<MBV散歩vol.3>要素化するシューゲイザー

Column

前回の記事の最後の方で、シューゲイザーの”要素化”の話をした。そこでは、直接的なシューゲイザー・バンドではないアーティストによる、シューゲイザー的要素のある曲を2曲ほど紹介したが、今回はその他にもいくつかピックアップし、そこをさらに掘り下げていきたい。

下記、前回の記事で触れた曲を含め、シューゲイザー的要素のある楽曲を全部で10曲紹介している。あくまで僕の趣味嗜好による選曲であり、やや独自の解釈となってしまうことは、どうかご容赦いただきたい。

※選出範囲としては、My Bloody Valentineの『Loveless』と同時代、もしくはそれ以降(テン年代が中心)という所に基準を置いている。

スピッツ – 魔女旅に出る (1991)

大半の人は、スピッツがシューゲイザー?と思うかもしれない。が、3rdシングル「魔女旅に出る」が収録された2ndアルバム『名前をつけてやる』は、草野マサムネ(Vo./Gt.)が当時影響を受けていたMy Bloody ValentineやRideを意識し、それらと歌謡曲の融合を目指した”歌謡Ride”アルバムなのだ。

とはいえ、アルバム全体を通しても本家Rideのような轟音が聴ける作品、というわけではない。しかし、表題曲「名前をつけてやる」「ミーコとギター」などの楽曲で鳴っているギターの感触、「プール」の白昼夢のような雰囲気などは、シューゲイザー経由と言えるものだろう。さながら初期のRideのような雰囲気。そう考えると「魔女旅に出る」も、そのドリーミーで儚げな部分は非常にシューゲイザー的だ。

そして何より特筆すべきなのは、『名前をつけてやる』が1991年のリリースだということだろう。何を隠そう、あのMy Bloody Valentineの『Loveless』と同じ年のリリース。国民的な人気を誇るスピッツが、かつてここまで同時代的にシューゲイザーと共鳴する作品を発表していたという事実は、もっと再評価されて然るべきなのではないだろうか。

↑『名前をつけてやる』ジャケット。猫の絶妙な歪み方はシューゲイザーの音像を視覚化していると言えなくもないし、何より猫はシューゲイザー系のアートワークで頻出するモチーフ。

フリッパーズ・ギター – アクアマリン (1993)

Flipper's Guitar – アクアマリン

フリッパーズ・ギターにとって最後のオリジナル・アルバムとなった『ヘッド博士の世界塔』。全曲にサンプリングが使用され随所にオマージュが散りばめられた問題作(全て無許可なので著作権的に大変まずい)として有名だが、その収録曲の一つである「アクアマリン」はどこから聴いても完全にMy Bloody Valentine。さながら「To Here Knows When」「Lose My Breath」を合体させたかのようだ。当時20そこそこだった小山田圭吾と小沢健二がマイブラを聴いていて、そしてそれを曲にしてしまった…と考えると、勝手ながら目頭が熱くなる。

ちなみに、著作権などの問題で『ヘッド博士の世界塔』はサブスクリプションをはじめ配信は一切されていない。アルバムを手っ取り早く聴きたいのであれば上記リンクのようなYouTubeにアップロードされた音源をこっそり聴いてみてほしい。中古でCDを探すのもあり。意外と手に入りやすい。

Base Ball Bear – スローモーションをもう一度 (2011)

一般的には、Base Ball Bearとシューゲイザーはなかなか繋がりにくいかもしれない。しかし、下記のインタビューで小出祐介(Vo./Gt.)は90年代の音楽としてスーパーカー「cream soda」を挙げている。そして、その文脈でMy Bloody Valentineの名前も出しているのだ。

【3曲挙げてみて】小出祐介(マテリアルクラブ/Base Ball Bear) の「90年代の音楽」

Base Ball Bearがスーパーカーのコピーバンド(当時はPLANETというバンド名だった)から始まっていることは、ファンであればご存じの方も多いだろう。スーパーカー経由でシューゲイザーのエッセンスも吸収している、ということを踏まえると、「スローモーションをもう一度」の仄暗い浮遊感はシューゲイザー的だと言ってもいいのではないだろうか。

