
cephaloの音楽は、清々しいくらい強烈なパンチだ。2023年に結成、2024年5月にEP『wind surfing school』をリリース、そして2024年12月にフルアルバム『Fluorite code』をリリースした東京の4人組は、基本的に全員ひとりが好きで少しひねくれている。その絶妙な関係性が彼らのポップで力強い歌のミソだと思う。仲が悪いわけではないけれど友達というわけでもない。でも強く信頼しあっている。お互いに対し「本当にいい」「本当にすごいと思っている」と惜しみなく賛辞を送るが、ステージ上はお互いに少し照れてしまう。そんな、音楽をやるためだけに出会ったような4人だからこそ、この忌憚ないポップスを奏でることができるのだろう。

今回は、オオマエ(Gt.)とfuki(Vo. Gt.)を招いてインタビューを実施した。バンドにとって初のインタビューということもあって、結成から最新作『Fluorite code』に至るまでの道のりを教えてもらっている。fukiの歌を聴いていると、ふと自分に自覚的になった瞬間、突き放されるように響く時がある。fukiは歌詞について「基本的に今の自分が好きじゃないので」と言っていた。もしこの突き放されるような感覚が、fukiの「今の自分」に対する感情から来るものなのであれば、この音楽は一種の救いなのだと思う。なぜなら彼女は今歌詞の中にある過去の自分をとても大切にして、愛していると言っていたから。
インタビュー/文=鈴木レイヤ
編集=對馬拓
写真=井上恵美梨
■ 想像する部分が一致してる
――まずはバンド結成の経緯からお聞きします。cephaloのメンバーとの出会いから教えていただけますか?
オオマエ(Gt.) 結成は2023年ですね。最初のシングルを出したのが12月かな。
――元から友人だったわけではなく、そもそも音楽をやろうという趣旨で出会ったんですか?
fuki(Vo. Gt.) 元々バンドをやりたかったんですけど、服飾系の学校に通ってたので……そういう仲間がいなくて、路頭に迷ってて。掲示板で趣味の合う人いないかなと思ってたら、リュウセイくん(オオマエ)がデモとかを載せてて、それがすごく良かったので話しかけました。
――掲示板!?
オオマエ OURSOUNDSっていうバンド募集の掲示板があって、そこで知り合いました。一応メンバー全員そこで知り合ってますね。
――アメリカのLetting Up Despite Great Faultsも全員掲示板で知り合ったって言ってました。Craigslist?っていう海外のジモティ的なやつらしいですけど。
fuki 本当ですか? Letting Upめっちゃ好きです。

――みなさんの音楽的な自己形成に寄与した作品、バンドって何が思い当たりますか?
fuki 私はtricotが大好きで、もう本当にライブもかなり通ってました。高校のときは特にハマってて――でも友達がいなかったので、とりあえず下北沢に来て「誰でもいいからバンド聴きたいな」って思ってライブハウスに入ってました。それでSEAPOOLとかそういう良いバンドにたまたま巡り会えて、バンドに傾倒したけど――その前は電子音楽が好きで、それこそネット音楽みたいなのばかり聴いてた感じでした。バンドがかっこいいと思うようになったのは高校ぐらいからです。あとはサカナクションとか。
――ネット音楽だと例えばどんなものですか?
fuki ボカロとかばかり聴いてましたね。バンドを知ってから「こういう音楽もあるんだ!」って。でも、一番大きいのがジュディマリ(JUDY AND MARY)。ああいうポップなものが本当に好きですね。めっちゃポップか、めっちゃ暗いか。
――オオマエさんはどうですか?
オオマエ 僕は中高生のときに、テレビでスペースシャワーTVのパワープッシュとかで流れてたような音楽にかなり影響を受けましたね。その時期だと、それこそマスドレ(MASS OF THE FERMENTING DREGS)とか、plentyがデビューしたぐらいの年だったのかな。あとは残響系(*1)ですね。他にはART-SCHOOLとかTHE NOVEMBERSとか、そこからバンドにハマっていきました。
*1:téのギタリストである河野章宏が代表を務めるレーベル、残響レコード周辺アーティストの俗称。主に2000年代〜2010年代にかけてPeople In The Boxやcinema staff、mudy on the 昨晩、the cabsなど多数のバンドを輩出し、“残響系” と呼ばれる一大ムーヴメントを築いた。
――對馬:残響の文脈が強いのかなっていうのは聴いてて自分も思っていたところで、合点がいきました。リズム隊のメンバーはどんな音楽が好きなんでしょうか?
fuki 知り合って最初にすごい趣味が合うと思ったのは、ベースのオオタキさん。古川本舗の話とかで盛り上がりました。でもリズム隊の2人は海外が好きかな。
オオマエ 基本的に2人とも洋楽オタクみたいなところがあるので。
fuki オオタキさんはすごいオタクです。相当詳しい。あと、なんでも直せる。エフェクターだけじゃなくて、自転車とかも直せます。
――ステージ上だとベースのオオタキさんがど真ん中で、デカいし、身体も演奏も動いてる感じで存在感があったので、リーダーっぽい感じなのかなと勝手に思ってました。
オオマエ リーダーっぽいといえば、そうですね。
fuki リーダーというか、しっかり者。
――バンマス的な?
オオマエ そうかもしれないですね。
fuki 部長。
オオマエ 僕ら2人がちゃらんぽらんで、だらしないところがあるんで、そこを年上の2人に補ってもらってる感じです。
――オオタキさんのベースは “喋ってる感じの演奏” が多い印象もあります。
fuki そうですね。オオタキさんのベースは元々メロディアスな感じなので、「unnamed planet」のときは特にそうしてほしかったんですよね。デモのときはベースを入れず、ギターを5個ぐらい重ねて作ってて。その中で1本変な動きをしてるギターが入ってるのが重要だったんですけど、それをなんにも伝えなかったのに見事にやってくれて。私はもうおまかせで「やってください!」みたいな感じでデモを渡してたので、言わなくても伝わるんだ……ってびっくりしましたね。
オオマエ でも、結構動くんですけどヴォーカルを邪魔しないというか。ちゃんと裏で動くベース、みたいな感じがあるんですよ。
fuki シャイなのに、歌に合わせてベースを作ってきたりするときもあります。
オオマエ ここ目立ちたいんだ!みたいな。笑
fuki 同じフレーズで重ねてくる時があって、かわいい!って。言わないですけど、心の中で。
――記事が出たときに知ることになりますね。
fuki かわいいと思ってますよ!

