Posted on: 2022年12月4日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

11年の時を経て、sphereが堂々の帰還を果たした。2022年11月2日にTESTCARD RECORDS/TETRAHEDRONからリリースされた『A Fusion Of Two Hemispheres』は、その事実を美しい轟音と共に我々へと告げる。2007年、ZEPPET STOREの創始者でありギタリストの五味誠によって始動したsphereは、これまで3枚のアルバムをリリースしてきた。しかし、ZEPPET STOREの再結成を機に沈黙。そこへCOLLAPSEのShoko Inoueが新たな息を吹き込むことで、長い夜が明けることとなったのだ。

そして、sphereの復活劇はこれで終わりではない。『A Fusion Of Two Hemispheres』の“攻略音源”『sphaera anatomica』のリリースである。本作では、球体として融合(=fusion)された半球たち(=hemispheres)を自ら分解し、新たなアレンジを施した“naked”、サウンドのみにフォーカスした“inst”にそれぞれ解体。“ius(右脳)”と“left(左脳)”の2部に再構成するという手法で我々を驚かせた。

本稿は、TESTCARD RECORDSが発行するZINE『Rules』Vol.06に収録されたインタビューを補完する完全版である。どこまでも奥が深いsphereの音楽世界、その深層を本稿で少しでも垣間見ていただければ幸いである。

質問作成/編集=對馬拓


Q. 完成おめでとうございます。sphereとしては前作から実に11年ぶりのアルバムとなりましたが、sphere印とも言える耳を埋め尽くすようなシューゲイズ・サウンドを聴くと、再び時が動き出したような感動があります。手応えはいかがでしょうか。

五味:常に作品を発表する時は過去の自分、それぞれの形態での自分たち、を超えること。そうでなければ意味をなさないと思ってこれまでも取り組んできたつもりです。そういう意味でも今作は十分な手応えを感じています。


Q. sphereを再始動させる上で、何か具体的な契機があったのでしょうか。経緯をお聞かせください。

五味:実は11年も止めるつもりはなかったのですが、結果的に11年ぶりになってしまった。3rdアルバム『syvyys』の発表とZEPPET STOREの再結成のタイミングが重なり、そこでsphereのメンバーには別れを告げました。自分が作ったゼペットという家に再結成のタイミングで家出してた不良親父が戻っていく、家は2つ必要ないので、というニュアンスなのかと思います。その代わり、sphereを本家とは別のプロジェクトとして動かすつもりはその時点でもありました。sphereは自分にとってはライフワーク的な意味合いもあります。東京酒吐座(Tokyo Shoegazer)への一時的な加入やそれ以降の多くのアーティストのサウンド・プロデュース業のかたわらにもその想いは常にありましたが、パートナーとなり得る女性ヴォーカリストを探しながらもどこか忙しさにかまけていた。ただ、これまでも数人の方とトライはしようとしたり、実際一昨年には通販限定でシングルを出してみたりもしてみました、が、パートナーと呼べる存在とは出会えなかった。今回Shokoと出会えてその想いが実現できた、ということです。


Q. sphereとしては11年の空白期間がありますが、五味さん自身はその間、ZEPPET STOREの再結成や数多くのシューゲイザー・バンドのプロデュース(近年ではOptloquatやNuit)など、精力的に活動されてきたかと思います。そういった経験は、今作に何かの形で還元されているのでしょうか。

