Posted on: 2026年3月31日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

■ 作者も知らない1ページ

M14「sumire」(CDのみ)

──シングル『Flower』収録曲の再録ですが、これをなぜ最後に持ってきたのか気になってて。

神谷 「sumire」はラスボス的な立ち位置じゃない?

 おそらく今までリリースしてきた中で、海外受けが一番いい曲だよね。だからどこかで再録したいという気持ちはずっとあって。

神谷 それで今のBCLの綺麗な音で録り直したかったんですけど、サブスクには載せたくなくて。過去の曲だし、ちょっといわくつきというか……歌詞を書いているのが元メンバーっていう。でも「sumire」こそ狂気というか、“日常の狂気” みたいなところがある。

 歌詞を書いてる人が違うから当たり前だけど、あからさまに神谷とは全然違う系統。

神谷 「sumire」の何とも言えない灰色の世界観は、「the end of Dystopia?」で続きを匂わせた後に最適だと思ったんです。ずっとモヤモヤしてて、陰気臭いし、優柔不断ではっきりしないし、どうしようもない感じ。そのどうしようもなさが『Dystopia』にぴったりだった。曲調的にも、メジャーっぽい響きはあるのに暗いし、轟音で淡々としてるけど展開もある。私は意思表示がはっきりとした曲を書くことが多いから、本当に全然違うんですよね。

 「sumire」は雰囲気の描写で終わってるからね。

神谷 そうそう。曲自体も昔のめぐみんが作ったサウンドだし、歌詞も私が絶対に書かないようなものだし、全てがどっちつかずな雰囲気。そういう曲を好きって言われるのは、私にとっては異質で。だから『Utopia』と『Dystopia』っていう、はっきり項目が分かれていた中で、作者自身も知らない1ページが突然現れるような感覚なんですよね。「こんなページ作ったっけ?」みたいな気持ち悪さ。

 神谷が1ミリも関わってない曲なんですよね。

神谷 この『Utopia / Dystopia』っていう、完璧に作り上げられた世界観に唯一生まれた白紙ページ。サブスクで聴けないのは、“知らない1ページ” っていうところにも関わってきます。CDでしか覗けないもう一つの世界っていう。『Utopia』から順番に聴いて『Dystopia』に入って、13曲目の「the end of Dystopia?」で『Utopia』に戻るかと思いきや、そこでループが途切れて余剰ページの「sumire」に行く。これも『ドラッグオンドラグーン』みたいな分岐もののゲームをイメージしてて。“sumireエンド” ですね。

──CDを買った者しか辿り着けないエンディング。

 条件分岐は「CDを買う」。

神谷 自分の選択とか行動で世界の終わり方も変わる。『ドラッグオンドラグーン』は新宿に飛ばされるけど、BCLは「sumire」に飛ばされるっていう。隙間に入っちゃうみたいなイメージかな。『Utopia』と『Dystopia』の隙間に、何かの拍子に落ちちゃうみたいな感覚。

──ポケモンの『ダイヤモンド・パール』に “なぞのばしょ” っていうバグで行ける真っ暗な空間があるんですが、それを思い出しました。手順を間違えるとセーブできなくなって詰むっていう。

神谷 そういうイメージに近いかもしれないです。

 「sumire」の歌詞的にも、主人公は死んでますからね。今のBCLの歌詞は死ぬことを明確には表現しないところがあるから、そういう意味でも通常じゃないエンドって感じがするかも。

■ 獣道は通らない、新しい存在になる

──シューゲイズを取り巻く状況が、また変わってきてる印象がありまして。

神谷 全ての音楽はグラデーションであるべきだと思うんです。「星凪に願う」のMVに出てもらったモデルの方が仲の良い先輩で、彼女はオルタナティヴ・ロックとかJ-POPがあんまり得意ではないんですけど、BCLのキャッチーなシューゲイズを聴いて、友人とか関係なく「めっちゃいい」って言ってくれるんです。そんな先輩が、「BCLは本来のシューゲイズじゃない」って言われたりしてるのを知ったときに、「ジャンルはグラデーションであるべきだと思うんだよね」って言ってて、まさにそうだなって。

神谷 何かのジャンルに括るのはいいけど、それだけだと新しいものは生まれない。新しいものを許容して、進化していくべき。何がシューゲイズで何がシューゲイズじゃないかは、争ってはいけない話題ではないと思うんです。むしろ存分に語り合うべき。でもジャンルはグラデーションだから、明確な線引きはできない。だからジャンルの根源的な部分は、ある程度知っておいた方がいいと思うんです。ルーツを何も知らないのにその名前でラベリングすることはできないから。何がシューゲイズで何がシューゲイズじゃないか判断するなら、ルーツは聴いておいた方がいいよね、っていう。