――對馬:ドラムのウチダさんのバックグラウンドはどうですか?
fuki 彼もガッツリ洋楽。それこそ2023年のLetting Up Despite Great Faultsの来日公演は、私行ったんですけど――そのとき、実はウチダさんもいたらしいです。Sigur Rósとかも好きですね。
オオマエ 多分ウチダさんが一番シューゲイザー好きなのかな。
――對馬:そうなんですね・:*+.(( °ω° ))/.:+
オオマエ あと日本だったらYUIが好きって言ってましたね。
fuki そうだ、YUIだ!
――對馬:僕もYUIめちゃくちゃ好きです・:*+.(( °ω° ))/.:+
fuki 私もYUIめちゃくちゃ好きです!
――對馬:高校1年のときはYUIしか聴いてなかったぐらい好きですね。
fuki ウチダさんはFLOWER FLOWERがめっちゃ好きって言ってました。
――ドラマーとしてのウチダさんは、お2人はどう見てますか?
fuki ウチダさんは普段ムードメーカーでピエロみたいな人ですけど、「時化空」のときとか、人が変わったように思いっきり感情むき出しで叩いてくれるときもある。「unnamed planet」は私がトラップビートみたいなのを入れてデモを作ってたんですけど、アレンジの段階でそこに近づけたドラムをやってくれたり。かなり振り幅がある人です。
オオマエ 基本的にはシンプルでタイトなドラムを叩く人なんですけど、ちゃんと作り手の意図を汲み取ってくれるところがあるので、その辺も任せてますね。信頼してます。
――いい信頼関係ですね。
オオマエ 年上だしね?
fuki 年上だしね!
オオマエ 甘えちゃう部分はある。

