よりファンタジックに、よりコンセプチュアルに。名古屋から現れたシューゲイズ・バンド、Blurred City Lights(ブラード・シティ・ライツ / 以下BCL)による2ndフルアルバムは、まさかの “2部作” だった──様々なモチーフを取り込み、インストゥルメンタルの楽曲もふんだんに織り交ぜながら構築された『Utopia / Dystopia』。壮大な作品世界を展開するアルバムを前後編にわたって紐解く決定版インタビュー、今回は後編=『Dystopia』編。既にアルバムを聴いた人はもちろん、これからBCLに出会う人にとっても、本稿が作品を深く楽しむための手助けになれば幸いだ。
さて、この物語に待ち受ける結末とは? そしてその先に我々は何を見るのだろうか?
インタビュー/文/編集=對馬拓
写真=シンマチダ
【 前編 】 Blurred City Lights『Utopia / Dystopia』インタビュー | 『Utopia』編
■ 『Dystopia』全曲解説
M8「dreamland」
──『Utopia』が「夕立」で終わって、そこからインストゥルメンタルの「dreamland」でまた一気に雰囲気が変わります。
恵(Gt.) アルバムの中でも「dreamland」と「shinjuku」がギリギリのタイミングで出来た曲なんですけど、「shinjuku」がネットでカルト的な人気のあるゲームが元ネタ(後述)になってるので、「dreamland」もそういう要素を取り込もうという発想になりました。「dreamland」は「ゆめにっき」っていうフリー・ゲームが元ネタです。小学校時代に何も分からないまま「ゆめにっき」をプレイした経験があって。笑 そういう昔の原体験を思い起こしながら作りました。『Dystopia』の大半の曲がそんな感じですね。
──確かに「dreamland」はゲームやインターネット的な空気感がある気がします。
恵 最初の “フォーン” っていう音を偶然出せたことがきっかけで作り始めました。そこから “ポポポポポ” っていろんな音が飛び交うんですけど、あれはゲームのキャラクターの会話音をイメージしてます。昔のゲームって、単音でキャラクターの会話を表現したりすると思うんですけど、そういうたくさんの人の声が夢の中に満ちていって、反響していくイメージ。ヴィジュアル的には『マトリックス』(映画)のコードが落ちてくる、あの感じです。音響的な部分はダーク・アンビエントだったり、Radioheadの「Treefingers」もリファレンスに入ってますね。
神谷なな星(Vo. Ba. Key.) リミナル・スペースとかバックルーム、ドリームコアの影響も大きいよね。
恵 バックルームって、ああいう終わりのない空間を歩き続けるところが令和の「ゆめにっき」みたいだと思ってて。そういう共通点から昔の体験と現代がマッチしていきました。
神谷 『Utopia / Dystopia』の裏コンセプトとして、自分たちがルーツにしてきたアニメとかゲームとか、そういう要素をリファレンスにするのがテーマで。特に『Dystopia』はそれが色濃く出てると思います。

──「dreamland」は『Dystopia』の導入として素晴らしいですよね。ずっと同じような音が続くから、ちょっと恐怖感もある。それがより “ディストピア” 感を増してるというか。
恵 アンビエント系インストの「dreamland」から次の「Whisper」に繋がる構成は、『Utopia』の「渦」から「swirl of lights」の流れと対比させたかったのもあります。
神谷 ……ちょっと『Utopia』の話に戻るんだけど、「渦」ってリファレンスあったよね?
恵 そうだ。これも自分の原体験を思い起こした部分なんですけど、Yesっていうイギリスのプログレッシヴ・ロックのバンドをリファレンスにしてます。僕はそういう70年代のロックがバンド・ミュージックの入口になってて。Yesの『Close to the Edge』っていうアルバムの1曲目(「Close to the Edge」)が18分以上あるんですけど、中盤あたりから始まる教会音楽みたいなアンビエントっぽいパートがあって、最高潮になったところでパイプ・オルガンの音が鳴り出すんですよ。その神聖さ、光が溢れていくような感じは、まさに「渦」〜「swirl of lights」のイメージです。
恵 Pink Floydも大好きなんですけど、プログレって空間演出的な部分が強い音楽で、それがシューゲイズにも繋がってる気がするんですよね。どっちも “空間をバンドで表現する” っていうところが共通点なのかなと思います。ある意味プログレは自分にとってシューゲイズの原体験かもしれない。
神谷 ちなみに「dreamland」は全部ギターの音です。いろんなレビューでシンセって言われるんですけど。
恵 シンセは1つも使ってないです。いつかはライブでやりたいですね。
M9「Whisper」
──「dreamland」を断ち切るようなドラムで始まる。この流れがめちゃくちゃ好きで。
神谷 いいですよね〜!!