五味:もちろん、作曲面/演奏面/エンジニアリング、ミキサーとしての側面/サウンド・プロデュース/プロデュースと様々なところで還元されてるはずですが、ただ自分の人生の流れの中では一本の道なだけで、以前のsphereでの経験も、再結成後のゼペットの活動やサウンド・プロデュースでは大いに活かされているはず。それぞれ具体的にどことまでは言えないけど……人は生きている中で成長したり覚えたりとプラスになるものだけではなく、止まったり忘れたりを繰り返してるものだろうなとも思っています。還元されつつも失ってるものもあるかもしれません、笑。ゼペットにしろsphereにしろ過去作を聴いて、あれ?案外良い……なんて感じることもある。また、忙しさにかまけて11年間sphereとしては進まなかったのは明らかに失ったもの、とも言い切れず、あのままsphereを同時進行しなかったからこそ今のsphereに辿り着けたとも言えます。実はゼペットの結成時からギタリストというよりもサウンド・プロデューサー/プロデューサー的な側面のほうが強かったりします。再結成後もそこは変わらずなのですが、多くのバンドマンと触れ合いサウンド・プロデューサーとして一緒に制作していく中で、人に何かを伝える/教える、という行為は自分にとってもとても勉強になるんだな、と感じてます。伝えながら教えながら心の中では「……と教えながら、ごめん、また、俺成長しちゃった」って思ってます、笑。


Q. 今作はヴォーカリストとして、COLLAPSEのShoko Inoueさんが全面的に参加しています。お二人の交流は以前からあったようには思いますが、参加のきっかけは何だったのでしょうか。

五味:ex. 東京酒吐座という意味での共通点はありますが、彼女は東京酒吐座の解散後、自分のいない再結成での参加で、在籍した時期が違うのでそれまでに交流はありませんでした。前に触れたように自分はずっと女性ヴォーカリストを探していて、うちに来るバンドマンたちに「誰かいないか?」とよく聞いていました。実はShokoの名前は何回か出ていましたが、その時彼女はCOLLAPSEと並行して東京酒吐座の活動もしていて、名前が挙がる度に「……では、ないなあ……」でした、笑。理由はなんとなく察して頂ければ。ただ、その度にCOLLAPSEのMVをチェックしたり、実際COLLAPSEのライブも数回観ていました。Total Feedbackの配信インタビューに出演した際に彼女もその場にいて、そこで初めて挨拶したのですが、東京酒吐座を脱退していたことを知りました。これまでは声をかけるという選択をしない理由としてのその一事が、おもしろいことに、声をかけてみようと選択する理由となったとその時感じました。「ex.同士、おもしろいんじゃない?」と。こちら側で勝手に名前が挙がっていたことを伝えた上で「やってみる気はありませんか?」と彼女に聞いたところ、今のShokoはその時なんて答えたか覚えてないかもしれませんが「やってみたいです」と言ってくれました。実はその時点でも声をかけていた人がいたのですがその「やってみたいです」という能動的な返事が自分の中では決定的に思えました。

Inoue:初めてお会いしたのが2021年春、わたしはTotal Feedbackの配信用の撮影にカメラマンとして参加していて、ZEPPET STOREという大先輩の対談撮影ということで緊張感をもって向かったことを覚えてます。その日の現場で初対面なのが唯一五味さんだけで、部屋に入ってすぐ、奥のソファに座っている見慣れない人影を見つけてあの人かな、と思い当たりました。写真や映像では存じ上げておりましたがやはりその存在感、わたしはしっかり人見知りを発揮して当たり障りのない挨拶をしたように思います。撮影後の帰りがけ、高円寺の路上でsphereのお話を頂きましたが、その日のことだったのでわたしでいいのかしら、そもそもついていけるかしら、という不安はよぎりました。正直なところその日の印象では怖そう、厳しそうな印象もあったので…。でも、その日撮影した対談の中で、sphereはライフワークとして一番やりたいことのひとつ、というふうに仰っていたのが印象に残っていて、そういうスタンスの場所に誘って頂けるのは光栄なことだと、自分にできるか不安はあるけど、やるだけやってみたい、という意味も含めて、お答えできたのが「やってみたいです」、だったと記憶しています。あの、福来門(高円寺にある中華料理屋)を出たところでのやりとり、わりと鮮明に覚えているつもりです、笑。


