Posted on: 2026年3月24日 Posted by: 對馬拓 Comments: 0

とんでもないと思った。名古屋から現れたシューゲイズ・バンド、Blurred City Lights(ブラード・シティ・ライツ / 以下BCL)の次なる一手は、まさかの “2部作” だった──2024年2月にリリースした1stフルアルバム『天使のいない街で』によって国内外から注目を集め、文字通り “ジャパニーズ・シューゲイズ” を貫いてきた3人。2025年2月、ほぼ1年ぶりとなった2ndフルアルバムは『Utopia / Dystopia』と題され、“街” からさらに視点を広げ、この世界の二面性を計14曲のボリュームで描いてみせたのだ。

よりファンタジックに、よりコンセプチュアルに。様々なモチーフを取り込み、これまで以上にインストゥルメンタルの楽曲も織り交ぜながら構築された『Utopia / Dystopia』。この必然性に満ちた、完璧に練り上げられた作品世界を通して、BCLは我々に疑問を投げかける──前後編にわたって本作を紐解く決定版インタビュー、前編=『Utopia』編。神谷なな星(Vo. Ba. Key.)と恵(Gt.)に聞いた。

インタビュー/文/編集=對馬拓
写真=シンマチダ

■ みんな不幸になりたがり?

──実は前回のインタビュー(2024年実施)の最後で、次回作について言及してましたよね。

神谷なな星(Vo. Ba. Key.) 忘れてた! うおー! もうその頃から構想してたんだ。

恵(Gt.) ちょうどその日に構想の一番最初の種ができたんだよね。

神谷 東京に向かう高速道路の最終地点が新宿で、それがカーナビに映ったときにピーン!ときて、アルバムの世界観を定義して今に繋がってます。本当はそういう曲を作るつもりだったんですけど、最終的にはアルバム全体の世界観として反映されてますね。

 カーナビの目的地が東京で、それ以降の表示がないっていうところから、「首都の東京が世の中の中心ではない」みたいな話をしたよね(*1)。

*1:“カーナビに、ある地名が映ったんです。高速道路のいろんなインターチェンジとか、パーキングとか、ジャンクションとか、走っているとだんだん映されていくじゃないですか。で、最終地点のインターチェンジの地名が映った瞬間、その文字で頭ん中にずらーっとストーリーが並んだんですね。毛細血管が沸き立つような感覚で、「うわ、きた!!」と思って。「これは絶対曲にしてやろう」と。”(神谷)
https://www.sleep-like-a-pillow.com/interview-blurred-city-lights/3/

神谷 例えば、ゾンビのウイルスのワクチンを求めて旅に出て、ユートピアだと思ってた目的地にいざ辿り着いたら荒廃した世界、つまりディストピアだった──そういう絶望感のある物語、世界観を思いついたんです。東京がディストピアっていうのがそこで確定しましたね。

──東京がディストピアなのは、僕は生活する上で感じてきました。上京したばかりの頃は、不安もあったけどワクワクの方が強かった。「新天地、東京で俺はやってやるんだ!」って。でも年々、なんだ、このクソみたいな街は……

神谷・恵 ハハハハ!!

──渋谷とか新宿とかめっちゃ汚いし、人がいていい場所じゃないだろう、みたいな。

神谷 わかりますよ! あれ、おかしいです。

──コロナ禍の緊急事態宣言とかもあったし、感染者の数も当然多かったから、余計「なんで東京なんかに住んでるんだろう」って当時は感じたり。

神谷 「東京」っていう曲、いっぱいあるじゃないですか。みんな東京に対して何を思って曲を書くのか気になってます。当初は「東京」っていう曲を作る予定だったんですけど、最終的にそのコンセプトだけ「shinjuku」に反映されました。

──前作『天使のいない街で』は地元の岐阜だったり、バンドの出発点になった名古屋の風景が直結したアルバムでしたが、そこから東京がモチーフになったのはバンドの変遷を象徴してる気もします。

神谷 確かに、東京でのライブが多くなったもんね。でも東京のことは好きだけど、絶対に住みたくないです。いいイメージがないし、みんな無理してる。東京って、もう機能としてしか存在してないというか。存在が表面的ですよね。

──僕は札幌から上京して8年くらいになりますが、自分が住んでる街っていう感じはしなくて。ずっと同じエリアに住んでるから多少の親しみはあるけど、“札幌の人間” っていうアイデンティティが強すぎて。

神谷 めっちゃわかりますよ。東京は地方から来た人たちの集まりじゃないですか。それが何世代も前からだったとしても。“純・東京” みたいなものってあんまりない。概念として東京が存在する。……前作から気持ちの変化があるのかな。『天使のいない街で』は小規模な話で、現実と隣接したようなアルバム。でも『Utopia / Dystopia』はそこから世界を1単位広げた話。もっと世界に苦言を呈するというか。そうしたくてアルバムを作ってるわけじゃないけど……