──ライブでも前の曲のアウトロを断ち切って始まることが多いですが、あの瞬間がやっぱり好きなんですよね。大橋くんのドラムも最高で。
神谷 めっちゃ大変そうだけどね。
恵 やっぱりドラマーじゃない人が作るフレーズだから、苦労してますね。笑
──「Whisper」の元ネタが『攻殻機動隊』だというのはちらっと聞いてました。
神谷 正確には『攻殻機動隊』なのは私が書いた歌詞で、曲自体はその前にめぐみんが全部作ってるから、そこは分離して考えなきゃいけない。めぐみんの意図と私の意図が交錯するところは面白いと思うんですけど。だから、まずめぐみんがどういうふうにこだわって作ったのか聞いてみたい。
恵 「Whisper」は『Dystopia』に入ってる歌もので一番最後にできた曲です。もう1曲作らないといけないってときに、いろんな曲を聴いてとっかかりを探してたら、Spangle call Lilli lineの「shower berge」に辿り着いて。
──めっちゃ好きな曲です!!(食い気味)
恵 Spangle call Lilli lineは「こういう表現の仕方があるんだ」っていうアイデアの源泉になることが多くて。そのときも全曲シャッフルで聴いてたんですけど、「shower beige」のグルーヴ感が「いいぞ!」って。元々グルーヴのある音楽──四つ打ちで淡々と進んでいく感じの曲が好きなんですよね。なので最初の枠組みはほとんど「shower beige」から持ってきました。そこから自分がやりたい方向にアレンジしていって。
恵 最初のドラムの “ダダツ、ダダツ” っていうフレーズは、全く別のバンドから持ってきました。Them Crooked Vultures(*1)の「Gunman」っていう曲があって、それがちょっとしたイントロから「ダダツ、ダダツ」っていうドラムのフィルで始まるんですけど、そういうことをずっとやりたいと思ってたんですよね。
*1:Josh Homme(Queens of the Stone Age)、John Paul Jones(ex. Led Zeppelin)、Dave Grohl(Foo Fighters)により2009年に結成されたスーパー・グループ。
神谷 デモを聴いたときからマジでかっこよかったもんね。
恵 神谷にデモを投げたとき、かなり好感触だった覚えがある。
神谷 最初は「Whisper」単体で聴いてたけど、「dreamland」が出来てから繋げて聴いたら、さらに「うわ〜〜かっこよ!」って思って。ドラムで始まる曲がかっこいいってことを、インストをもって実感しました。しかも「dreamland」って同じようなテンションが長めの尺で続いていくけど、最後の方で盛り上がって、スパーン!って「Whisper」のイントロでぶった切られるのが、もうめっちゃ気持ちいい。しかも “ダダツ、ダダツ” っていうドラムだけだと、次に何が始まるかわからないじゃん。そこから予兆がないままギターが抜けていくあの開放感、ヤバくない?
恵 それをやりたくてあのドラムを入れてるからね。「ゆめにっき」もいきなり夢から醒めるイベントがあって。そういう感じもちょっと出したかった。

──「Whisper」はライブで観てどんどん好きになってる曲で。溶けない名前のイトウさんも絶賛してました。
恵 嬉しいです。いろんなコードをなんとなく試しに弾いてみることがあるんですけど、そのときにできたアイデアも使ってます。そこに「shower beige」とか、いろんな要素がパズルみたいにハマっていってこの曲ができました。
神谷 「Whisper」は革命でしたね。こんな曲出されたら、私はもう作曲しなくていいんじゃないかって思ったくらい。
──曲全体の温度感も絶妙でちょうどいいんですよね。
神谷 私がよく作る、1ヶ所でめっちゃ盛り上がるタイプの曲じゃない。淡々とした四つ打ちもめっちゃいいし。何だろう……私「Whisper」の全てが好きだから。笑
──めぐみんの曲と言えば「回葬」のイメージだったんですが、個人的には塗り替えたというか。優劣をつけるわけではないですが、そのくらい「Whisper」のインパクトが強かったです。
恵 ありがとうスパングル!
