
取材/文=横堀つばさ
編集=對馬拓
写真=タカギタツヒト
2025年8月17日(日)、東京・下北沢BASEMENTBARにてOaikoによる2マン企画シリーズ『みちしるべ』が開催された。今年の2月から展開されてきた同イベントの9本目となる今回は、pavilionとGateballersの2組が出演。pavilionがGateballersを自らの自主企画でこの会場へ招いた2022年10月から3年近く。両者は幾倍にも大きくなったスタイルを見せつけ合い、再会の喜びを分かち合った。
* * *
pavilion
先発を任されたpavilionは「La La La」でキックオフ。気怠さと億劫さを孕んだ森夏月(Vo. Gt.)の歌声にフラジャイルな山本尚之(Gt.)のギターが重なり、黴臭くも愛おしい記憶を引っぱり出してきたかと思えば、〈LaLaLa〉の合言葉で急転直下、グランジな音像に変貌する。夕暮れ時のサイレンが鳴り始めた焦燥を吹っ飛ばすように歌われるラララのメロディーは、石ころを蹴りながら帰った通学路を想起させるほどの郷愁の念やいなたさをパッケージングしており、ぽっかりと空いた胸の穴にギアのぶっとんだ戯れを詰め込む手法は彼らのシグネチャーと言えよう。






このチャームは続く「エメット」にも当然反映されているわけで、〈世界観を覆したくても 秘密は動かない〉と簡単にはひっくり返らない現実を飲み込みつつも、〈じゃあねって言わなきゃ 再会のシーンはいらないさ こんな風に切り込んで 明日へ転がるんだ〉とあがきながら明日へ突入していかんとする背中が提示されていく。現実は訳も分からずに何だか寂しくて、しがない。そんなことを生々しいまでに理解しているから、pavilionが日々をローリングするために響かせるアンサンブルは切実なのだ。










「僕らを含め、地域のライブハウスでやっている人がいて、地域でやっている人たちを盛り上げてくれる人がいて。傍から見ていて、Oaikoの人からは自分たちの世代を自分たちで作っていくぞという気概を感じるんです。そういう気概を見習いたいと思いながら、親近も感じています」とOaikoとの共鳴を口にし、プレイされたのは「everorange」。〈大人になってしまったら もったいない気がして〉とエバーグリーンな少年時代を夕焼けに仮託するこのナンバーは、先ほどのMCとクロスオーバーしながら、共に次の旋風を巻き起こしていくための約束の歌としても機能していた。








「素敵な休日に、素敵な1日にしてください」とトゥインクルな歌詞が綴られた「RACE TO THE HEAVENS」を届けると、最後は「Hit-or-Miss」でエンドマークが打たれる。つんのめる佐藤康平(Ba.)と山本のプレイに乗せ、3人の絶唱がフロアに充満していく。ライブ中盤で披露された「Monday Mornin’ Flavor」や「Aurum」、そしてこの楽曲もだが、バンドの根底に流れているのは3人で歌い、奏でる楽しさだろう。巧拙を問う以前の原初的な喜びを見失っていないからこそ、鼻歌混じりのメロディーだって、微々たる乱れが命取りになるギターの掛け合いだって、そして何よりも叫びを上げる時だって、彼らのミュージックは愛おしかった。


pavilion 2025/08/17 setlist
1. La La La
2. エメット
3. ルーシッドの空言
4. 渦
5. everorange
6. Monday Mornin’ Flavor
7. Aurum
8. RACE TO THE HEAVENS
9. Hit-or-Miss
* * *
Gateballers
後攻のGateballersは「涙のSS」をオープニング・ナンバーに据え、ワウを駆使した泡立つギターと久富奈良(Dr.)が刻む軽妙なライド・シンバルで乱反射する過去を煌めかせていく。時として上機嫌に口ずさむラララの3音は、pavilionのそれよりもニュートラルな手触りで、音符1つ1つから両者の差異が強調されてくる。それゆえに濱野夏椰(Gt. Vo.)が「夏月くんが『レモンソング』って曲をカバーしてくれて。あんなに良いカバーは見たことがない。変な曲だなと思ったんですけど、やることにしました」と「レモンソング」をお返ししたことは意義深く思えた。考えてみれば、生命の消失を前提に途方もない寂寞に襲われて震える様を記した同ナンバーと、背伸びをしたり、現実に打ちひしがれたりを繰り返し、来たる最期に怯えながらもぶっ飛んでいこうとするpavilionの作品は、生々しくもファンシーにこの世界を彩っているというポイントで結ばれているのではないか。






〈とけだしたピンクが ブルー塗りつぶすみたいに 僕たちが気づかぬ間に はじまってたらいいね〉と幸福が訪れた時、そのクローバーを真っ先に手渡したくなる人とのもどかしい関係をしたためる「Rooftop」でピンクと青に染められた会場は、Gateballersがいかにして現実をデコレーションしているのかを伝えてくれた。彼らは、赤と青がマーブル模様を描くみたいに、パトスとロゴス、女性と男性、夏と冬といったあらゆる二項対立を融解させることによってボーダーラインを越境し、そこから浮かび上がってきた本質的なキーワードを抽出しているのだろう。そう思うと、「スーフィー」で登場するフルーツサンドやダンスのステップといった言葉たちも、ハッピーを分かち合えることの、あるいは手を取り合える幸福のメタファーとして機能しているのだと気づく。








ページをめくる度に次なる世界が出現するトキメキが凝固した「Wake up」、そして新曲「reflection」を終え、「命にキスを」が捧げられる。ここまで手を変え、品を変え、命や宇宙、海、大地といったコスモスを刻んできたからこそ、〈泣いてる時には抱きしめたい 迷った時には耳元で あなたは僕の全てだと教えるよ〉〈あなたに可愛いと言われたい あなたに甘えてみたい〉と綴られるパーソナルなリリックの切実さたるや。ロマンチックな言葉も、繊細なレトリックも捨て去って歌われるこのラブソングは、純白のタオルに包まれた幼な子を想像するほどに深い深い愛が投影されていた。










「夏が終わらないうちに、会いましょう」という一言と共に「end roll」がラストを彩り、アンコールでは「Universe」をプレイ。ライブ中盤、濱野は「もう時間も分かんないや。昼? 夜?」と冗談交じりに漏らしていたけれど、くるくると回転する光によって4人とファンのシルエットが縁取られる1コマは、昼と夜さえも溶け合ってしまうような極上の1日をまさしく体現していた。

Gateballers 2025/08/17 setlist
1. 涙のSS
2. プラネテス
3. Dancing
4. レモンソング
5. スーフィー
6. Rooftop
7. Wake up
8. reflection
9. 命にキスを
10. end roll
En. Universe
Author

最新記事
- 2025年10月2日News余韻と渇望を残す恋の物語──インディー・ロック / ドリームポップ・プロジェクト Yasu Cubがシングル「all this time」を10/8リリース
- 2025年10月2日Newsタイのシューゲイズ・バンド Slowwvesの初来日公演にMoon In June、エイプリルブルー、cattle、cephaloが出演決定
- 2025年9月29日Report昼と夜さえも溶け合って pavilion × Gateballers(Oaiko pre. みちしるべ)
- 2025年9月27日News幾何学的要素と身体的感覚のマリアージュ──Macot Ohataが2ndシングル「Airemain」をリリース