な無音になれない僕たちにとっては、このような果てのないノイズが最も無音に近いと感じます。少なくとも自分は、これらの作品たちの中にそれに似た感覚をおぼえるのです。

★の9枚

1. B’z – Loose(1995)
2. 倉木麻衣 – Winter Bells(2002)
3. 主よ人の望みの喜びよ
4. 英雄ポロネーズ
5. RADWIMPS – アルトコロニーの定理(2009)
6. 凛として時雨 – #4(2005)
7. österreich – 無能(2015)
8. the cabs – 回帰する呼吸(2011)
9. やくしまるえつこ – わたしは人類(2016)

★を知ってる人から見たら★だなと感じられる、ような気がする。ピアノから始まって、幼少期に聞き続けていた曲。★にとって音楽との出会いは人との出会いだった。

今ある記憶に楽器をやってなかった期間なんてない、音楽≒ピアノな★がドラムを始めたのは高校生。友人からこの曲をやろうと誘われた「おしゃかしゃま」から始まったような気がする、本当は。

少し時期はあいてその★が、killmilkyのみんなと出会ったのも音楽だった。ピアノを習っていた時のことは語れないけど、ずっと昔から変拍子と転調が好きだった★は、österreichの「無能」で世界が広がったのかもしれない。そんな★は、ベースのわだにthe cabsとここにはないけれどPeople In The Boxを聞かせてもらった。楽しかったね。その出会いこそがkillmilkyのドラムの★になるきっかけだっただろうな。

音楽についてあまり語れないけど、このアルバムが★を変えた、がない気がするから。でも、この音楽がなかったら今までの出会いもなくて、この文章を書いてはいないんだろうなと思える、から。

わだの9枚

1. 宇多田ヒカル – HEART STATION(2008)
2. V.A. – ポケモンTVアニメ主題歌BEST OF BEST 1997-2012(2012)
3. GReeeeN – 塩、コショウ(2009)
4. Mr.Children – SUPERMARKET FANTASY(2008)
5. RADWIMPS – 絶体絶命(2011)
6. People In The Box – Family Record(2010)
7. レミオロメン – HORIZON(2006)
8. でんぱ組.inc – ワレワレハデンパグミインクダ(2019)
9. killmilky – If you kill milky me(2022)

自分はあまり友達や思い出を大切にできない人間です。コミュニティを抜けるとそこの友達や記憶を切り捨ててしまうきらいがあるため、学生時代の友達はほとんどいないし、楽しかった記憶とかあんまり残ってないです。だけど音楽に関わる記憶はとても残っている気がします。幼少期に親の車で流れていた「Fight The Blues」も、母の美容院で流れていたポケモンも、初めて買ったCDを置き忘れたバスの座席も、ドラマ『バッテリー』の主題歌を初めて聞いた時も、良さが分からなかったアルバムのことをいつの間にか大好きになっていたことも、もらったボロボロのベースを必死に綺麗にしたことも、友達の家にベースを持って行ってバンドごっこして遊んだことも、初めてバンドでやった曲もスタジオもメンバーも、変拍子って面白いなと思ったことも、昔嫌いだった曲がいつの間にか好きになっていたことに気づいたときも、サークルでコピーしたバンドのことも、ステージ袖で全く弾けないことに焦る夢も、テスト期間に「プレシャスサマー!」を聴きまくって乗り切ったことも、友達によく分からないバンドに誘われたことも、骨折しながら録音したことも、初めて出したアルバムがよく行っていたタワレコで展開されて昂揚したことも、色濃く記憶に残っています。音楽って不思議ですね。音楽が、自分と「記憶」「人」を繋げてくれている気がします。

* * *

■ Release

killmilky – If you kill milky me

□ レーベル:Self Released
□ リリース:2022/04/06

□ トラックリスト:
1. 誘蛾燈
2. 白昼夢
3. リリイ
4. メロンソ
5. おかしくない

配信リンク:https://big-up.style/AgTBH4wQGR

■ Live

Total Feedback 2022 Release Party 1st half
2022/07/31(日)@高円寺HIGH
open 15:00 / start 15:30

w/
Cuicks
LUNE
Optloquat
The Florist

DJ/die-O(Hour Musik, si,irene, Shoegazer Archives)
小野肇久(DREAMWAVES)

https://eplus.jp/sf/detail/3640190001

WHITENOISE SUPERSTARS
2022/09/19(日/祝)@高円寺HIGH
open 15:00 / start 15:30

w/
ASTROBRITE
cruyff in the bedroom
Taffy
キュビノワ

https://eplus.jp/sf/detail/3673140001

■ Profile

killmilky(キルミルキー)

〈L→R〉中野ち子(Gt.)/ 小森まなこ(Vo. Gt.)/ ★(Dr.)/ わだ(Ba.)

killmilkyは前衛音楽暴力集団であり、 病的総合芸術集団であり、倒錯涅槃食人集団であり、実験的仮構集団であり、記憶痕跡の分裂による幻視的象徴であり、覚醒状態において見る夢であ り、非存在であり、幻聴である。
killmilky = fictional avant-garde hypnotic hallucinatory schizophrenic silent hysterical insane nostalgic punitive latent perverse cinematic cannibalistic violent milky shoegaze music collective

Author

對馬拓
對馬拓Taku Tsushima
Sleep like a pillow主宰。札幌出身。音楽ブログの運営、ディスクユニオンのスタッフなどを経て、現在はライター/編集者が本業。主な実績は、揺らぎ、SPOOL、pollyなど国内シューゲイザー・バンドへのインタビュー、Tapeworms『Funtastic』ライナー執筆など。座右の銘は「果報は寝て待て」。