神谷 私のこだわりとしては、ラスサビ前にリード・ギターを追加したんですよ。
恵 それと、リード・ギターの手前の〈光映し出す〜〉のコーラス。その2つは神谷のアレンジで追加になりました。
神谷 YouTubeにavengers in sci-fiのカバーを載せたとき、めぐみんに鋭いリード・ギターのフレーズを弾いてもらったことがあって。「Whisper」もそういうリードがあったらめっちゃフックになるよな〜と思って入れてもらいました。全部が今に繋がってる。
──「Whisper」の、あのリード・ギターは僕もすごく好きです。
神谷 「ピロピロするな!」っていう。意味のないピロピロをやめなさい。意味のあるリードを弾きなさい。
恵 笑
神谷 “リード・ギター ピロピロしすぎ問題” をそこで解決してます。「間の長い、雄大なリードを弾けよ〜!」っていう問題提起でもありますね。1音1音があの音階で、あの展開で、あの長さじゃないと絶対にいけない。と思って作ってます。意図がちゃんとある。
──必然性のあるフレーズ、ということですね。
神谷 歌詞については、私は「Whisper」にstargaze shelterの「エミュレーション」っぽさを勝手に感じたから、そういうサイバーパンクに舵を切った世界観にしようと思って書きました。
恵 で、『攻殻機動隊』になる。
神谷 もう、超〜〜〜〜『攻殻機動隊』ですよ。分かる人ならビビるくらい『攻殻機動隊』のことを書いてますから。笑
──でも『攻殻機動隊』を知らない人にも伝わる歌詞ですよね。 “プロトコル” って言葉、僕はP-MODELで知ったんですけど、平沢進にもそういう世界観がある。
神谷 平沢進自体もサイバーパンクの象徴みたいなところがありますよね。
──平沢進の曲にも究極のディストピア感があるというか。特に後期のP-MODELとか、怖くて頻繁に聴けないです。
恵 わかります。本当にヤバい音楽ですからね。笑
神谷 タイトルは「Whisper」か「Ghost」で迷ったんですよ。『攻殻機動隊』に “ゴーストの囁き” っていう概念があるんですけど、全身が義体化してる主人公にとって、自分らしさ、個の部分とは何だろうっていう──私はゴースト、魂が大事なんじゃなくて、囁きがあること自体が大事だと捉えたので「Whisper」にしました。歌詞の最後で〈見つけ出したあなたの囁く声 幻想のその先へ今すぐ連れ出すよ〉って言ってるんですけど、その〈囁く声〉がこの曲の特に大事な部分です。
──例えば脳の電子化って、もう起こりうることだと思ってて。倫理的な部分がクリアできるのか分かりませんが、実際に研究が進んでるという話も聞いたことがあります。だからもう全然フィクションじゃない。
神谷 インターネットって聞くと、私たちがネット・サーフィンするインターネットをイメージしがちですけど、ネットワークというもの自体は無数にあって、脳も一種のネットワーク。だからそういうものを全て接続してしまえば、もう境界線がないんです。『攻殻機動隊』ではそういうことを問題提起として言ってるんですけど、インターネットを情報の網と捉えるのであれば、宇宙の星々の繋がりも全てインターネットになる。そういう規模の話が、もう身近になってきてるので、「Whisper」はSFじゃなくて私たちの話なんですよね。
M10「shinjuku」
──この曲もインストですが、インパクトはかなり強いです。曲名が固有名詞なのも引っかかるポイント。
恵 アルバム全体のコンセプトの出発点であり、一番最後に仕上がった曲ですね。設定された提出期限の2日前とかにできた記憶があります。笑
神谷 いつまでも上がってこないから不安でしょうがなかった!
