Posted on: 2023年8月31日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

“世界一とっつきやすいシューゲイザー”を掲げる、June FAXxxxxxとMarina Timerの従兄妹2人によるシューゲイザー・デュオ、その名もThe Otalsをご存じだろうか。5月に再録曲と新曲を含む集大成的アルバム『U MUST BELIEVE IN GIRLFRIEND』、そして7月には17歳とベルリンの壁、sugardrop、eureka(Ferri-Chrome)が参加したスプリット・アルバムの第三弾『夏のルール3』をリリース。ポップなサウンドはシーンを軽々と横断し、シューゲイザー・ファンのみならず、幅広い層へ着実に刺さりつつあるようだ。

一方で、首謀者の二人はまだまだ謎に包まれている部分もあるように思う。そんなThe Otalsにインタビューを実施。二人のバックグラウンドから作品についてまで聞いた。

質問作成/編集=對馬拓

* * *

Q. 今回はインタビューにご協力いただきありがとうございます。まずはじめに自己紹介をお願いします。

ファックス よろしくおねがいします。ギターとヴォーカルのJune FAXxxxxx(ジューン・ファックス)です。

マリーナ おねがいしまーす、ベースとヴォーカルのMarina Timer(マリーナ・タイマー)です。黄色い方で〜す。


Q. 結成のきっかけを教えてください。ユニット名は、北海道の小樽市出身でThe Otalsということですが。

ファックス もともと前身のバンドがあって。まあ、よくある話なんですけど、それがなくなったので、なんかやらない? みたいな感じで。

マリーナ ほんとは(ファックスは)心機一転したかったらしいんですけど、メンバーが見つけられなくって「東京でバンドやらない?」って連絡が来ました。バンド名は「“スティービー・ワンダーランド”か“Love-Extream”どっちがいい?」って聞かれて、どっちも嫌だったのであたしがつけました。


Q. “世界一とっつきやすいシューゲイザー”を掲げて活動されていますが、お二人がこういった音楽性に行き着いた理由、あるいはシューゲイザーに目覚めたきっかけはなんだったのでしょうか。

ファックス 俺らの場合どちらかというと、「シューゲイザーがやりたい!」ってこうなったというより、いろんな条件が組み合わさってそれっぽくなった、っていう方が近くって。My Bloody Valentineとかもほとんど聴かないし。Teenage Fanclubの初期とかスーパーカーとか、90年代の歪みが強いポップなオルタナみたいなラインが好きだったっていうのが大きいのかな、あとはThe Beach Boysの浮遊感をギターの歪みとかコーラス・ワークで目指そうとした、感じ、みたいなのが、大枠なんですかね。なんか、細かいこと言い出すとぐちゃぐちゃになっちゃいそうなんですけど。

マリーナ あたしはずっとChvrchesが大好きで、あとはPerfumeとかエレポップ的なものの影響が大きかったから、ポップなやつやりたいってとこだけ共通してて。あとはエモ・バンドも好きだったので、そんなところを合体した落としどころ〜みたいな感じで、今のオタルズを考えてます。でも、あたしもスーパーカー好きだし、Letting Up Despite Great Faultsとかシューゲイザーのバンドで共通して聴いてたのもあるので、やっぱりそういうとこなのかも。

ファックス そうかも。多分、一番下敷きになったのはThe Pains of Being Pure at HeartとYuckだけど。


Q. 上記に関連して、お二人が影響を受けた音楽や映画、本(漫画を含む)、その他の芸術作品全般についてもお聞きしたいです。また、それらがThe Otalsの活動や音楽性に影響した部分があれば教えてください。

ファックス なんでしょうね、漫画とか小説とかは歌詞書いたりとかに影響してそうだけど。一番大きいのは村上春樹かなあ、それこそThe Beach Boysも村上春樹の小説に出てきたから知ったし。漫画は、岡崎京子とか、宮崎夏次系、市川春子が好きで集めてます。あとは、インディー・ゲームが好きです、『ib』とか『UNDERTALE』とか、『ムーンパレス』とか、尖ったものを見るとすごく刺激を受けます。

マリーナ ゲイジュツ……? 美術館とか行くのは好きです。ジャンルとか関係なく、その時の気分で面白そうなものを観てます。あたしはジューンと違ってあんまり本とか読まないんですけど、映画の『100万円と苦虫女』を観た時はこういう自由な生き方したいな〜って思いました。どっちかというと作品を見るより、雑貨とか服見たり、友達とカフェ行って喋ったり、そういう体験にエネルギーをもらってるタイプかも。


Q. ボーカロイドを用いた、いわゆるミクゲイザーといった潮流もありますが、The OtalsはM3で音源を販売するなどある種の同人音楽的な要素という点では共通している部分があると思いつつ、全く別の方向からアプローチしている印象です。それを踏まえ、シーンにおけるThe Otalsの立ち位置についてどうお考えでしょうか。

