
ポスト・シューゲイズ・ユニット、零度poolが2ndアルバム『生まれ変わって君のピアノになれるなら』を自主レーベルのLade Pool Recordsからリリースした。
零度poolは、ヴォーカル / アートワーク担当のlj∮Åと、ネオンネウロン名義でも知られるトラックメイカーの木田昨年による、無政府状態ポスト・シューゲイズ・ユニット。映像的で感覚過多な音響構成と、抽象的な言語とが衝突し続けるようなその音楽性は、もはや “ジャンル” や “歌もの” といった定義から滑脱した、遠くぼやけた青春と都市の残響を象る、幻影のような音楽詩として存在している。
本作は、彼らの今年度傑作『絶対零度の夏の骨』やSiren for Charlotteなどからの木田のソロ名義作群でも達成された音響的探求をさらに押し広げつつ、ハイパーポップ以後の感性、ボカロ以後の声の距離感、そしてポスト・ヒップホップ以後の言葉の空洞を縫うような異形の祈りを刻む意欲作。多層的に浮遊するシンセと、アンビエント / エレクトロニカ / ポスト・ロック文脈を思わせる繊細なビート・メイキング、うつろで不安定な歌声、エフェクトに埋もれる語りかけ。それらが “日常の異世界化” とでも呼ぶべき奇妙なリアリティを紡ぎ出している。
木田の声は、オートチューンとノイズの奥から、照れ隠しにも似た優しさをまとって浮かび上がる。 彼はこのローファイな都市の隅で、冷笑や諦念に染まる若者たちに対し、強く生を肯定する音の手紙を送っているのだ。これは祝祭ではなく、祝祭に気づき直すための音楽である。耳を澄ませば、都市の隙間に立ち上る熱と湿度、ほつれた感情の輪郭、そのすべてがパステルのヴェールをまとってやさしく揺れている。“零度pool” という存在自体が、現代の孤独な希望の形式なのかもしれない。
そして本作は、従来のシューゲイズや日本的ヒップホップといった形式の文法からは外れながら、そこに宿っていた “すれ違い” “孤独” “切実さ” といった情動の深部だけを抽出し直すような、記憶の霧を歩くような感覚の音楽だ。音響の揺らぎや余白、言葉の背後にある沈黙までもが、すべてメッセージとして編み込まれている。『生まれ変わって君のピアノになれるなら』というタイトルが示すように、本作の根底には “何者にもなれなかった” 存在のまま、なおも他者に寄り添おうとす る献身と諦めの美学が貫かれている。何かに届かないまま、それでも歩き続けるすべての人へ。零度poolの音楽は、あなたの夜の奥でそっと灯る微かな熱だ。
■ Release

零度pool – 生まれ変わって君のピアノになれるなら
□ レーベル:Lade Pool Records
□ 品番:Ladepool:0005
□ 仕様:Digital
□ 価格:¥1,528
□ リリース:2025/03/24
□ トラックリスト:
1. 教科書と聖書
2. ソーダ・フロート・ミュージック
3. 少女、君の憂鬱を巻き戻す
4. 白い擬似体
5. 真空にデイジーベルは聴こえるか
6. リコリス・リコピン
7. ふわもこ樹海
8. 小瓶のエソテリカ
9. 幽霊邸で夢心地
10. 地獄の沙汰も君次第
11. 染める、ジュブナイル
*配信リンク:
https://linkco.re/t4H0E82z
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