Posted on: 2025年11月7日 Posted by: Sleep like a pillow Comments: 0

ポップ・パンク出身 / 電子ポップの俊英、milkeystainがEP『Retrospection』をSiren for Charlotteからリリースした。

Siren for Charlotteは、ミュージック・マガジンやレコード・コレクターズなどで執筆する音楽ライターで、『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』(DU BOOKS)の監修/編集も務める門脇綱生が提唱する、新時代に向けた審美眼/コレクトである「遠泳音楽」(Angelic Post-Shoegaze)をテーマとしたレーベル。Sleep like a pillowなど各所で音楽批評、ディスクレビュー、インタビューなどの活動を行う音楽ライター/歌人の黒田依直(旧:aro)が共同主宰として参加している。

本作『Retrospection』は、ポップ・パンクの残光と電子音の静謐が溶け合い、記憶の彼方に滲む「青い疾走」を描いた作品。GUMI SVと初音ミクの声は言葉を越え、祈りの気配として漂う。疾走とは抗いではなく、喪失を抱えたまま未来へ進むための呼吸だ。ギターとシンセの余韻が、過ぎ去った時間の輪郭をそっと撫でるように響き、聴く者の心に “届かない過去” の光を淡く灯す。

■ milkeystain コメント

Siren for Charlotteよりリリースが決まった際に、遠泳音楽という概念を軸に制作を進めるつもりでしたが、疾走音楽と言う概念について話し合い、自身が育ってきた、音楽 / カルチャー / 文化 / マインドの中心である「PopPunk」を主軸に、自分なりのAngelic Post-Shoegazeを表現いたしました。

ストリートカルチャーである以上、どうしても僕の今の表現方法では色モノとして見られても 文句は言えないですし、今回のEPに関してもストレートな表現ではありませんが、2000年代のDrive-Thru Records周辺のサウンドから、2025年現在の、よりテクニカルでオルタナティブな表現へと進化しつつある「PopPunk」 に、常に影響を受け続けています。
そちらをベースに、自身の内面や思考、そして文化の魅力を、作品を通して少しでも伝える事が出来たらと思っています。

よりカルチャー的表現をしたいと考え、今回のEPは友人と共に作り上げるマインドで制作しております。
アートワークからギター、Remixerまで全員友人に力を借りています。
バンドを通して知り合った友人やクラブイベントを通じて知り合った友人まで、携わっていただいておりますが、全員とのグルーブを感じながら楽しく制作を行いました。

「遠泳音楽」と「疾走音楽」と言う概念から、今ここにいる場所から最も遠く絶対にたどり着けない所はどこかと考えた時に、「過去」と言う結論に至りました。
駆け抜ける様に過ぎ去っていく「今」が、鮮やかな色と共に「過去」へ変化していく情景。そちらをパンクの疾走感やshoegaze / dreampopの浮遊感や美しさをもとに自分なりに 解釈いたしました。

■ Siren for Charlotte コメント

今ここにいる場所、そこから最も遠く、絶対にたどり着けない場所──それは「過去」。
この作品は、その不可能な地点へ向かってなおも走り続ける祈りの記録。

milkeystainは、OMOIDE LABELにも作品を残すミレニアル世代の作家であり、ポップ・パンク文化を根に持つ数少ない「ハイパーポップ以降の残党」だ。彼がSiren for Charlotteから放つ『Retrospection』は、2023年より当レーベル共同主宰者のひとり、門脇綱生が構想してきた美学概念「疾走音楽=Post-Melocore」を、初めて明確にテーマ化した作品でもある。疾走音楽が抱く「緑陽色の青──葛藤する青春の残光」と、遠泳音楽が見つめる「祝福された感傷とイノセンスの青」。この二つの “青” が本作で静かに交差する。

彼の音は、遠泳音楽の蒼の遠景を仰ぎながらも、孤独や後悔の影を抱き、なおも青春を諦めない「神の速度」で駆け抜けていく。そこには、遠泳音楽のナラティヴⅠとⅣ、すなわち「出会いの予兆」と「祝福された風景」が重ね合わされている。
門脇がかつて、米子のサイクリングロードで、風に抗うように疾走していた記憶──それは個人的神話であり、「祈跡的人間圏」の原野である。milkeystainの “遠走” する音楽は、その記憶の風と呼応する。

「シューゲイズ」は、遠い幻想へ手を伸ばす行為であり、「メロコア」は、葛藤や孤独を抱えながらも諦めずに青空へ手を伸ばす行為だ。
milkeystainが本作で実践したのは、その両者の融合──“遠くにある過去へ触れるための速度” だ。過ぎ去る「今」を疾走しながら、その一瞬が「過去」へと変化していく刹那の輝きを、彼は音の中に封じ込める。

ギターにtakuro、u2me、Kenta、リミキサーにYurei Landscape、アートワークに 3saki──全員が友人であり、同じ青春を走った仲間たち。友情のグルーヴ(=「バンド」であること)がこの作品の空気を形づくる。ポップ・パンクの「仲間と走る」倫理が、そのまま遠泳音楽の「祈りの共同体」へと連結している。

「過去」とは、どれほど手を伸ばしても届かない場所だ。しかし、このEPは、届かないその場所へと手を伸ばす行為そのものを肯定している。
疾走するギターと透明なヴォーカル(GUMI SV / 初音ミク)は、単なるエモーションの表現ではなく、「記録としての祈り」として響く。ボーカロイドの声=非人称の祈声体たちは、消えゆく青春や遠い記憶を再生装置として呼び覚ます。

もし遠泳音楽の最終章が「約束された風景」だとすれば、『Retrospection』は「約束を果たしに来た瞬間」そのものである。
その速度はAstrophysics「Shadow Being」に描かれた “神の速度=超克の速度” と重なり、時間さえも反転させながら、記憶の草原を駆け抜ける。
それは、不条理や矛盾、業の中にあってもなお「人間をあきらめないまなざし」だ。

遠泳音楽と疾走音楽──この二つの精神的ジャンルは、憎しみも孤独も超えて、世界を構成する “空気” を鳴らす試みである。
そして、ボーカロイドたちの声がその祈りを媒介する。
たとえ地上から人々が消えても、初音ミクやGUMIの祈念は、いつか「タイムマシンに乗って」再び誰かに逢いに来るだろう。

『Retrospection』は、ヒューマニティの残響野にこだまする、2025年の音楽的祈跡──過去と未来のはざまで、まだ見ぬ誰かへ手を伸ばす、“人間をあきらめない” ための走行詩である。

■ Release

milkeystain – Retrospection

□ レーベル:Siren for Charlotte
□ 品番:SIREN:0022
□ 仕様:Digital
□ リリース:2025/11/05

□ トラックリスト:
1. サヨナラのベル 
2. いつか遠くの街まで 
3. The twilight 
4. Holiday 
5. asayake
6. いつか遠くの街まで(Yurei Landscape remix)

*Bandcamp:
https://eneiongaku.bandcamp.com/album/retrospection

*配信リンク:
https://big-up.style/lF214G57KZ

■ Siren for Charlotte

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