ファックス ライブハウスとか、シューゲイズとか、同人音楽もボーカロイドもそうだと思うんですけど、それぞれのシーンってある程度閉じているから面白いんだと思うんです。その中で共通言語や仲間意識や独自の文化が醸成されていって、尖ったものとか面白いものが生まれていくんだと考えてるんですけど。なんか、それぞれのシーンをオタルズならナチュラルに横断できるんじゃねえか? っていう風に思ってて。それは、自分たちがそれぞれのシーンが好きで、リスペクトしてるからっていうのが前提なんですけど、ライブハウスもバンドもボカロもバーチャルYouTuberも貫通して、それぞれのシーンへ興味を持つ人が増えれば、今よりもっと大きなことができるし、ニッチなジャンルにも活路が見えてくるんじゃないかっていうのが、すげえ遠くに見えてる展望なんですけど。

マリーナ オルタナとかインディー・ロックっていうジャンルが人気になるきっかけ作りみたいなのに、いつかなれたらなあ、って思ってます。


Q. 5月には既存曲に加え、リテイクやリアレンジを施した曲、さらには新曲を含む集大成(もしくはベスト盤)的なアルバム『U MUST BELIEVE IN GIRLFRIEND』をリリースしたのも記憶に新しいです。男女ツイン・ヴォーカルと程良く歪んだギターが最高に心地良い、The Otals流のシューゲイズ・ポップが突き詰められ、まさに自己紹介的な1枚かと思いますが、本作の手応えやリリース後の反応はいかがでしょうか。

ファックス ありがとうございます。いい感じなのではないでしょうか、いろいろなところで取り上げてもらえる機会も増えたし。欲張りなので、もっともっとと思っちゃうんすけど。

マリーナ 1枚目なので、突き抜けたものにしたいっていうのがあって。たくさん時間をかけて作りました。自信作なので、いっぱい聴いてもらえてほっとしてるのと、もっと聴いてよ! って気持ちの両方があります。笑

ファックス サブスクリプションや、プレイリストが主体になってきて音楽の聴き方も変わってきたと思うので、そういう新しい音楽の聴き方を意識したアルバムを作ってみようという気持ちがあって、1枚目からほぼベスト盤みたいになりました。できるだけ特別、音楽に精通してるわけじゃない一般のリスナーに“スキップさせない”ことを意識してプレイリスト的に楽曲を配置したのと、通しで聴いた時に疲れない、っていうのを両立させようっていうのを工夫しました。


Q. 7月19日にはスプリット・アルバムの第三弾として『夏のルール3』をリリースしました。The Otalsは「ティーンエイジはきみのもの」「修羅だってクラスメイト」「こっち向いてひまわり」を提供していますが、初期のスーパーカー、Base Ball Bear、相対性理論といったバンドからの影響や、あるいはゼロ年代のJ-POP的な、少し懐かしい雰囲気も纏っているように個人的には感じられました。今回提供した3曲について、何かリファレンスやモチーフにしたもの、コンセプト等があればお聞きしたいです。

ファックス 「ティーンエイジはきみのもの」は大滝詠一の「きみは天然色」に使用されているアイデアを借用しているポイントが多くて、歌い出しのコード進行とか、スレイベルで高音を埋めたり、全音での転調する、とか。曲の根幹になってると思います。楽曲の大枠はBlondesとかEVNTYDとか、インディーの影響ですね。

「修羅だってクラスメイト」は元々、Aviciiを参考に作り始めた曲だったんですけど、サウンド的にはトロピカル・ハウスの影響が強くて、ニューヨークのクラブDJの曲とかを漁ったりして、楽曲の大枠とかサウンドメイクのイメージを固めていきました。邦楽っぽく落とし込む方法としてはyunomiを参考にしました。あとは平沢進も、もうなんか、参考にするとかすら烏滸がましいんですけど、この曲を作るときにたくさん聴いてました。メロディは「ティーンエイジはきみのもの」を作るために、シティポップを聴き漁ってたときにリピートしてた山口美央子の影響が大きいと思います。そこが相対性理論っぽいのかな。

「こっち向いてひまわり」はシンプルにスーパーカーの「PLANET」とOasisをイメージして曲の土台を作りました。多分、00年代のJ-POPぽいっていうのはこの曲かな、と思うんですけど、それはこの曲が合唱曲みたいなイメージでメロディーを作ったからだと思います。「BELIEVE」とか。レコーディングの時までは、もっとたくさんヴォーカルテイクを重ねて、合唱曲っぽさをもっと出す予定だったんですけど。最初に録音したマリーナのヴォーカルが結構良かったので、重ねるのをやめました。


Q.『夏のルール3』に提供した上記3曲はもちろん、「そしてチャイナブルー」「シナリオライターを撃たないで」「スウィートリヴェンジは悪魔でも」など、The Otalsは印象的な曲名が多いです。どうやってタイトルを付けているのでしょうか。

ファックス これ結構聞かれてて、その割に全然答えてないんですけど。Climb the mindの影響で日本語の文章のタイトルをつけています。「ベレー帽は飛ばされて」とか「給水塔の前で待ってて」とか、タイトル自体が一つの物語を持っているような感じに衝撃を受けてから、自分なりにタイトルにこだわるようになりました。あとは、ほとんどの曲は曲を作り始める前にタイトルをつけています。強いて言えばそれが珍しいところなのかな、と思いますね。


