Posted on: 2025年5月6日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

■ 対立する2項をどう取り続けるか

──次に進むために、喋りきれていないことはありますか?

大事なこととしては、エンジニアの京ちゃんの子供に向けて作ったアルバムです。 ちょうどレコーディング中に生まれたから、アルバムと一緒に生まれたもの、みたいな感覚で。新しい生命が自分の下に発生した人間のバイブスって絶対普通じゃないから、どうしたってそれが作品に乗るし。だから俺もそれをすごい感じたくて、「生まれるときに実況してくれ」って京ちゃんに頼んで。それで「生まれたよ」「かわいい!」って写真とか送られてきて、自分の子供が生まれたぐらい感情移入して、「父親になるって、新しく生まれ直すみたいな感じなんすね〜」とか言って。笑 だからあの子の幸せもすごく願ってますし、いつかこのアルバムを聴かせられたらいいなと思ってます。

──このアルバムは世界を生きやすくするためのものだと思うので、そういうものが新しい命ともリンクしてるのは素晴らしいことだと思いました。

元々は「エミール」っていうアルバムを作ろうとしてて。教育論の。ジャン=ジャック・ルソーですね。俺、ルソーの生まれ変わりだって豪語しながら生きてて、「俺はエミールの4を作る!」みたいなことを言ってたんですけど。「子供をちゃんと育てるべきなんだ」みたいなコンセプトでアルバムを作りたかったんですよね。だからちょうど子供が生まれて、すごい感動したんですよ。もうそのときにはエミールのアイディアじゃなくなってたけど。

──でも名残はあるんじゃないですか?

それこそ「IKAROS」とかはそういう曲で。大人と子供、家族、みたいな。

──さっき “大人と子供” と言ってたのはそういうことだったんですね。

大人と子供……対立する2項をどう取り続けるか、っていうのが何をするにも大事だと思ってて。透明さと鮮やかさ、日向と日陰、暑いと冷たい──そういう対立する2項のどこを取るのか、どのスペクトルを表示するのかっていうのは、そいつの見えてる世界観になるし、どういう生き方をしてるのかっていうことになる。当時は特にそういうことを考えてたから、「MIRROR’S EDGE」とかにもすごく影響が出て。だからエミールのコンセプトじゃなくても、子供が生まれたから意味が勝手に乗ってくれて、それも良かったと思います。

“音楽と教育” みたいなことは考えますね。 ニノも昔から「ギターで音楽教育ができる人になりたい」って言ってて。俺もそういうことで貢献できたらいいなと思ってます。一昨日は早く目覚めたから “幼児用シンセ”(*5)を作ってて。

──幼児用シンセ?

*5:https://natto-synth.glitch.me/

HTML、CSS、JavaScriptだけで書かれてて、ブラウザで動くので誰でも触れるんですよ。だから簡単に動かせて、絵本的というか。めっちゃ好きな絵本で『もこもこもこ』っていうのがあって、谷川俊太郎が文を書いてるんですけど、図形と言葉だけでリズムを作っていく本で、それをすごく意識したものです。絵本っぽいインターフェースというか。まのちゃん(甲斐莉乃 / ANY‰)も『もこもこもこ』が好きみたいです。わかるな〜と思って。

──以前のインタビューで、「これだと思ったことしかしたくない」って言ってたと思うんですけど、ちゃんと今回のアルバムでも貫かれてると感じました。

そうですね。貫いてます。

──全てが気持ちよくハマってるというか。

文脈によってやることが決められてるので。ありがたいです。日本人に生まれて良かったって思います。日本人じゃなかったら迷ってましたね。逆にビートルズに近づくのは難しかったですよ。

■ 再翻訳マジック

──今や “シューゲイズ” って良くも悪くもバズワードになってると思うんです。

確かに。だから最近は “シューゲイズタイプ・バンド” って言うようにしてますね。

──シューゲイズタイプ。

シューゲイズ系。“系” をつけることを信条としてます。どこまでがシューゲイズで、どこからがシューゲイズじゃないみたいな、いろんな論があるじゃないですか。でも系っていう言葉って、そうでしかないというか、緩く広い範囲を形容できるんです。それが正しく “いちムーブメント” な感じがする。渋谷系、原宿系、ヴィジュアル系みたいな感じで、それこそ文脈としてのものっていうか、日本的だと思って。日本国内の文脈って大体 “なんとか系” っていう言葉が使われがちなんですよ。

──“なんとか系” って言葉を使うことに、僕はちょっと抵抗があります。

抵抗があるのもわかります。人間って言葉を重くしようと思えばいくらでも重くできるじゃないですか。あんまり軽い言葉を使ってはならないとか、あたかも重鎮みたいな態度を取ることって、していこうとしたらどんどんしていってしまうというか、難しい言葉で難しいものを説明しようとしはじめる。その不自由さはすごく感じてるから、俺はあえて軽いバイブスを選んでるから “なんとか系” って言いやすいです。元々それを言いやすいエリアを獲得するべく生きてるから。

だから、その間を取って “タイプ” なんですよね。自分の中で翻訳したものを再翻訳して返ってきたのが “shoegaze-type band” っていう。これ、超マジックだと思ってて。軽さのニュアンスとか、愚かさのニュアンスがあまりに出ちゃう言葉を1回英語にして、それをカタカナで持ってくると、全く同じこと言ってるのに普通の正しいことを言ってるように聞こえる。再翻訳ってめっちゃいいなと思ってます。ずっとAIとやり取りしてて思いつきました。

──確かに名案ですね、再翻訳。

ていうか、英語って表現の幅が狭いと思ってます。だから英語ならそう表現するしかないっていうエリアに1回落とし込んで、それをカタカナにして持ってきたら、言葉のイメージが削げ落ちた状態でちょうど都合よく一般化されるんですよ。

■ 今までにない種類の喜び

──バンドの次なるアクションは、どういう感じでしょうか?