――面識もなく、年齢も音楽のバックグラウンドも違う4人が、出会ったとき思い描いていたのはどういう音楽でしたか?
オオマエ どうだったんだろう?
fuki 初めて会ったときから、本当に好きなものは一致してて、 飲みに行ったときとか「あれも好きだよね、これも好きだよね」ってみんなでめっちゃ盛り上がって「この曲いいよ、この曲いいよ」って勧められたのも全部良くて――お互いの音楽を本当に信用できました、今もだけど。リュウセイくんが持ってくるデモも本当にいいし、自分が歌詞を入れてもみんな「いいね」って言ってくれるから。目指すものは明確にあるわけじゃなくて、曲のイメージごとに影響受けてるものも違うし、とにかくいろいろ好きなことをやりたいです。
オオマエ いろいろやりたいですね、その時の気分に応じて。4人の想像する部分が一致してるので、すごいやりやすいなと思います。
fuki 最初はとりあえずSUPERCARをコピーして「1回合わせてみよう」みたいな。
――對馬:SUPERCARは何をコピーしました?
fuki 「Lucky」かな? とりあえずやってみよう、みたいな感じでした。そのあとリュウセイくんがデモを持ってきてくれて、みんなでアレンジしたり、私が歌詞を入れたりして、頑張って1曲完成させて。
――その流れでできたのがEP『wind surfing school』ですか?
オオマエ そうですね。「NocturnE」がまず最初にできて、シングルで出したんですけど、そこから広がっていった感じですね。
■ 遠慮がなくなった
――作曲はオオマエさん、歌詞はfukiさんっていう分担ですか?
オオマエ 基本的にこの2人でやってます。僕がメロ以外の部分を作って、fukiちゃんにメロを入れてもらって、みんなでアレンジするパターンと、fukiちゃんがデモ持ってきて、それをみんなでアレンジするっていうパターンですね。EPでは僕がメロを作った曲もあったんですけど、fukiちゃんの書くメロがもう本当にすごいんで、アルバム(『Fluorite code』)からは全曲fukiちゃんにおまかせするようになりました。
――對馬:EPから「夜窓」について聞きたいのですが、人に聴かせたときに「イントロのギターめっちゃいいね」ってよく言われますし、一発でいい曲だと思わせる力があると思うんですよね。事実MVの再生数も伸びてますし、 EPのリード曲みたいになってると思います。この曲はどうやって生まれた曲でしたか?
fuki 「夜窓」はリュウセイくんが持ってきてくれた曲ですね。
オオマエ きのこ帝国の「ヴァージン・スーサイド」から影響を受けて作った曲でしたね。すごく暗いのに、サビから外に広がる感じの曲を作りたいなと思って生まれました。
――できた順番としては何曲目だったんでしょうか? 「NocturnE」が最初にできた曲ですよね。
fuki 「NocturnE」が最初で、「アコンドライト」とか「phew」あたりが2番目・3番目で、「cinnamon」は元々自分の曲だったんですけど、それが4番目で――最後が「夜窓」じゃない? 確か、この曲で初めて自分がメロディを入れました。
――EP制作の最後でfukiさんが初めてオオマエさんの曲のメロを変えたんですね。
オオマエ そうだ。メロ以外完成したものを持っていって――いや、一番最初は僕がメロを入れてました。
fuki 入ってたけど、作りにくかったから……
オオマエ それで全部替えてきたのがめちゃくちゃ良くて。

――對馬さんがEPを流してるのを聴いてピンときたのが、cephaloを知ったきっかけだったんですよね。「これめっちゃいいっす、誰ですか?」って。その後アルバムが出て、音像も世界観もガラッと変わって視界がひらけたような感覚でした。EPを出してアルバムを出すまでに、何か方向性の指針のようなものはありましたか?
fuki まず音作りのことはみんなに完全に任せてるから私はわからないですけど――遠慮がなくなったのかな? EPのときは全員はじめましてだったから、お互いに様子を窺いながら曲作りしてて、かなり内向きで――アルバムになったら、みんなの個性がゴリゴリ出てきたと思いましたね。私も歌い方が変わったし、歌詞ももっとダイレクトになって。リュウセイくんも、遠慮してたのかわからないけど弾きまくるようなことが増えたし、全然違うタイプのデモ持ってきたりとか。
オオマエ アルバムはもう全曲fukiちゃんに歌のメロをおまかせするようになったので、僕としてはそこが強かったのかなと思いますね。
fuki アルバムはみんなとうまく噛み合った感じがありました。
――メンバーどうし、曲を作るタイミングだったり、4人で集まることも結構多くなったんですか?
fuki ……いや。
オオマエ 基本的に家で。
fuki ある程度できるまでは各自の家で、遠隔ですね。データのやり取り。
オオマエ 曲ができてからスタジオでアレンジする感じです。
――じゃあ、遠慮がなくなったというのは、友人として打ち解けたとか、なんでも話せるとか、そういうことではないんですかね。
fuki 友達ではないよね?
オオマエ 別に仲悪いとかはないけどね。笑
fuki そうそう。私はそもそも人と遊ばないし――多分、4人とも……特に私とリュウセイくんとオオタキさんはひとりが好きな感じがありますね。
オオマエ 多分みんなシャイで内向的で、
fuki ひきこもり。ひとりで映画を観に行ったりします。
オオマエ ウチダさんだけ外交的な性格ですね。
fuki 曲も……家の方が普通に作りやすいです。
オオマエ 笑
――音楽が関係ないときに会ったりとかもあんまりないんですね。
オオマエ 全然ないですね。

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