Q. 今回のスプリットには17歳とベルリンの壁、sugardrop、そしてFerri-Chromeからeurekaさんと、豪華な顔ぶれが揃っていますが、それぞれどういった経緯で参加が決まったのでしょうか。個人的には「修羅だってクラスメイト」のeurekaさんのヴォーカルが絶妙にマッチしていて良かったです。

ファックス これは、それぞれというか、eurekaさんも含めてみなさま同じでして、ある日突然TwitterのDMで「こういうのを一緒にやりませんか」というふうにお誘いしました。そして、今年の初めに快諾のお返事をいただき、このメンバーで固まった、という。恐ろしいことに説明すると本当にこれだけになっちゃうんですけど。参加してくださった全員に心から感謝しております。俺らは実際、どこのシーンにも所属していないし、ライブもやっていないっていう、いわば“誰も身元を保障してくれない”みたいな状態なわけで、そんな謎の二人組の立てた企画に二つ返事で乗ってくれた、17歳とベルリンの壁や、sugardropや、eurekaさんの懐の深さだけでこの企画は実現しました。本当に本当に感謝しています。「修羅だってクラスメイト」については、eurekaさんの参加が決定してから曲を作り始めたので、彼女とマリーナの声をそれぞれ意識して作っていったのが大きいんだと思います。意外な感じだった! と言っていた人も多かったんですけど、リズミカルなメロディがきっと似合うと思ったので。結果としては、たくさんの人が気に入ってくれたようなので、安心しました。


Q. 17歳とベルリンの壁、sugardrop共に、既存曲に加え新曲も提供しています。初めて聴いた際、どのような印象を持ちましたか。また、今回の提供曲はどういった基準でセレクトされたのでしょうか。

ファックス 『夏のルール』の収録曲は参加バンドに全てお任せしているので、俺らは全部出揃ったときに初めて聴くっていう、完全にリスナーとおんなじ気持ちで聴いてます。笑 ベルリンの再録曲「誰かがいた海」と「楽園はない」については以前から聴いていた曲だったので、懐かしい気持ちになれたのと同時に、サウンドの美しさに改めて圧倒されました。新曲の「バンドワゴン」は、ドリーミーな要素ももちろんあるんですけど、むしろ、今までのベルリンの楽曲と比べて、サウンドもヴォーカルもドライで輪郭がはっきりしていて、肉体的で生命力に満ちた印象を強く受けました。夢の中にいるというより、現実の中でちょっとぼんやりしているような、そんな心地良さがありましたね。

sugardropは逆に、全曲共通して爆発音みたいなギターが突き抜けてて、もうなんか「ギターってここまでアクセル踏めるんだ」っていうのにビビりました。自分たちは型にハマらずに自由に作ってるつもりだったのが、全然普通だったのかもって焦りが生まれました。爆音ギターの裏に歌がいるような、シューゲイザーとも近いようなサウンドメイクなんですけど、歌メロが意外と甘くてポップなのが必殺ポイントだと思っています。爆音ギターと骨太なリズム隊とポップなメロディー、それをクールにまとめ切る力っていうのが、到底敵わないな、と思います。


Q. 勢力的なリリースで注目度も上がっていることと思いますが、今後の活動についての展望をお聞かせください。

ファックス まじで先のこと何にもわかんないですけど、必死こいてやっていくしかないかな、って。

マリーナ 成り行きですけど、人生全賭けしちゃってるので勝つまで勝負するつもりです! みんなを楽しませるようなことをたくさんやりたいと思ってます!

■ Release

The Otals / 17歳とベルリンの壁 / sugardrop – 夏のルール3

□ レーベル:Blue Moon Garage
□ 仕様:Digital
□ リリース:2023/07/19

□トラックリスト:
1. The Otals – ティーンエイジはきみのもの
2. The Otals + eureka – 修羅だってクラスメイト
3. The Otals – こっち向いてひまわり
4. 17歳とベルリンの壁 – バンドワゴン
5. 17歳とベルリンの壁 – 楽園はない
6. 17歳とベルリンの壁 – 誰かがいた海
7. sugardrop – 21,22,23
8. sugardrop – sea and light
9. sugardrop – aoi (2023 Re-recording)

■ Profile

The Otals(ザ・オタルズ)

June FAXxxxxxとMarina Timerの従兄妹2人によるシューゲイザー・デュオ。2021年3月にEP『The Night Swallows』を無料公開しデビューを飾った。インディー・ポップに接近した甘いメロディと『Pet Sounds』的なコーラス・ワークを持ち味としている。アメリカン・カートゥーンをイメージさせるアートワークも相まって、既存のシューゲイザー・シーンでは類を見ない独自路線を突き進む、自称“世界一とっつきやすいシューゲイザー”。

Author

對馬拓
對馬拓Taku Tsushima
Sleep like a pillow主宰。編集、執筆、DTP、イベント企画、DJなど。ストレンジなシューゲイズが好きです。座右の銘は「果報は寝て待て」。札幌出身。