──前作より俯瞰してる感じはありますよね。

神谷 何を楽園として、何を絶望とするかは、それぞれの感じ方次第ではあるんですけど、人間はもうちょっとそこを考えた方がいいんじゃないかと。特に『Utopia』は私がメインで作ったのもあって、そういう要素が色濃く出てます。何が “ユートピア” なのか。そもそも “ユートピア” って単語自体が具体的なものというより、概念に対してその名称が当てはまってるから、明確な定義はないと思うんですけどね。

──“ユートピア” って、存在しないものだと思ってて。存在しないからこそ “ユートピア” っていう名称がある。叶わないものというか。

神谷 逆にそうであった方がいいのかも。辿り着くことはないけど、求め続けられる存在。固定の地点ではなくて、自分たちが今いる場所と等距離で変わっていく理想の相手が “ユートピア” なのかもしれない。

神谷 「幸せに生きることについて、みんなもうちょっと考えた方がいいんじゃない?」「みんな享受してるはずの幸せを見過ごして、不幸だと思って過ごしてるんじゃない?」っていう疑問があります。特にSNS上の人たちは不幸になりたがりな気がするんですよ。道端に小さな花が咲いてるのに気づけたらそれで幸せだし、その花を美しいと思える感性があること自体も幸せ。でも、気づけない人もいる。『Utopia』は規模の大きい話をしてるけど、蓋を開けてみたら等身大のものしか提示してないんです。「身近にある小さな輝きとか幸せに気づいて!」っていう。

──大事な提言だと思います。そういう小さなことにはみんな見向きもしない、っていうイメージが東京にはあるので。

神谷 それだけ人々に不満が蓄積されて、滞留してる。それは東京だけではないけど。感性が鈍って幸せに気づけない人もいるだろうし、小さな幸せを覆い尽くすくらい絶望が大きい人もいる。先進国なのに貧困で、世の中に苦しみみたいなものが蔓延してるから、日々の小さな幸せを感じられるアンテナをもっと発達させないとやっていけない。衣食住の不自由なく過ごせる環境自体をもっとありがたいと思う。そういう人間でいた方が幸せだよね!っていう。理想論を述べたところで現実は起こってることが全てだから、だったらプラスで捉えた方がいい。自分に現実を変える力がないなら、自分を変えるしかない。これね、『攻殻機動隊』にもあったんだよね!

 あったね!

神谷 主人公の草薙素子が「世の中に不満があるなら自分を変えろ。 それが嫌なら耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らせ」って言うんですよ。最終的にその言葉は変わっていくんですけど、最初に提示した言葉自体もそんなに間違ってないと思うんです。

■ 復活のめぐみん

──前作『天使のいない街で』もそうでしたが、SF作品からのモチーフはBCLの世界観を作る上でとても重要で。『攻殻機動隊』もそうだし、『マクロス』とかも。

神谷 特に『Dystopia』はだいぶサイバーパンクに寄ったよね。私、サイバーパンクの世界観がめちゃくちゃ好きだし、表現の切り口としてもすごくいいと思ってて。ファンタジーであるようでないというか、どうせ行き着く先。“近未来” なんですよね。それを表現することを既存のもの、新しくないものって言われてしまったらそうかもしれないけど、私はいくら提示したって新しいものだと思うんですよ。だって、まだ起こってない未来のことだから。『天使のいない街で』は私が作る曲が多かったので、私メインのコンセプトってなってますけど、今回はめぐみんもたくさん曲を作って参入して、お互いのコンセプトとか捉え方、リファレンス、イメージを対比させて擦り合わせながらまとめたアルバムだから、面白いと思います。私の独裁じゃなくなったアルバム。

 『天使のいない街で』は作曲の量的に神谷の独裁にならざるを得なかったからね。あの頃は本当に不調だったから。笑

神谷 不調であのアルバムが生まれてるのはすごいけどね。

 神谷が頑張ってくれた賜物ということで。

──めぐみんが復活したきっかけはあったんですか?

 ……死ぬほどケツを叩かれたからかな。

神谷 ハハハハハ!!!!

 あの頃は大学にちゃんと行けてなくて、ずっと虚無みたいな生活をしてて。バンド以外で外に出る用事がない、みたいな。でも卒業が危うくなってきて行くようになった結果、引きこもりが解消されて外からキャッチするものが増えて。それがいいきっかけになったのかなと、今は思いますね。通学中に音楽を聴いてインスパイアされたり、外の風景を見て曲のネタが思い浮かんだり。

──つくづく思うんですけど、人間って1つの場所にとどまってたら駄目なんですよね。

 めっちゃわかります。

──適度に “移動” をしないと精神が死んでいく。だから通勤とか通学って大事だと改めて思いました。前職は週に何回かリモート・ワークの日があったけど、通勤で移動するといい刺激になる。

 1限に間に合うように家を出ると「朝日、気持ちいい〜」って。そういう根源的な喜びを思い出しましたね。

神谷 家にずっといるとセロトニンが足りなくなるからね。バンドは山あり谷ありだけど、ちゃんと谷を乗り越えられてきた安心感と、その実績に対する自信が制作に直結してる。曲を作るのは人間で、どうしても生活が制作に反映されてしまうから、生活を整えるのはむちゃくちゃ大事だと思います。特にアルバムはね。シングルとはまた話が違うから。

──バンドとしてはかなりいい状態?