Q. Inoueさんの柔らかで天上的なウィスパー・ヴォイスは、繊細さとアグレッシブさが同居した、どこか開放感のある美しいsphereのサウンドと非常にマッチしています。五味さんはInoueさんのヴォーカルをどのように感じていますか。

五味:大好きです、笑。自分のこれまでやってきたバンド史上/サウンド・プロデュース史上で一番、単語ひとつひとつ、音符ひとつひとつを丁寧に歌う人です。ゆえに彼女の魅力を活かす側としての作曲者としての側面、録る側としての側面、仕上げる側としての側面、全てにおいて手など抜けません。そして自分史上一番小さい声でもあります、笑。レコーディング中、ウィスパーの発声法で丁寧に歌い過ぎて酸欠状態になったりもしていたようです、笑。その全霊を受け止める責任を感じながら進めました。歌詞の行間/声のひとつひとつに意味を探したくなる、そんな不思議な魅力を持ってると思います。


Q. 今回再始動するsphereは五味さんとInoueさんの2人によるユニットなのでしょうか。また、そうなったことで過去のsphereとは何か変化した部分がありますか。例えば、五味さんのソロ志向がより強固に、顕著になったなど、具体的な変化があれば教えてください。

五味:2人のユニットです。彼女に「これは俺のソロではない、2人は対等な立場で2人でsphereです」と伝えました。以前のsphereはバンドでしたが、1stと2ndまではほとんどの作曲/アレンジ、3rdでは全曲の曲作りを進める上でのイニシアチブを自分が持っていたので、自分の作りたい世界観に他のメンバーが合わせてくる、そういう意味ではバンド形態ではあったけどむしろ自分のソロ志向であったとも言える、というのが過去のsphereでした。今回は、Shokoにこういう曲を歌ってもらいたい/こういう曲ならShokoはどう歌ってくれるだろう、というShokoとしかできないsphereを強く意識しました。曲作りでは全パートのアレンジを自分がしてしまうのでそこは以前とあまり変わりありませんが、動機の部分が全く違います。もちろん自分も最初の軸にはsphereらしさというものを置いているし、Shokoも彼女なりのsphereらしさを念頭に置いてくれて取り組んでくれたのだろうとは思いますが、2人でのsphereというところが大きく違うところだと思います。


Q. 今作では、作曲にお2人がクレジットされているM6「hibernation」以外の全ての楽曲で五味さんが作曲、Inoueさんが作詞を担当されています。楽曲の制作はどのように進んだのでしょうか(メロディが先 or 歌詞が先、といった点も含めてお答えいただきたいです)。

五味:先ほどお話しした「Shokoが歌うsphere」という考えを軸に、まず作曲からです。制作期間は、約1年間を①Shokoがsphereをトライする期、②sphereらしくもあり尚且つShokoの良さを引き出せるであろう曲期、③こういう曲はどう歌ってくれるだろう?期、④Shoko的には更なる挑戦となるであろう曲期、の4期に分けました。制作時期がCOLLAPSEのアルバム制作後半と重なっていたこともあり、急かすことなく彼女のポテンシャルを十分出してもらいたかったので焦らずゆっくり進めました。①で行ける!と感じられたから、②で早くも2人でのsphereの名刺代わりとなるような曲を作ることができ、③では自分がチャレンジすることができ、④ではShokoに新たなチャレンジをしてもらえた、というふうに感じてます。実際の進め方としては、6〜7割の完成度のデモをShokoと今回Additional Playerとして10曲中9曲でドラムを叩いてくれた三浦拓馬(Optloquat)に渡し、ドラム・レコーディングからスタートし、その後ダビングを進めながら、Shokoの歌詞が完成したら歌のレコーディング。歌詞と声を感じながらアレンジの余白を埋めていくという進め方でした。

Inoue:五味さんから最初に曲が送られてくる時点で、ピアノで歌メロが入っています。今まで自分がヴォーカルをしてきたバンドは基本的に歌メロを自分で作ることがほとんどだったので、歌メロが入っている状態で始まることがまず新鮮に感じられました。そういうわけで今回sphereでのわたしの制作は、与えられた音像と旋律に歌詞を書くところからスタートしています。例外として作曲クレジットが連名となっているM6ですが、わたしがいつか曲にしたいとずっと寝かせていたピアノのフレーズに、五味さんの手が加わったら、sphereとして曲にしたらどうなるんだろう、と思って相談してみたのが始まりでした。あまり自分の曲を途中で誰かに託したことがなかったのでどきどきでしたが、アレンジされて帰ってきた音源はわたしには少しも見出せなかった道が拓かれていて、嬉しさと、少しの悔しさもありました……。