──僕もルーツを知っておくのは大事だと思います。どういう文脈で、どういう音楽から始まったシーンなのか。それを何となく知っていないと、評価できないところもある。

神谷 何も知らないのにラベリングするのって、ちょっと失礼な面もある。みんなそれを頭の片隅に置いて音楽を批評してほしいと思ったりします。「このバンド、シューゲイズっぽいよね」っていう声が世界中から集まったら、それが事実じゃないとしても事実になってしまうんですよ。もちろんアーティスト本人が否定しなければ、それでいいとは思うんですけどね。

──SNSでなんとなく共有されてる “シューゲイズ” って、かなりイメージ先行というか、ふわっとしてる気がしてて。例えば、kurayamisakaが日本の現行シューゲイズの代表格みたいに捉えてる人も多い気がしますが、僕はそうは思えない。もちろんそういう要素は皆無ではないですが、もっとオルタナティヴ・ロックの文脈が強いバンドだと思うので。

神谷 でも “オルタナ” って言葉も探り始めると厄介ですよね〜。結局、みんな音楽をまとめて効率良く見つけたいがためにラベリングしてるというか。グループ分けのためのオルタナティヴ・ロックになってるけど、「じゃあ本来の意味は?」っていう。ただ、「こういう音楽です」っていう分かりやすい名前は必要だと思うんですよね。

神谷 シューゲイズの定義は変化していってもいい。でも90年代のシューゲイズが好きな人が、今の日本のシューゲイズとされてる音楽を聴いて「全然シューゲイズじゃない!」って怒ることもあるだろうから、新しい名前があってもいいと思うんですよ。だから私は、日本独自のものは “シューゲイズ” じゃなくて、あえて “シューゲイザー” とか “ジャパニーズ・シューゲイザー” って呼び分けてます。

──時代によって解釈が変わっていくのは必然だと思うので、今はそのズレが今大きくなってきてる段階というか、我々は過渡期にいるような気もします。

神谷 ジャンルではなく、グループの名前で捉えた方がいいのかも。例えばJ-POPも、日本のポピュラー音楽だから “J-POP” っていうグループ分けがされてるけど、蓋を開けたらジャンル自体はすごく混在してるじゃないですか。シューゲイズもそういうことなんじゃないかなって。だからBCLも「シューゲイズ・バンドです」と名乗って「いや全然シューゲイズじゃないよ」って言われるのは想定済み。“新しいシューゲイザー” を提示していきます。

──そもそもMy Bloody Valentine、Ride、Slowdiveの時点で、共通項があるようでそれぞれ全然違う。それらのバンドを1つの言葉で括ってしまったのが全ての元凶でもある。

神谷 私はRideをシューゲイズとして聴いたことがないんですよね。これって、もう根元を否定してることにもなるんですよ。

 いわゆる “御三家” と呼ぶには音像が違いすぎるバンドが全部シューゲイズとされてるから、それゆえに色々と衝突が起こるのは当然なんだよね。

神谷 あまりにも “概念” だよね。

 ノイジーなギターくらいしか共通項がない。と言ったそばからSlowdiveって別にそうじゃないか〜って。もう破綻してる。

神谷 浮遊感の感じ方の違いなのかも。マイブラに浮遊感を感じる人もいれば、RideやSlowdiveに感じる人もいる。受け取ったリスナーそれぞれの感覚でシューゲイズとしてまとめられてるから、いろんな議論が起こってる。

 主観が定義になるよね。マスドレ(MASS OF THE FERMENTING DREGS)も海外ではシューゲイズだからな〜。

──僕もそれは不思議なんですよね。マスドレは大好きですけど、シューゲイズを感じたことは一度もないです。しかも海外でそう言われてるのがいっそう分からなくて。

 そう言われるならkurayamisakaもシューゲイズになるか、っていう。

神谷 私自身もシューゲイズを概念として捉えてるから、ポスト・ロックっぽいサウンドをシューゲイズと捉えてた時期もあったし、アンビエントの浮遊感とか量感をシューゲイズとして捉えてたこともあって。