恵 頑張ったんだよ〜。これは『ドラッグオンドラグーン』(DRAG-ON DRAGOON / DOD)っていうゲームが元ネタです。アイテムを全部集めた上で、すごく難しいラスボス戦をクリアした後に解放される “新宿エンド” っていう、めちゃくちゃなバッド・エンドがあって。
神谷 あれヤバいよね。
恵 『ドラッグオンドラグーン』ってエンドがA〜Eの5種類あって、 “新宿エンド” は “Eエンド” なんですけど、中でもDとEで流れる音が好きで、「shinjuku」はその2つを融合させたような感じになってます。A〜Dはスタッフロールに合わせて音楽が流れるんですけど、 “Eエンド” は新宿の雑踏が流れるだけで終わるんです。何の音楽的要素もなく、ただフィールド・レコーディングみたいな音が流れて、プレイヤーは置いてきぼりになる。あと “Dエンド” は、他のエンドに比べてだいぶ雰囲気系の曲で、タングドラムとかなのかな? そういう金属系打楽器の取り留めもないメロディがただループして終わる。その2つのエンドの要素を掛け合わせたのが「shinjuku」です。連休とかに神谷とよくハードオフ巡りをするんですけど、行った先々で買ったカリンバとかタングドラムをマイクで録音して、逆再生させたり切り貼りしたものを裏で流してます。そこに街の音も入れたりして、サンプリング・ミュージックみたいな感じですね。でもシンセは使ってないです。これ大事!

神谷 ギターのフレーズも入れてなかった?
恵 BCLの「花束」とか「sumire」のフレーズを逆再生してエフェクトを重ねたものをこっそり混ぜ込んでるね。あと「swirl of lights」とか「Whisper」の神谷のコーラスも一部切り取って逆再生させたりピッチを変えたりして入れてます。そうやって散りばめられた記憶の断片がカセットプレーヤーで再生される、っていうのが大枠のコンセプトです。
神谷 『ドラッグオンドラグーン』は私が元々好きでめぐみんに教えたんですけど、気づいたら先を越されちゃって。
恵 僕がハマりすぎて神谷を追い越しちゃったっていう。笑
──そういうパターンってありますよね。
神谷 サイバーパンクの代表例として『攻殻機動隊』『ドラッグオンドラグーン』『ニーア オートマタ』(NieR:Automata)を挙げて、アルバムの全体的なコンセプトを固めていったんですよね。「shinjuku」のタイトルをつけたのは私なんですけど……使ってる音は渋谷だっけ?
恵 そうそう。街の音は商用利用可のフリー素材が上がってるサイトのものを使ってるんですけど、音自体は渋谷です。その音声サイト、新宿の音もあったんですけど、なんか聞き覚えのある音だな〜って思ってたら、『8番出口』をクリアしたときに流れる街の音だったんですよ。それで渋谷に変えたっていう。笑
──えー!!笑
神谷 私がインストを作ってたら、おそらく実際に現地で音を録ってたし、めぐみんが街の音を使うって事前に知ってたら「絶対自分で録った方がいいよ」って突っ返してたと思うんですよ。でもあえてフリー素材を使うことによって、インターネット・カルチャー感が出たと思ってて。ネットに転がってる漂流物を拾うみたいな行為が、よりディストピア感を増してて面白いですよね。
恵 「shinjuku」の仮タイトルは「DODインスト」で、本当はもっと『ドラッグオンドラグーン』っぽい曲になる予定だったんですよ。あのゲームのBGMって、クラシック音楽とかいろんな曲を切り貼りして別の曲として再構成する、みたいな作り方になってるんですけど、同じことをやろうと思ったら、あまりにも『ドラックオンドラグーン』になりすぎて。笑 それで作り直したから提出が遅れたっていうのもありますね。
──いわゆる “鬱ゲー” というか、そういう要素があるのはすごく今っぽいと思いました。世界的に流行ってる『serial experiments lain』とも個人的に親和性を感じたり。
神谷 過去があってこそ未来が存在するので、旧時代のものをしっかり踏襲するのも大事なこと。それはもういろんな人がやってきてるけど、BCL的には革新だと思うことを大事にしてますね。
M11「亡霊都市」
──まさに「亡霊都市」という言葉からイメージするような、何とも言えない、怖さとか寂しさみたいなものがある曲です。
恵 ずっとボウイングの曲をやりたかったんですよね。で、最初のデモを神谷に180度作り変えてもらった結果、「亡霊都市」になった。
神谷 そうだっけ?!