Q. 今作の歌詞を書くにあたり、Inoueさんが込めた想い、モチーフにしたものなどがあれば教えてください。

Inoue:uroco.から始まりCOLLAPSEを通して形成されてきたわたしの歌詞の書き方は、感情の動きや物語であることが多いのですが、この1年でsphereという世界観を経て、風景を含むすこし抽象的な表現に幅が広がったような印象があります。どの曲もそれぞれ自分にとって大切なテーマを持たせてありますが、朝の澄んだ森をイメージしたM5「in a melodious forest」、冬にこそ感じられるぬくもりを歌ったM6「hibernation」、幸せの色を愛でるM8「yellow」などは、以前のわたしには書けなかったと思います。五味さんの作る音像や見ている景色に引っ張られて、わたしの語彙と感覚のフィルターを通って歌詞になった感覚、これも新鮮な経験でした。


Q. 今回の制作を経て、自身にとってお互いをどのような存在に感じていますか。制作面、精神面、それぞれについてお聞きしたいです。

五味:Shokoの歌うsphereという考え方を優先して進めたので、まず最初に言えるのは創造の源泉であり創造の母であり、sphereにおける全てです。11年間やりたくてもやれなかったsphereを動かすことができた救世主であり、sphereはライフワークでもあるので自分にとっては恩人でもある。COLLAPSEでは0〜100まで制作面の全てをできてしまう人なのに、sphereでは自分のやり方に付き合ってくれた……Shokoからするとこそばゆいかもしれませんが、本当に出会えて良かったと思える大切な存在です。

Inoue:海みたいだなあと。ジャケで凪いでいるような、穏やかな海。最初、雲の上の人という感覚だったので、まず人間として認識するのに時間がかかったようなところがあります。とにかく畏れ多いという気持ちが先立って勝手に緊張感を持ってましたが、そんな中で何度も言われたのが、sphereを楽しんでほしい、ということでした。音に対する姿勢、普段から端々に見える独特かつ整った言葉選びは、背筋が通っていてそれでいて寛容で。わたしという新しい要素を含めてなお正しく存在し続ける海、sphereはこの海で浮遊しているんだと思います。


Q. 特に近年、若手のシューゲイザー・バンドも数多く出てきている印象ですが、sphereのサウンドにはそれらの追従を許さない、細部まで作り手の精神性や意志、意匠が行き届いた構築美のようなものを感じます。また、例えばRiLFのようなポスト・ロックの系譜を汲んだバンドとも呼応する印象です。五味さんはZEPPET STOREをはじめ、長きに渡る音楽キャリアを重ねてきましたが、その上でsphereはどのような位置付けで、どういった志向性のプロジェクトなのでしょうか。

