Posted on: 2023年9月9日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

■ EPを作る以外のことは自分にとって嘘

──では、音源について。1st EP『This is a Portrait of MoritaSaki.』はどういうコンセプトなんですか?

リク やってることの一番真ん中、スターター・キットみたいな。だからタイトル通り、ポートレート。「モリタサキはこういうものだ」っていうのがずっと芯として残るように作ったものです。タイトルはロバート・ラウシェンバーグっていうアーティストのオマージュですね。(CDのブックレットの)スペシャル・サンクスにも書かれてます。コラージュとかを作ってるアーティストで、Iris Clertって人から「ポートレートを作ってくれ」っていう依頼が来た時に、それに対して電報で返したのが「THIS IS A PORTRAIT OF IRIS CLERT IF I SAY SO」っていう文で。アーティストがそう言ったらそうなるんだ、っていうのが面白くて、そこから着想を得ました。音源がポートレートっていう構造もいいなと思って。

──確かに音楽に対してポートレートって言い方はあんまりしないですよね。

リク 写真って“点”的な芸術じゃないですか。時間を切り取ったもの。でも音楽は“時間を伴った芸術”っていうのが独特というか。映像とかもそうですけど。前後関係みたいなものがすごく映る芸術だと思ってて。そういうものをポートレートって呼ぶことってないよなと。写真じゃなければ、自分の中での質感が出会い消えていくまでと、モリタサキ自身じゃないモリタサキと出会ったことによって起きた別の事象とかも、そのポートレートの中に含められるわけじゃないですか。音楽の一番得意なことが何なのか考えた時、そういうことにすごく向いてるんじゃないかなって。視覚がないから想像力が制限されないし、ムードだけを伝えるのにちょうどいい。それをポートレートにすることで、よりその人の中で勝手に膨らむんじゃないか、っていうのを意識して作りました。

──MoritaSaki in the poolの音楽って、サウンド的にもかなりぼやっとしてますよね。それもムードみたいなものと関係してます?

リク そうですね。レコーディングで“ムード入れ”の瞬間ってのがあって。

一同 あ〜。

リク レコーディングで全パート録った後に、俺が再度ギターを入れるっていうのがあって。俺とエンジニアの中だけで“ムード”って呼ばれてるコードがあって、そのコードを全曲に上乗せしてるんですけど、それを入れた瞬間、そのムードになるんですよ。これはもうそうとしか言いようがないですね。最近はムードが重要視されすぎて、“魂のやつ”って呼んでます。「そろそろ“魂”いこか〜」みたいな。

ニノ 命を吹き込む感じになってる。

リク ムードは超大事です。その(歌詞カードの)写真もそれぞれイメージがあって。1stも2nd(『Ice box – EP』)も正方形の写真と曲を結びつける、っていうことをやってるんですけど、マトリョーシカみたいな入れ子構造が好きで、そういうイメージでやってて。1つ外の単位に移った時、大きくなっただけで元のものと同じことが繰り返されるみたいな。数とか時間とかめっちゃ好きなんですよ。1がいっぱい集まって10になって、それがさらにいっぱい集まって100になる、みたいなのが超好きで。それで作った世界の展開図みたいな、曼荼羅みたいなのをシバタにあげたことあるよな。

マキ 持ってますね。

一同 笑

リク 「これに従って起こした物事は全部宇宙の法則に従ってるから上手くいくんだ」みたいな説明をして「これに従え!」って言って。要は、シングルとしてのアートワークと、EPとしてのアートワークがそれぞれあった時に、EPとしてはこのアートワークだけど、1つ下の単位になった時に、シングルとしてもそれぞれのアートワークがある、みたいな形を作りたくて。それは1stと2ndどっちもです。

──ちなみに、1stも2ndもEPですが、EPというフォーマットにこだわりがあったりしますか?