恵 最初は「亡霊都市」って名前がつくほど暗い曲でもなかった。ボウイングといえばSigur Rósだから、そういう明るめのポスト・ロックから元ネタを持ってきてデモを作ったんですけど、「これはやばすぎる」って強めに反対されて。笑
──「やばすぎる」っていうのは、Sigur Rósすぎたってことですか?
恵 Sigur Rósでもないというか、幼稚すぎるというか……? Of Monsters and Menだったかな。そういう祝祭的な明るさのある、晴れやかな感じのバンドをリファレンスにしたんですけど、どうも僕が作ると深みのない、幼稚な明るさになっちゃう。そこがいけなかったのかな。
神谷 メジャー・コードの使い方とか、リズムの入れ方かもね。
恵 それで大幅にテコ入れしてもらった結果、テンポが半分になり、リフ自体も要素は残しつつリズムが変わり、だんだん重たく、空間を生かすようなイントロになって、ボウイング版の「回葬」みたいな感じに……。この曲は “原作・恵 / 作曲・神谷” みたいなところがあります。
神谷 私は記憶が書き換えられてて、デモの時点からそんなに変えてないつもりだったけど。笑 今の「亡霊都市」を聴いてもめっちゃめぐみんっぽいと思うし。
恵 結局ボウイングを使うと僕の色が濃くなるんだろうと思いますね。
神谷 これは未熟な点なんですけど、明るい曲でボウイングできるほどの力量が、まだBCLになかったんですよね。ボウイングの曲を1本のギターで仕上げようとすると、ループで録って重ねないと駄目なんですよ。どうしてもそれだと暗くなってしまうから、暗い方に振り切った。もう1人メンバーがいたら余裕でできるんですけど。結果的にはめっちゃ良かったけどね。
恵 そうだね〜。

神谷 歌詞は『ニーア オートマタ』の世界観が入ってますね。『ニーア オートマタ』は人類が滅びた都市のアンドロイドたちの話なんですけど、そういう虚無感だったり、忘れ去られた人間の記憶とか、荒廃していても人工物は残っていく様を出せたらいいなと思って。
──かなり直接的にディストピアを表現してる曲ですね。
神谷 あの頃はパツパツにタスクを詰めて歌詞を書いてたので、直接的な表現が多いです。
──ライブで聴くとめちゃめちゃ浸れて、没入感があります。
神谷 やるのはしんどいけどね。アンプも1つ増えるし、ギターもボウイング用のものを使うから。
恵 しんどいね〜。「亡霊都市」をやる日はアンプを3台使うので、セッティングがとにかく大変です。
神谷 逆にアンプがない日はやらないって分かる。笑
恵 機材でセットリストがバレます。笑
神谷 あ、あとヘヴィーなアレンジにしたくて、大橋くんにメタルっぽい要素を入れてもらったよね。
恵 ラスサビで、メタル系のブレイクダウンのドラム・パートを入れてもらってますね。もう若干ネタ的な感じで、バカみたいにヘヴィーにしてます。神谷は5弦ベースの一番低い音を弾いてるし、僕はローが出やすいファズを使って低い場所でコードを弾くから、とにかく重くなる。
神谷 私以外のメンバーはメタルとかハードコアとか、そういう重めの音楽を通過してきてるんですけど、私にとってはボウイングをシューゲイズじゃなくてメタルに寄せていくのがめっちゃ面白くて画期的でした。いろんなジャンルの要素を混ぜてみたい、っていう気持ちがそこで生まれましたね。
──『天使のいない街で』では「蜃気楼」がヘヴィー・シューゲイズ枠でしたが、「亡霊都市」は全然違うベクトルで新しいヘヴィー・シューゲイズをやってる印象があります。
神谷 「亡霊都市」だけが好きな玄人リスナーも絶対いると思うから、そういう人たちに歌ものだということを悟られないくらい、いろんなアレンジを持ち込んでます。
M12「きみのこえ」
──「亡霊都市」から「きみのこえ」の流れは、アルバムの中でもとりわけ重くて、長い曲が続きますよね。作品の終盤にこういう聴き応えのある曲を持ってくるのはさすがだし、こだわりも感じられます。
恵 5分の曲のあとに10分の曲が来ますからね。
神谷 そもそも『Utopia』と『Dystopia』はリスナーが二分されると思ってて。BCLは過去にも曲によってはそういうことが起こってきたんです。なので、今回は『Utopia』の系統が好きな人は『Utopia』だけ聴いてもいいし、『Dystopia』の系統が好きなら『Dystopia』だけでもいい。もちろん2作はグラデーションになってると思いますが、どちらかを聴かないという選択肢もちゃんとあるんです。