この曲が収録された『新呼吸』というアルバムは、2011年に発生した東日本大震災に影響を受けている。バンドのシリアスなモードを反映させたサウンドとして、こうした曲が生まれたのはある意味必然だったのかもしれない。

Syrup16g – Reborn (2002)

Syrup16gの楽曲には、しばしばシューゲイザー的なアプローチが見られる。「Reborn」は彼らを代表する名曲だが、背後で鳴り響くシューゲイズ・サウンドはこの曲の大きな魅力の一つだ。アコースティック・ギターと五十嵐隆(Vo./Gt.)の歌が中心にありつつも、そういった要素も相まって、バンド屈指のセンチメンタリズムを生み出している。

誰が言い始めたのか、Syrup16gの楽曲を”鬱ロック”と形容することがあるらしい。個人的に、この表現は非常に残念だと思う。確かに五十嵐隆が描くモチーフは暗いものや鬱屈したものが多いが、そういう闇の部分を描き切ることで、多くのリスナーの支持を得てきた。それは、彼が描いてきたものは人間の”本質”であることに他ならないからだ。

↑復活作『HURT』収録の「哀しき Shoegaze」。リリース前に曲名が発表された際、さぞかしシューゲイズした曲なのだろうと期待したものだが、蓋を開けてみるとシューゲイズしているのはサウンドではなく文字通り目線だった、という余談。

THE NOVEMBERS – Rhapsody in beauty (2014)

『Rhapsody in beauty』は、THE NOVEMBERSがマイブラに肉薄した最初のアルバムだ。というのも、本作は2013年9月30日に行われたマイブラの東京国際フォーラム公演に影響を受けて制作されている。この公演は特にサウンド面でケヴィン・シールズの要望を形にしたもので、確かに改めて聴いてみると、それ以前のTHE NOVEMBERSの作品と比べて音響的な深さや重みが違う(そして、この路線は2016年の『Hallelujah』にも受け継がれていくことに)。

表題曲でもある「Rhapsody in beauty」のうねるようなギターは、まさしくマイブラ的。しかしそこに留まらず、THE NOVEMBERSの美意識が詰め込まれた、とても美しい楽曲だ。

有村竜太朗 – 19罪 / jukyusai (2018)

Plastic Treeと言えば、そのルックスから一般的にはヴィジュアル系バンドのイメージが強いが、実はシューゲイザーをはじめとしたUKロックの影響が強いバンドでもある。そして、フロントマンである有村竜太朗(Vo./Gt.)のソロ作品となると、その要素はさらに強くなる。特にこの「19罪 / jukyusai」は、親交のあるTHE NOVEMBERSの小林祐介が参加するなど、とりわけシューゲイザー的アプローチが際立つ楽曲となっている。

Plastic Treeに限らず、有名どころで言えばLUNA SEAなど、シューゲイザーの文脈で語れるヴィジュアル系のバンドは意外と多い。シューゲイザーを掘っていけば、多かれ少なかれ必ずヴィジュアル系を経由することになるはずだ。それは、両者はジャンルであり、シーンであり、そして”美意識”でもあるからだと考えている。日本特有の美的感覚が色濃く反映されたヴィジュアル系。その様式美とも言えるスタイルに、シューゲイザーの美意識が共鳴することは想像に難くない。先に述べたTHE NOVEMBERSは逆にシューゲイザー的である一方でヴィジュアル系的な要素も合わせ持っており、これはもはや自明と言えるだろう。

The 1975 – Inside Your Mind (2018)

多種多様な音楽性の楽曲を詰め込んだにも関わらず、1枚のポップ・アルバムとして何の違和感もなく成立させた名作『A Brief Inquiry Into Online Relationships』。その完成度やアルバムのコンセプト、そしてマシュー・ヒーリー(Vo./Gt.)の発言などから、しばしばRadiohead『OK Computer』を引き合いに出されて語られることも少なくない。

そんなアルバムに収録された「Inside Your Mind」で鳴らされるギターは、リバーブが効いたような、シューゲイザー的なサウンド・アプローチと言ってもいいのではないだろうか。本人たちが意図してそういった音を鳴らしているかどうか定かではないが、貪欲かつ自然に多ジャンルを内包した楽曲を作っていることを踏まえれば、シューゲイザーの文脈で捉えたとしても、特に間違いではないはずだ。

