
文/編集=對馬拓
写真=miu kubotera
Oaikoの2マン企画シリーズ『みちしるべ』の第2弾は、tiny yawnとリュべンスを迎えて開催された。両者のライブを通して感じられたのは、どちらにも一抹の切なさのようなものが感じられた点で、不思議な親和性があった。影響源など音楽的なバックグラウンドが異なるだけでなく、最終的に出力されるものも一聴して似ているわけではない。しかしtiny yawnもリュべンスも、どこか刹那的な情緒の表現に長けたライブだったように思う。超満員の下北沢LIVE HAUSを振り返る。
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tiny yawn
あたたかく寄り添ってくれる、そっと頬を撫でる春風のような、そんな優しい音楽だった。決して過干渉ではない。この日の幕開けを彩った「夜明の星」の軽快な演奏は、そよそよと吹き抜けていき、しかしその一瞬、確かに包み込んでくれる心地がした。何よりMegumi Takahashi(Vo. Key.)のヴォーカルは一度聴いたら忘れられない。低音も高音も伸びやかで、安らぎを与えるような響き。






イントロのベースとドラムで一気に引き込んでいく「in this room」。スムースで落ち着いたトーンのアンサンブルをじっくり聴かせる。それぞれの楽器のフレーズに耳を傾けると緻密さが見えてくる。テクニカルなギターも良いアクセントを残す。しかし技巧的だが聴いていて疲れのこない、あくまで自然なさじ加減の演奏が絶妙だ。





「yellow parrot」や「summer hole」も素晴らしかった。ギターの軽妙洒脱なフレーズの数々と、小気味良い演奏。耳の楽しさはさることながら、身体の奥からじんわりとあたためてくれるような感覚があった。とにかくずっと浸っていたくなる。“ここにいてもいい” と思わせてくれる。安心できる場所を作ってくれる。そんなライブだった。





2月にリリースしたばかりの新作EP『euphoria』からは、「クリア」と「YOUTH」を披露した。特に「YOUTH」は、この日のtiny yawnにとっての最大瞬間風速を記録していたように思う。若さとは疾走だ。つまり、疾走することはすなわち若さなのだ。何もかも軽やかに飛び越え駆けていくようなテンポに身を任せるうち、邪魔なものが、いつからかこびりついて心を重くしてしまっていた汚れが、少しずつ振り払われていく。







ラストは午後の微睡のような刹那で包み込む「yawn」で幕切れ。〈霞む影 長い夢の中1人でいたあの子は 春が連れていった〉──アウトロはライブならではのアレンジ、熱のこもった演奏で轟音を鳴らす。それは夢をかき消すノイズのようにも思えた。しかしネガティヴな気持ちはない。そっと背中を押して「いってらっしゃい」と言ってくれているような、そんな気がしたのだった。

tiny yawn 2025/03/29 setlist
1. 夜明の星
2. 泡になる
3. in this room
4. yellow parrot
5. クリア
6. summer hole
7. Somewhere
8. 寝言
9. YOUTH
10. yawn
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リュベンス
続いて登場したリュべンスは、tiny yawnが作り出した軽やかで少し切ない空間に、甘酸っぱさを数滴混ぜるような、そんな感覚のライブを披露してくれた。まずは、昨年11月にリリースしたEP『murmur』より冒頭の「水の骨」からスタート。浮遊感のある独特のメロディで〈全ての時を無駄に過ごしてみたい〉と歌い上げるセレナ(Vo. Gt.)のヴォーカルが妖しく光る。緩急の加減が絶妙な演奏は、私たちの身体を心地良く揺らす。





続く「浮沈の朝」では少しダウナーに。ふくよかで動き回るベース・ラインの存在感は、まさに “空間を支配する” という表現が相応しい。そして「カフネ」「魔的」とじっくり聴かせるような楽曲が続く。様々な表情を覗かせる変幻自在のギター・ワークがアンサンブルを彩る。そのフレーズの豊かさは聴いていても観ていてもとにかく楽しい。








この日は音源化されていない新曲を3曲も披露した。4月23日リリースのあたたかいミドル・チューン「ハートの尾ひれ」をはじめ、どの曲も振り幅の広さを見せながらもリュべンスとしての世界観は損なわれない。バンドの充実具合が垣間見えた気がした。







ライブの後半では「天使さん」を披露。この楽曲でリュべンスを知ったリスナーも多いのではないだろうか。たおやかな歌と演奏が、私たちの傷を慰撫するように優しく響く。
本編のラストは「ほがらかな呪い」。どこかノスタルジックな感触のある音像と、〈どんなに光り輝いても どこか楽しみきれなくなって〉というフレーズが切なく、刺さる。アウトロは終わりを惜しむように引き伸ばされ、終盤にかけて徐々に轟音となっていくが、それを断ち切るように音が止み、4人はステージを後にした。











しかし誰もここで終わらせたくはなかった。アンコールの拍手に呼ばれ、再び登場した4人は「白光線」を披露。どこか終わりの予感を滲ませる詞世界と、その刹那を運んでいくようなアンサンブルに胸が締め付けられた。アウトロのギターが鳴り止むその瞬間まで、この空間に自分が存在している喜びを、ただ噛み締めていた。

リュべンス 2025/03/29 setlist
1. 水の骨
2. 浮沈の朝
3. カフネ
4. 魔的
5. 棘棘
6. 風を止めないで
7. 新曲
8. 天使さん
9. ハートの尾ひれ(新曲)
10. 新曲
11. ほがらかな呪い
En. 白光線
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