──ライト層にも向けられてる。
神谷 めっちゃ大事な点です。
恵 「きみのこえ」はBCL初のスタジオ・セッション曲ですね。
神谷 今までは、スタジオに入ったときに大橋くんがドラムをちょっとアレンジするようなことはあったけど、その程度だった。初めて現場で全部作った曲です。
恵 Death Metalっていうエフェクターのおかげでもあるよね。スタジオでDeath Metalを使ってTokyo Shoegazerっぽい綺麗なコードを弾いてたら、それに神谷が感化されて、そこから構成していった記憶があります。
神谷 まず基本的なメロディを最初に決めてから構成を考えて(*2)。よくやったよね〜。途中で変化が欲しくなったからピアノも入れて、それでベースとピアノを同時に弾くことになって。

*2:セッション時には構成を考えるためホワイトボードを使用
恵 前回のインタビューで、The Rainyっていうバンドから影響を受けた話をしたと思うんですけど(*3)、The Rainyもスリーピースで、今のBCLに近い編成のバンドで。そのベーシストの方が、神谷が今ライブでやってるみたいに、片手でベースを鳴らしながら、もう片手でキーボードを弾いてたんですよ。「こういう手法もあるんだ」っていう発見でした。
*3:“僕がBCLを始める前にやってたバンドがあったんですけど、そのときに名古屋のThe Rainyっていうシューゲイズ・バンドと対バンする機会があって。それがシューゲイズとの出会いなんですけど、デカい音で、美しくて、「よいな〜〜」って思って。元々クラシックが好きだったのもあって、「自分は美しい音楽が好きなんだ」っていうざっくりとした感覚はあったんですよね。そのバンドのリハを見たとき、あまりにも良すぎて飛び上がって、寄りかかってた棚に頭ぶつけました。”(恵) https://www.sleep-like-a-pillow.com/interview-blurred-city-lights/
神谷 めぐみんがThe Rainyになりたいのを知ってるからこそ、なりたいんじゃなくて、超えるべきだろうと。The Rainyを超えていく存在として「いっちょやったるか〜!」と思って。当時メンバーみんなのポテンシャルがマシマシで、それぞれが一番得意とするものを全部やってるんですよね。大橋くんも得意なドラムを存分に叩いてる。各々の能力をガチで最大限に発揮した、最高峰の曲だね、これは。



──それでちゃんと曲が成り立ってるのはすごいですね。
神谷 ヴォーカルは繰り返しのメロディで歌っていくから、楽器で変化をつける、っていう提示の仕方をしてます。本当に音楽的な曲だよね。
恵 演奏にスポットが当たる曲ではあるよね。
神谷 しかも、こんなに長くてヘヴィーだけど、しっかりキャッチーっていう。その限界値を提示した曲でもあります。まずメロディが分かりやすいし、冒頭の〈宇宙のはし〉って歌うところもギターが入らないから言葉がスッと入ってきて、宇宙の曲だってことが理解できる。そこから宇宙をテーマにしたストーリーを楽器で全部表現するっていう。バンドのロマンだよね。すごい曲を作ったなって思いました。
──前回のインタビューで “キャッチーを極める” っていうキーワードがありましたが、それをシューゲイズのフィールドの中で最大限やってますよね。マジでBCLの全部が詰まってるし、改めてバンドの自己紹介をした曲というか。
神谷 マジで名刺曲だね。
恵 そうだね。
神谷 世界観とかコンセプトとか技術とかも含めて、「こういうことをするバンドなんだ」っていうのが1曲聴けば全部分かるよね。「きみのこえ」は誰にも真似できない曲でありたかったから、ベースの音作りもめっちゃこだわってて。シマーのエフェクターを使ったり、パワー・コードをコード弾きしたりしてるし、低音を支えるだけじゃなくて、めっちゃ深いリヴァーブをかけたりして、ギターよりも上のノイズとかひずみも出してる。楽器を鳴らすというより、表現したい音を出す手段としてのベースっていう感じです。そんな簡単にコピーさせないよ!