五味:ZEPPET STOREで初めて世に出て以降も各プロジェクトにおいて念頭に置いているのは名前や実績とは関係なく「音」だけで何が伝わるか、です。その都度チャレンジでありその都度その成果を感じられることができたと思っています。そしてsphereが自分にとって特別である理由は世界との距離が一番近く感じられること、です。シューゲイザー・サウンドをベースにしていることと英語詩であることがその要因だと認識しています。11年以上も前の作品のアルバム・ジャケットのモチーフを入れ墨にしたとSNSで送ってくれたり、違法で上げられたYouTubeに熱いコメントを書いてくれてる海外のファンを見てると、人数は大したことはないかもしれませんが、楽曲が一人歩きし世界を旅していることを強く感じます。ではなぜ見つけてくれたのか? 他者との差異を感じてくれたからだと思ってます。定型化(ジャンル化)されたものを粉飾するのではなく、表現者として新しいサウンドを常に探求すべきと思っています。どのジャンルであれ最初はその時代を切り拓くのは若者たちで、理由は単純、新しいものを聴きたい、やりたい、なだけのはず。その想いは歳を重ねても尚募ります。その自由度を忘れないためにもsphereは11年間やりたかったものでもあった、とも言えます。sphereの曲作りは鍵盤でまず始めます。45年弾き続けている楽器より発想が新鮮になる。ギタリスト五味がギターで曲を書かない、シューゲイザー的でありながらピアノ・ロック。それがsphereのひとつの特徴かもしれません。それと全楽器のアレンジも所謂普通な選択はしない、常に差異を探求する。ただし、ただ奇をてらうだけではなく、何十年も聴きたいと思える楽曲の耐久性/普遍性も意識しています。ポップでありキャッチーでもある。ここで重要なのが歌/声/メロディだと認識しています。小難しいものを聴きたいとは思っていません……気持ちよくありたい。これらを要約すると「俺が聴きたい音楽をただ作る」がsphereです。


Q. インタビュー実施時は、リリースに向けて音源のミックス/マスタリングが現在進行形で進められているさなかです。おそらく突き詰めれば突き詰めるほどキリのない部分だと推測しますが、具体的にこだわっている部分があれば教えてください。

五味:人が聴けばほんとに些細な部分であったりを筆を足し続けたい欲求はこの作品に関しては止まりません。モナ・リザをそうしたダヴィンチの気持ちも理解できます。実は今作はsphere史上では音数は少ないほうで、ユニットという形態を取りながらも出してるサウンド自体はバンド・サウンドを軸にM10を除けば打ち込み要素は割と少ない。ゆえに筆を足すというよりは描いた一筆一筆が鮮明に映えるように、音像の中でShokoの声が映えるポイントを探したり、を繰り返し行なっている、という感じです。


Q. Inoueさんの「sphereの曲が五味さんの手で磨き上げられていく過程、それすら美しくてこのアレンジの変遷すら誰かに知ってほしくなる」というツイートを見かけ、とても印象に残りました。自身がヴォーカルを吹き込んだ楽曲が自分以外の手で完成へと向かっていく感覚は、やはり新鮮なものでしょうか。

Inoue:Twitterチェックありがとうございます、ツイートは割と生ものと思っているので、後から客観的に読むとなんだかこそばゆいですね……。制作の流れについて先ほど話題に上がりましたが、歌を入れたあとにアレンジが大きく変化する経験はわたしには初めてのことでした。五味さんは「余白を埋める」と表現されていましたが、その表現では足りないくらいの進化が度々あり、それもわたしの自由に書かせてもらった歌詞の意図まで含んだ形に音が再形成されていく、そういう不思議な感覚からの呟きでした。ほんとうに、アレンジの変化、曲の進化の過程、このワクワクを誰かと共有したいと願いました、わたしひとりには贅沢すぎる経験で。


Q. sphereの楽曲やアルバムのタイトルには、どこか一貫した世界観/美意識のようなものを感じますが、どういったところから着想を得ているのでしょうか。

五味:過去のsphereではよりコンセプトを明確にしていて、中には曲タイトルまで決めた上で自分が曲を書き、当時のヴォーカルがそのタイトルの中で歌詞を書いたりなどもしていました。今作ではむしろコンセプトは重視せずイメージもある程度伝えながらも余白を残してShokoに共鳴してもらうことで歌詞をもらい、曲が行きたがってるところ、本来の曲の姿をあとから自分が知ったり、さらにアレンジを深めていったりもしました。ですのでタイトルは歌詞が完成し歌をShokoが歌った時点で決めていきました。歌詞ができた時点でShokoがタイトルの候補を示してくれて、それをさらに発展させたり……2人の共鳴で2人のsphereを各曲作っていく中でタイトルが決まっていった、タイトル決めが仕上げという感じで、言葉遊びを2人で楽しんでいた感もあります。