リク 超ありますね。無駄なことをしたくない。「これだと思ったことしかしたくない」っていうのは何が判断基準かというと、自分に刺さるかどうか。自分が究極にいいって思うかどうか。アーティストを検索した時に、シングルしかなかったら萎えるんですよ。で、アルバムしかなくても萎えるんですよ。で、EPがある時が一番嬉しい。これってあるあるじゃない?

ニノ わかるわかる。

リク アルバムしかないと、ぼやけが多い。アルバムって、そのアーティストのいろんな面、できることが見えすぎるんですよ。「アルバムだからこういう曲を遊びで入れちゃおう」みたいなのがあった時に、そのアーティストのことはちょっと掴めない。でもシングルだと物足りない。何も分からずに終わる。対して、EPは尺に限りがあるから、“やりたいことを詰めてベストを尽くすしかない”っていう密度感が好きなのかな。でもそういう難しい仕組みの話は全然考えてなくて、単純にEPがあるバンドが好きだから「EPを作る以外のことは自分にとって嘘だ」っていう。

──じゃあ今後もEPをリリースしていくと。

リク 続々と生産していくつもりです。だからシングルも好きじゃないので、シングルは絶対にEPに内包されるように作ろうと思ってます。前に出したシングル「She died under the bridge (Append a Last Track to “This is a Portrait of MoritaSaki”)」は繋がるようにしてますね。

──タイトルめっちゃ長いな、とは思ってました。

リク 最近「カッコをつけるタイトルをいっぱい作ろう」っていう動きを提示し始めてるんですけど、あれはその準備です。曲の前後関係とかを全部曲名の後ろに付けるカッコで逐一指示していったら面白いんじゃないかと。最終的に出したディスコグラフィーが全部マッピングできればすごくいいなって思って。だから全作品が絶対にどこかで繋がるようにカッコをつけてます。あれは接合部分なんです。

──EPで曼荼羅を作るというわけですね。

リク そうです。宇宙法ディスコグラフィー。

ニノ 1つの町を作るというか、世界観が統制された箱を作るような感覚はアーティスト然としてますよね。

──そういうコンセプトは、メンバー間では共有はされてるんですか?

リク ……テンション高い時だけ。

ニノ 基本恥ずかしがってあんまり言わない。笑

マキ これ、ライブで実際に繋げる時が一番好き。「繋がった! 気持ちいい!」みたいな。

リク そう、ライブだとその繋がりが表現できるんですよ。

ニノ 繋げる曲で言うと「Light (“She died under the bridge”⇄“Ice box”) [demo]」なんかもそうだけど、「marble (before “I irk Saki.”)」もその感覚というか。最初はタイトル通り「I irk Saki.」の前に繋げるための曲だと思ってたんですけど、2nd EPを録った時に、ちゃんとフィナーレの役割も果たしていると思って。でもライブでは「I irk Saki.」っていうキャッチーな曲の接合として役立ってて、その二面性もすごく面白いなと思ってて。

リク そうそう。そうなんだよね。

──これを知ってるとライブがさらに楽しみになりますね。いやー、すげえバンドだ。

一同 笑

──ここまで全部が繋がってるバンド、今までいなかったので。

リク だからあれなんですよ、これだと思ったことしかやらないんで。

■ 越境を大切にしていきたい

──EPは量産していくとして、次作以降の計画とか展望はありますか?

リク 今、暑くなってきて超いい気分なんで、「いっぱい曲とか作っちゃおうかな」みたいな気持ちです。

──『Tiny Summer of Love』(9月16日開催)っていうフェスもやるんですよね。

リク 2nd EPで、やっとバンドの準備ができたんですよね。ここから「俺らはMoritaSaki in the poolです」って言うつもりです。ずっとチュートリアルをやってきました。

──Tiny Summer of Love』は定期的に開催するんですか?