 シューゲイズよりもポスト・ロックの方がシンパシーを感じるよね。

神谷 海外のポスト・ロックの精神と日本のシューゲイズの精神を合わせて作ってる、みたいな感覚かも。そこにJ-POPの要素が入り込んでくる。「世界の基準って本当に “御三家” なのか?」っていう──だからもう、全てを許容しつつ、全てを否定していくっていうスタンスがBCLです。全部合ってるし、全部間違ってる。世界は肯定と否定が混在してるんです。

 それに尽きるよな〜。

神谷 次回作は、シューゲイズ・バンドを名乗りつつも、ジャンルとしての “Blurred City Lights” を掲げようと思ってます。過去を踏襲しつつ未来に進む。そして、新しい存在になる。振り返ると『Utopia / Dystopia』は王道サウンドだったなって思うんですよ。そういう部分を一旦踏襲しておきたいっていう思想も強かったし。それはそれとして、全く新しい存在にならないといけない。

──さらに突き抜けていくと。

神谷 自分たちの音楽のあり方に悩んだこともあって、ここまで来るのにすごく苦労したんですけどね。もう獣道は通らない。自分たちで草を刈って道を拓いていきます。

──非常に頼もしいです。

神谷 マジでアルバム作れるのか?って感じですけど。でもアルバムを出したいんですよ。アルバム作りをしていくのがBCLだと思ってるので。アルバム1つで伝えたいことがある。もうシューゲイズがどうのこうのって言ってるのを全部置いてって、アルバムで提示したい。もっとシューゲイズの可能性を……そう思うとさ、よくここまでシューゲイズ1つでやってきてるよね〜。

 ここまでやってきたからこそ次の視野が見えてるんじゃない? 多分シューゲイズっていう枠のことはある程度やり尽くしたというか。だからその先の世界を見ようとしてる。

■ Release

Blurred City Lights – Utopia / Dystopia

□ レーベル:Self Released
□ 仕様:Digital / CD

□ トラックリスト:
1. 渦
2. swirl of lights
3. 祝祭
4. 星凪に願う
5. utopiaflorist
6. Planet
7. 夕立(CD & Bandcamp only)
8. dreamland
9. Whisper
10. shinjuku
11. 亡霊都市
12. きみのこえ
13. the end of Dystopia?
14. sumire(CD & Bandcamp only)

『Utopia』:ストリーミング / Bandcamp
『Dystopia』:ストリーミング / Bandcamp

枕眠堂にてCD販売中:購入はこちら

New Single
Blurred City Lights – 月光

□ レーベル:Self Released
□ 仕様:Digital
□ リリース日:2026年4月4日(土)

□ トラックリスト:
1. 月光
2. moonless
3. farside

配信リンク

nelll you – Vol.5
Best Albums & Singles 2024 / Blurred City Lights

□ レーベル:Sleep like a pillow / 枕眠堂
□ 仕様:ZINE

□ 執筆:
鴉鷺(Sleep like a pillow)
内山結愛(RAY)
對馬拓(Sleep like a pillow)
筒井なぎさ(Wily Mo / メコン)
宮谷行美

□ アート・ディレクション/デザイン:
tokyo zuan

□ 主宰/編集長:
對馬拓(Sleep like a pillow)

枕眠堂にて販売中:購入はこちら

■ Event

Oaiko pre.「これから」

2026年4月25日(土)東京 青山月見ル君想フ
OPEN 12:00 / START 12:30

[act]
17歳とベルリンの壁
Blurred City Lights

[チケット]
一般 ¥3,500(+1drink)
学割 ¥3,000(+1drink)
チケットぴあ

Total Feedback
The Florist「(a)estheticism」release show

2026年4月26日(日)東京 高円寺HIGH
OPEN 15:00 / START 15:30

[act]
The Florist
te’
Bearwear
Otherside
Blurred City Lights

[DJ]
knthsgc(sugardrop)
nk(sugardrop)

[チケット]
adv ¥3,500(+1drink)
door ¥4,000(+1drink)
バンド予約
配信 ¥2,500
ZAIKO

■ Profile

Blurred City Lights

神谷なな星(Vo. Ba. Key.)
恵(Gt.)
大橋琉馬(Dr.)

2022年、名古屋にて始動したシューゲイズ・バンド。J-POPに強く影響を受けたキャッチーなメロディーと、古今東西のシューゲイズ、ポスト・ロック、アンビエントなどの要素を含んだサウンドを奏でる、気鋭の3人組。2024年2月に1stフルアルバム『天使のいない街で』、2025年2月に2ndフルアルバム『Utopia / Dystopia』をリリース。レコーディング、ミックス、マスタリング、さらにアートワークに至るまで全てセルフ・プロデュースで手掛ける。

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