Inoue:個人的には、大前提としてまずsphereであるべき、というのを制作全般において意識していたので、それを探る意味でも、タイトルのための言葉遊びの中で五味さんのニュアンスを掴んでいったような部分はあります。歌詞はかなり自由に書かせてもらっていて、その歌詞やわたしの補足から五味さんがイメージしたものをタイトル案としてフィードバックしてもらったり、連想したものの話をしたり、そうやってそれぞれの背景を共有していきました。客観的にみて世界観の一貫性があるのは五味さんの背筋に由来するものが大きいと思いますが、少なからずわたしもsphereとしてその世界を共有できていることが、確認できて嬉しいです。


Q. 今作のタイトルは『A Fusion of Two Hemispheres』と銘打たれていますが、何か具体的なコンセプトがあるのでしょうか。個人的には、五味さんとInoueさんをそれぞれ「半球(=hemisphere)」に見立て、その融合(=fusion)が果たされた作品だと受け取れると感じたりもしました。

五味:その解釈で基本的には合っていると思います。自分が音楽を始めた頃から好きなカナダのRUSHというバンドの『Hemispheres』というアルバムからヒントを得ています。実はsphereという名前自体そこからきてるとも思っています。完全なる球体などにはなれないことを理解しつつもそうなりたいという願望とでもいうか。2人でのsphereという時点で“Hemispheres”という単語がまず出てきました。

Inoue:なにか、自然にアルバムのコンセプトがsphereにフォーカスしていった気がします。アルバムタイトルの考案を意識し始めた頃に歌詞の制作中だったM7「two hemispheres」、その後のM10「sphaera dissolvit ut luna plena」、これらは“sphere”という、今回の制作にあたりわたしにとって絶対の縛りをテーマに歌詞を構成していました。縛り、という言葉は少し語弊があるかもしれませんが、わたしにとって制作の最初のほうは本当に手探りで、sphereらしさってなんだろう、逆にわたしがsphereでできることはなんだろう、という“sphere”との対峙みたいな部分がありました。それが制作が進むにつれ自分なりの解釈が形成され、“縛り”から“自然体”に移り変わるのを感じていて、それを一旦形にしてみようと、そういう意識が制作のタイミングともうまく噛み合ったのだと思います。わたしの感覚が、ひとつの“Hemisphere”として、一旦の完成を見たというか。


Q. 今作の具体的なリファレンスがあればお聞きしたいです。また、リファレンスか否かに関わらず、制作中によく聴いていた作品等があれば教えてください。

五味:アルバムは10曲入りと決めていて、9曲目までの曲出しが終わった時点で、実はアルバムとしてはこの9曲で示せているとは感じてました。最後の1曲(「sphaera dissolvit ut luna plena」)はそこからちょっと切り離したもので、エンドロール的な作品をイメージして手法として自分がやってないことにチャレンジしたいな、と。あ、CURVEだ、と。インダストリアルテイストの打ち込みを軸にしたシューゲイザー・サウンドの曲だな、と。ちょうどZEPPET STOREのライブリハ時期でスタジオに行くと喫煙室に中村とヤナがいて、2人に参加してもらうことを閃きました。数日前に観たLUCY’S DRIVEのリズムはまさにCURVEで、その2人が目の前に、笑。そんなエンドロール的な意味合いの曲であるので、それまでの9曲とはまったく異なるものであればあるほど良いと思い、リズム・トラックとシーケンス・トラックを2人に依頼しました。ところが誤算だったのはShokoがこの曲を予想以上に気に入ってくれて……。エンドロールという割と軽い位置付けのつもりでいたものが、アルバム全体を締めくくるとても重要な要素となり、それまでの曲たちの答え合わせのような意味を持つようになりました。

Inoue:sphereの過去作はこの1年半を通して繰り返し聴いてきました。制作を進めるにつれsphereとしての立ち位置が自分のなかで落とし込めてきて、聴こえ方や感じ方の変わる部分もありました。また、音楽ではありませんが、歌詞イメージのもととなった作品、例を挙げれば『はてしない物語』『オズの魔法使い』などを読み直したり、ということもありました。自分の好きなもの、大切な作品を、今の自分の価値観で考察する、良いきっかけにもなったと思います。