神谷 相対的にはいい状態なのかも。

 悪くはないよね。

──ライブを観ても着実にレベルアップしてる印象です。

神谷 止まってはいないよね。

 前作の制作面で無理をした反省とかも活かして。

神谷 まあ、今回も無理はしたよ。

 でも無理の質が違うというか。前回はもう、精神的にくる無理をしてたから。

神谷 今回は体力の無理で済んだもんね。

 「寝れなくてしんどい」くらいで済んでるから。それも普通に嫌だけど。笑

神谷 でもミックスは円満にできたというか、

 すり減った精神で制作してなかったのは良かったよね。

神谷 今でこそ反省点も見えてきてるけど、当時の限界だったよね、あれが。いつだって当時の限界ではあるけど……にしても、音源のクオリティ的にも、制作過程的にも良い手順を踏んで頑張れたよね。そんなに後悔もない。

 あの頃の知識と知見だったら、あれが最良のやり方と結果だったね。

神谷 つまりPDCAサイクルを死ぬほど回すっていう。まあ、プラン、ドゥ、ドゥ、ドゥ、ドゥ、ドゥ!くらいの感じだけど。笑

 やってから考える、みたいなところは大事だったりする。

神谷 最初から怖がってても駄目。

■ 劇伴を目指して

──今作は『Utopia』と『Dystopia』の2部作ということで、これくらいの長尺になるのも最初から構想としてあったんでしょうか?

 最初は「ユートピアとディストピアの二項対立」みたいなコンセプトだけがあったんじゃないかな。『再生の惑星』の拡張版にしよう、って話が出てた記憶はある。

神谷 あの世界観を踏襲したいっていう。でも曲数をめっちゃ増やした。

 最初は「4曲ずつの2枚のEPにしよう」みたいな感じだったよね。

神谷 でも「どうせならどっちもアルバムにしたくない?」みたいな。ただ、これはしまった!と思ってるんですけど、本来はそれぞれ7曲ずつなのに、ストリーミングは6曲ずつにしたから、EP扱いになっちゃって。め〜〜っちゃ後悔してる!

──プラットフォーム側の仕組みのせいなんですよね(*2)。

*2:Apple MusicやSpotifyなどのストリーミングでは、基本的に収録曲数が4〜6曲の場合は自動的にEPとして表示される。

神谷 そう〜。EPなわけないだろこの曲数で〜! アルバムにしたくて曲増やしてんのに! アルバム・オブ・ザ・イヤーとかに載せてくれる人はいたので本当にありがたいですけど。

──ストリーミングで見つけた人にとってはEPだと思いますよね。

神谷 悲しい。それが嫌で、「ちゃんとアルバムを作ったんだよ」ってことを示したくてCDは1枚組にしたところも若干あります。

──今作はインストゥルメンタルの曲もふんだんに収録されて、そういう面でも新しい部分があります。

神谷 インストをただのかさ増しにしない。本気のインストです。『再生の惑星』の「saisei no hoshi」は、「BCLで一番いい曲でしょ!」って思うくらい気に入ってるので、そういう面をもうちょっと出したかった。

──アルバムの世界観を補完する上でも今作のインストは効果的に機能してますよね。

神谷 私たちが元々インスト好きなのもあるし、今回は前作以上にファンタジックで壮大な世界観なので、劇伴みたいなのも作りたかったんですよ。インストがあることで劇伴らしさがより際立たせられるから、要所要所に入れてます。

──確かにアニメのサントラを聴いてるような感覚になるかも。マジで、『マクロス』の主題歌やってくれ!って感じですけどね。

 連絡がないんですよね〜。

神谷 いけます。やれます。お願いします。

──「きみのこえ」とか絶対、最終話の一つ前くらいのタイミングで流れる曲ですよ。

 表現したいものがあって、それに対する音の出し方の知識も増えたから、表現力も上がってるよね。

神谷 ちゃんと目的があって音を作ってる。狙いがあるっていうのは成長だね。曲に合わせたフレーズも考えるけど、先に作りたいものがあって、そこに技術だったり音作りだったりを合わせる、っていう手段が取れる。あくまでスリーピース・バンドとして、シンセとかは使わずにスリーピースの表現力を超えていくっていうのが、最近はできつつあります。

 いいエフェクターの機能を存分に使い倒していろんな音を作る。そういう研究をすることで出せる音が分かって、逆にその音から想起したものが作品のコンセプトになったりもするからね。

神谷 めぐみんの技術には助けられてます。エフェクターの総額、いくらになるんだろう。

 20万は超えるかな。

神谷 あんな鉄の塊に……

 欲しいエフェクターがデジタル系で自作できないから、買うしかないんだよね。笑

──ギターを使ってギターじゃないような音を出すって、シューゲイズとして大事な要素だと思います。特にケヴィン・シールズだったり、先人たちはそういうことをやってきたわけで。実はオリジナルのシューゲイズに近いことをやってるのかも。

 持ってる楽器がたまたまギターだった、みたいな感覚はあるかもしれないですね。

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『Utopia』全曲解説