『Love is Over!』からもう1曲ぐらいMVを出したいっていうので作ってて。3DスキャンしたメンバーをCGで動かすっていうことに、もう俺めちゃくちゃハマってて。面白すぎる。“身体の再獲得” みたいなことをしたくて。今ってみんなアバター指向じゃないですか。アニメキャラの表象を借りたり。アニメとかイラストのジャケットを使うバンドって多いと思うし、それだけじゃなくてアニメアイコンでSNSをやることもそうですし、自分以外の人間とか動物を使うのもそう。でもそういうのは俺の中では違う。否定するわけじゃないですけど。アニメーションなのに丸々自分たち、っていうのがめちゃくちゃ面白いというか、俺たちの姿勢を提示できてるのかなと。「俺らがやるべきことやってるな〜」って感じがすごくします。

最近ずっと触ってます。だからもうMVとか作ってないんですよね。殴る蹴るとかジャンプさせたりするのが、とにかく面白くなっちゃって。俺がコントローラーでニノを走らせたりできるのが、もう、なんていうか、今までにない種類の喜びというか。本当にやばい。

──これでゲームを作れるんじゃないですかね。

だからもう格ゲー作ろうかと思って。俺ら喧嘩とかしないし、殴り合えた方がいいんじゃないかって。この前、近所でヤンキーが決闘して、野次馬が集まって警察沙汰になったことがあったみたいなんですけど、どんなヤンキーかと思ったらインテリ眼鏡みたいなのが喧嘩してた、って話を聞いて。本来サイバーの世界に行きそうなやつらが現実で殴り合いしてるのなんなんだと思って、そこからヒントを得ました。俺らは逆にサイバーの中で喧嘩すればいいんじゃないか、っていう。これで物事とか決めたらいいんですよ。

──ははは、最高ですね。

あと、その3Dモデルを使って、メンバー全員でVRChatとかやったらめっちゃ面白いよなって。VRChatってみんなアバターを使って遊んでるのに、俺らだけ超生身のやつらがそのままダイブしてくるんですよ。「これ絶対本人この見た目だろ」みたいなやつらが4人歩いてるのめっちゃ面白いと思って。俺らは俺らの身体を選びたいですね。

──ライブで新曲も披露してますが、曲もだいぶストックがあるんですか?

いっぱい作ってますよ。この1ヶ月2ヶ月の修行の成果で、もっと肉感のある演奏になると思います。もう技術量としては別の状態になってて。今まで俺らって練習したことなかったから。

──そうなんですか?笑

みんな下手って言ってくるけど、まあいっか、みたいな感じで。でも「やりたいことができてない、曲の再現性がないのって、下手だからじゃない?」みたいな話になって。それで練習したらだいぶ別物になったから、次は音楽的にすごくやりたいことがやれるアルバムになると思います。今まではいろんな音楽像をごっちゃり混ぜてるのをあやふやさでぼかす、みたいなところがあったんですけど、もっとはっきりしたものになると思います。音像が変わるとかじゃなくて、手触りのあるものに変わるっていう感じですかね。

──それはだいぶ大きい変化ですね。

展開性のあるものというか、意味を変革できるような一石を投じ続けたいと思ったときに、やっぱり説得力があった方が面白い。わからない人、知る気のなかった人にまで届けばいいなって思います。結局、説明はするんですよ。絶対。説明しないといけない相手を増やすというか、いろんなエリアの人に届けていきたいですね。

◯ 2025年4月8日 Google Meetにて

■ Release

MoritaSaki in the pool – Love is Over!

□ レーベル:TINY SUMMER OF LOVE
□ 品番:TSOLOVE-001
□ 仕様:CD / Digital
□ 価格:¥2,750
□ リリース:2024/09/18

□ トラックリスト:
1. Portraits
2. MIRROR‘S EDGE
3. IKAROS
4. Guernica
5. SugarCrash
6. wallflower
7. Enrique
8. Ghost Dream

*配信リンク:
https://ultravybe.lnk.to/loveisover

■ Profile

MoritaSaki in the pool

Riku Ishihara(Vocal / Guitar)
Natsumi Heike(Vocal / Bass)
Taiga Ninomiya(Guitar)
Maki Shibata(Drums)

[ Instructions ]

(Those that meet these criteria are considered MoritaSaki in the pool.)
(1) Introducing, “We are MoritaSaki in the Pool.” (Some variation is okay.)
(2) Vocal-track is two voices, male and female (or so it sounds), in unison.
(3) Apply chorus effect to guitar sound.
(4) Perform MoritaSaki in the pool’s song and other artist’s song.
(5) And say “I love you.” To one person. Or more.

(1)「モリタサキ・イン・ザ・プールです」と名乗る。
(2) ボーカル・トラックは男女2声(またはそのように聞こえる)のユニゾンである。
(3) ギターのサウンドにはコーラス・エフェクトをかける。
(4) モリタサキ・イン・ザ・プール及び、他のアーティストの曲を演奏する。
(5) そして「愛している」と伝える。ひとりに。あるいはそれ以上に。

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