リク 年1でフェスをやっていこうと。フジロックとバトりたい。

一同 笑

ニノ ちょうど開催日の9月16日が、1st EPのレコ発をやったタイミングになってて。

マキ 結成日としている日。

ニノ 節目のタイミングでイベントをやろうっていう。

リク 最終的には野外でやりたいですね。今回はビル1棟借りてて。ホームのライブハウス(京都GROWLY)が階によってスタジオとか違うテナントが入ってるところなので、あそこを全部使って、いろいろ出店とかして。越境していきたい気持ちがすごくあるんですよ。バンドのジャンルとかもそうですけど、もっといろんなタイプのアーティストとの越境を大切にしていきたい。それは、準備ができたからなんですよ。俺らはもうこれで「バンドやってます」って言える。音楽っていうフィールドの中では「こういうことをやってます」って言える段階が俺のスタートラインだと思ってる。だから、いろんな仲間を集めていろんなことをやって越境していきたい、っていうのでフェスをやる。あんまり音楽としての展望ではないかもしれないですけど。

──もうシーンとかは関係なく、って感じなんですね。

リク 既存のものにハマるのが苦手なんで。「怒られるかもしれない」っていう気持ちにすごく弱い。だからルールがないところに行きたい。

──むしろ自分たちがルールを作る。

リク だったら絶対に怒られないですからね。笑

──年末にはワンマンライブ(12月3日開催、大阪Fireloop公演)もやるんですよね。

リク やりますよ。ナツミちゃん悩んでるよな。

ナツミ うーん。

リク やりたい曲をずっと悩んでて。

ナツミ どうしよう……。

──ワンマンとなると持ち曲を全部披露、とかじゃないんですか?

リク 俺ら曲はめちゃくちゃあるんですよ。30弱くらい?

ニノ 最初の方のセトリ、毎回初めての曲が入ってたりとか。

リク 「新曲をやらないなんて逃げだ」みたいなこと言ってる時期あった。ライブ始めた頃なんか、常に来るお客さんもいないじゃないですか。ってなると、一番観てくれるのってライブハウスの人とか呼んでくれたブッカーで、毎回同じ曲を観せるのはかわいそうだから、新しい曲をやるしかない。でも途中でやめました。最初のうちはもう、めちゃくちゃでした。「音が鳴りゃいい」みたいな世界から始まったから。でもだんだん上手くなってきて、パーってやった新曲と、練習した既存曲とのクオリティの差が生まれ始めて。それでインスタントに新曲やるみたいなのができなくなりましたね。

──『Tiny Summer of Love』の後には『Total Feedback』(9月30日開催)も控えてます。

リク 最終的に、いろんなとこで出会ったバンドが集まってるみたいな感じになって良かったと思います。前回『Total Feedback』に出た時にハタさん経由で繋がったMoon In Juneがいて、Ringo Deathstarrの来日公演でお世話になったvinyl junkie経由で出会ったCIGARETTE in your bedがいて、對馬さんからの推薦でBeachside talksがいて。最後はもう完全に新しい風を入れるっていうので、ただ俺が好きなだけのバンドでwoozを呼びました。これで全部違う色、違うルートになった。いい感じにまとまったんじゃないかと思います。

──無事決まって良かったです。僕もDJで呼んでもらったので、ご一緒できるのが楽しみです。

リク よろしくお願いします。

──シーンの話が出ましたが、僕も関西方面にはちょくちょく行けたらいいなと思ってます。東京だけだと視点が偏るんですよね。「東京のシーンのことしか知らない」ってなっちゃう。現地の空気を感じたい。

リク 京都、来てほしいですね。めちゃくちゃですよ。

一同 笑

リク 骨董屋をずっと営んでた意味分からんおばあちゃんの押し入れをガラって開けました、みたいな。

ニノ カオス。

──特定のシーンがあるっていうよりは、点みたいな感じですか?