Q. 今後の活動の展望についてお聞かせください。

五味:ライブのことは想定せずにとにかく制作に集中していましたが、ようやくつい先日ライブをやるためのサポート・メンバーが全パート決まりました。これからスケジュールを作っていくのですが、まずは新生sphereをライブ会場でもお披露目できるようにこれからしていくつもりです。自分もShokoも他のサポート・メンバーもそれぞれの活動があるのでどこまでできるかは未知数ですが、それはしたいな、と思っています。そんな中でこんな曲やりたいぞと自分がなれば、Shokoが続けたいと思ってくれれば、また新曲もできていくかもしれない。現段階では“新生sphereセカンド・シーズン”まではやりたいと思っています、だって楽しいから。もしかしたら2人のsphereがバンドになるかもしれない。Shokoが50歳でも歌っていたとして、自分は76です、笑。先の見方が違うのは仕方ないとしてもあと10年は最低でも現役でいたいと思っているので。ですが、まずはひとつひとつのできることをやりながら“新生sphereファースト・シーズン”を、まだ進めている段階です。

Inoue:制作中からずっと気になっていた、音の面でもっと関わってみたいなと思ったりしています。なにがどうしてこんな音になっているのか、実は知らない部分がたくさんあります。できるなら少しずつでもそれらを知っていく機会が欲しいです。この1年はCOLLAPSEの制作とも重なり、知ろうとする余裕もなかった部分があるので……。そういう意味でも、これからライブを見据えてみんなでスタジオに入るのがとても楽しみです。音作りやバンドとしての音のまとめかた、おそらくわたしの知らない視点がたくさんあるんだろうなと、今からどきどきしています。


■ Release

sphere – A Fusion Of Two Hemispheres

□ レーベル:TESTCARD RECORDS / TETRAHEDRON
□ リリース:2022/11/02

□ トラックリスト:
1. phantásien
2. the starry night
3. only time will tell…
4. fatal hazard protocols
5. in a melodious forest
6. hibernation
7. two hemispheres
8. yellow
9. white clover carpet
10. sphaera dissolvit ut luna plena

*配信リンク:https://linkco.re/aEE7paXG

sphere – sphaera anatomica (ius)

□ レーベル:Self Released
□ リリース:2022/12/04

□ トラックリスト:
1. phantásien (naked)
2. the starry night (naked)
3. only time will tell… (naked)
4. fatal hazard protocols (naked)
5. in a melodious forset (naked)
6. phantásien (inst)
7. the starry night (Inst)
8. only time will tell (inst)
9. fatal hazard protocols (inst)
10. in a melodious forest (inst)

sphere – sphaera anatomica (left)

□ レーベル:Self Released
□ リリース:2022/12/04

□ トラックリスト:
1. hibernation (naked)
2. two hemispheres (naked)
3. yellow (naked)
4. white clover carpet (naked)
5. sphaera dissolvit ut luna plena (naked)
6. hibernation (inst)
7. two hemispheres (inst)
8. yellow (Inst)
9. white clover carpet (Inst)
10. sphaera dissolvit ut luna plena (inst)

sphaera anatomica (ius):
https://art-box.stores.jp/items/6388f51d688c4416eb74e3c4

sphaera anatomica (left):
https://art-box.stores.jp/items/638908333a327e70139fcc3e

sphaera anatomica (ius / left):
https://art-box.stores.jp/items/63891f473b0b7508e97570fa

Author

對馬拓
對馬拓Taku Tsushima
Sleep like a pillow主宰。札幌出身。音楽ブログの運営やディスクユニオンのスタッフなどを経て、現在はライター/編集者が本業。主な実績は、揺らぎ、SPOOL、pollyなどへのインタビュー、Tapeworms『Funtastic』CDライナー執筆など。座右の銘は「果報は寝て待て」。