──BCL流の空間芸術の最高潮ですね。個人的にイントロのベースの音がすごく好きで。神聖な音というか。
神谷 いいですよねー! シマーのオクターブのリヴァーブがキラキラキラ〜って。弦楽器っていうより教会にありそうな、パイプ・オルガンみたいな感じ。
──まさに教会をイメージしました。
神谷 私の大好きなmol-74の要素も詰まってますね。mol-74の「▷ (Saisei)」の、コード弾きから始まる独特なイントロとか、めちゃくちゃリファレンスにしてるし。髙橋涼馬さんがやってるSeebirdsもイメージしてます。でも、全部が何かをリファレンスにしてるっていうより、メンバー各々のルーツが自然に出てきた感じ。「夜明け」を作ってるときと同じ脳になりました。何かを参考にするでもなく、当たり前にス〜って出てくるみたいな。
──それはセッションならではかもしれないですね。
神谷 あと、大事なことを思い出したんですけど、ベースのノイズから歌詞が決まっていったんですよ。めぐみんが弾いてたTokyo Shoegazerっぽいひずみを聴いて「私もそういうのやりたい!」ってなって、ベースに一番強いひずみと一番強いリヴァーブをかけてノイズを出したら、トランシーバーとかで話してるときのノイズっぽいなって。そこからストーリーを思いついて、「うわー!」って言って。こういうとき声に出して「うわー!」って言うんですよ。笑 『ゼロ・グラビティ』っていう映画で、宇宙船から離れて漂流してしまって、助かる希望もない中で、無線機で話すシーンがあるんですけど、そのときのノイズのイメージなんですよね。宇宙の端っこでそういう状況の〈きみ〉と会話してて、だんだん宇宙船と距離が離れていって通信がノイズ混じりになって。最後は一つの星が超新星爆発を起こして、その光に〈きみ〉も飲み込まれて消えていく──っていうストーリーです。
──切ないっていうと陳腐かもしれないけど、めちゃめちゃ切ないですね……。
神谷 宇宙っていう、無限ともいわれる空間に取り残される恐怖。最大の孤独ですよね。
──究極の孤独ですね。
神谷 しかも助かる見込みがない。『Dystopia』の一つの真理でもあります。ロマンチックにしたって言ったら聞こえはいいですけど、なかなか怖いシチュエーションだと思う。このストーリーで誰かに小説書いてほしいもんね。
M13「the end of Dystopia?」
──これはクエスチョン・マークがついてるのがミソだと思うんですが。
神谷 いや〜〜、そうなんですよ。もう明らかですよね。「本当にディストピアが終わるんですか?」っていう提示ですね。この曲は私が作ってます。繰り返しのフレーズで、展開が少ないような感じなんですけど、それは輪廻転生というか、ユートピアとディストピアは表裏一体だから、ここが最後ではないっていうこと。星はまた生まれるし、歴史は繰り返されていく。
──ある種のループというか。
神谷 良いものも悪いものも繰り返されます。
──そうやって簡単に終わらせてくれないのがBCLですよね。
神谷 しつこいですよね。笑 「the end of Dystopia?」っていうタイトルも、『マクロスF』の「サヨナラノツバサ 〜 the end of triangle」が元ネタで、主人公を取り巻く三角関係が終わるのか?っていうストーリーの部分にもインスピレーションを受けてます。ちなみにキーは「きみのこえ」と同じです。
──映画とかアニメでも、最後に “TO BE CONTINUED…?” ってなったりしますからね。
神谷 そうそう! ホラー映画とかでも、全部解決したと思いきや、実はまだ……? みたいな終わり方したりするじゃないですか。ああいう感じが好きなんですよね。
【 Next 】 sumire
【 Repeat 】
渦
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