リク いや、そういう“ごちゃまぜ”がもうシーンなんですよね。オルタナティヴ(・ロック)に限った話かもしれないですけど。

──それも話を聞くだけじゃピンとこないので、やっぱり現地で感じたいですね。名古屋は去年(2022年)何回か行って、いいなと思ったので、少しずつ東京以外も巡りたいと思ってます。

リク 名古屋いいよな。

ニノ いいですよね。僕らstiffslackの周りしか行ってないけど。

リク みんな優しい。

──MoritaSaki in the poolにはスタッフのヤッヒーさんがいつもついてますよね。

リク でもバンドのグッズが整ってきたから、テナントを貸し出す必要がなくなってきた。あれ、テナント貸しだったんで。

──テナント貸し……?

リク バンドの物販コーナーってあれだけスペースがあるのに、並べるものが少なくて場所代が損だ、と思って。だからあそこをテナントとして貸し出して、そこに自作グッズを並べてもらって。だから売り上げはそっちに行くんですよ。でも最近はフードに専念してるもんな。

──そうだったんですか……!

リク よかったら呼んでやってください。

ヤッヒー カレー作ってます。

──カレー!

リク 評判良いですよ。

ナツミ 美味しい。

──この前、僕がいるmusitっていうメディアでイベント(『Branch Vol.2』)をやって、カレー屋さん(Renny Curry)を呼んだんですよ。それがめちゃくちゃ良くて。美味しいし、ライブハウスでご飯食べられるのめっちゃいいなと思って。

リク いいっすよね。

──ライブ終わりって夜遅いし、ご飯食べるタイミングってないじゃないですか。

リク だから(ヤッヒーに)フード出店を持ちかけましたからね。

ニノ そもそもライブハウスって飲食店なのにね。仕事終わりのライブって、ご飯食べて行くにはちょっと時間がない。だから空腹の状態のまま行くんだけど、「お腹減ったな〜」って思いながら観るのって結構ノイズですし。

リク ライブハウスって食えないのだけしんどいんだよな。外出るのも面倒くさい、だったら設置すればいい。

ニノ そのくせライブ観ながら食べてたら怒られる。笑

──変えていきたいですね。

リク 俺は変えるためにやってるので。

──期待しかないですね!

リク フードが出るとお酒もそれに従って出る量が増えますし、それでイベント全体も盛り上がる。だからフード出店は素晴らしいことだよ。

ヤッヒー うん、良かったです。

◯ 2023年7月16日 下北沢某所にて

■ Release

MoritaSaki in the pool – Ice box – EP

□ レーベル:Self Released
□ リリース:2023/07/02

□ トラックリスト:
1. plasticsummertime
2. Ice box
3. For Jules
4. marble (before “I irk Saki.”)

*配信リンク:
https://linkco.re/YRtCMpB0

■ Event

Tiny Summer of Love 2023

2023/09/16 (sat)
@京都GROWLY / studio Antonio / 公◯食堂

[前売り] ¥2,500
+1drink (¥600)
+1marché token (¥500)

[当日] ¥3,000
+1drink (¥600)
+1marché token (¥500)

*予約:
https://forms.gle/mSHmZJXFnZRcz8x67

*詳細:
https://note.com/moritasaki/n/n9ca6002e307b

Total Feedback – MoritaSaki in the pool 2nd EP “Ice box” Release Tour

2023/09/24 (sun)
@高円寺HIGH

OPEN 15:00 / START 15:30
ADV ¥3,000 / DOOR ¥3,500
ONLINE ¥2,500

[出演]
MoritaSaki in the pool
CIGARETTE in your bed
Moon In June
wooz
Beachside talks

[DJ]
knthsgc (sugardrop)
知識あるサケ (Sleep like a pillow / nelll you)

Author

對馬拓
對馬拓Taku Tsushima
Sleep like a pillow主宰。編集、執筆、DTP、イベント企画、DJなど。ストレンジなシューゲイズが好きです。座右の銘は「果報は寝て待て」。札幌出身。