Boards of Canada – Chromakey Dreamcoat (2005)

エレクトロ・ミュージック界を代表する兄弟デュオによる孤高の大名盤『The Campfire Headphase』。それまでの彼らの作品とは異なり、アコースティック・ギターのような生楽器の音が随所に使用されるなど、柔らかでオーガニックなサウンド・スケープを展開している。そこに従来のBOC的なエレクトロニカの要素が合わせることで、ドリーミーでサイケデリックな作品に仕上げる様は圧巻。アルバム全体を通して揺蕩うような感触のサウンドはシューゲイザー的だと言えるが、特に「Chromakey Dreamcoat」は曲名も相まってリスナーを夢の世界の入口へといざなうこと必至のナンバーだろう。

彼らが提示するサイケデリアはゼロ年代以降に見られるエレクトロ・シューゲイザーとも呼応するようにも思う。エレクトロニカとシューゲイザーの親和性が高いのは、マイブラが「Soon」で既に示していた。かつてブライアン・イーノ“ポップの新しいスタンダードとなるだろう”と言わしめたあの曲の、淡々としたダンス・ビートの上で歪んだギターが唸るサウンドは、まさしく新しい時代を予見していたと言える。

ちなみに余談だが、彼らは決してカナダのユニットではなく、スコットランド出身。紛らわしい!

Kero Kero Bonito – Flyway (2018)

イギリス人と日本人のハーフであるサーラ(Vo.)を擁する南ロンドンの3人組ユニット・Kero Kero Bonito。初期はチープでゆるいエレクトロニック・サウンドに時折日本語の歌詞を乗せる作風で人気を呼んでいたが、『Time ‘n’ Place』では日本語を封印、キュートな歌はそのままに、よりドリーミーなサウンドを展開している。この「Flyway」は、Boards of Canadaとは別のベクトルからエレクトロ・ミュージックとシューゲイザーの融合を試みているようで興味深い。

Courtney Barnett – Kim’s Caravan (2015)

稀代のリリシストとしての鮮烈なデビュー・アルバムとなったコートニー・バーネットの『Sometimes I Sit and Think, and Sometimes I Just Sit』。レフティでエレキギターをかき鳴らす様は、彼女の名前も相まってしばしばカート・コバーンを引き合いに出されることも多いが、この「Kim’s Caravan」で鳴らされるノイジーなギターはなかなかシューゲイザー的と言えるかもしれない。

いや、彼女の音楽性をシューゲイザーの文脈で評することはほとんど皆無のように思うし、フォークやカントリー、そしてグランジなどのジャンルで語ることの方がおそらくしっくりくるだろう。しかし、時には捉え方を変えることで聴こえ方も変わり、違った楽しみ方ができるのではないかとも思うのだ(これは今まで紹介してきた楽曲すべてに言えることでもあるが)。


さて、いかがだっただろうか。これはさすがにこじつけじゃないか、全然シューゲイザーではない、などと疑問の声も上がるかとは思うが、冒頭でも述べたとおり、これはあくまで僕の趣味嗜好による選曲であり、そこに個人的な解釈を加えた記事になっている。そして繰り返しになるが、あえて捉え方を変えることで、異なる魅力に出会える可能性もあると考えている。

この記事を通してシューゲイザーの”要素化”を感じていただくことは、実は目的の一つにしかすぎない。それよりも、むしろ”音楽ジャンルの曖昧さ”を実感して欲しいのだ。

音楽に限らず、”ジャンル”というものは往々にして便宜的なものであり、個人の見解によって異なることもしばしばある。殊更シューゲイザーとなれば、その範囲は非常に曖昧だ。もちろんサウンド面でシューゲイザーを感じることもあれば、それよりも文脈(=コンテクスト)、スタンス、思想、雰囲気などの面で感じる場合もあるだろう(この記事はそういった要素が強い)。人それぞれのシューゲイザーがある、と言ってもいい。

それぞれが思うように音楽を聴き、それぞれの感覚で楽しむ。音楽というものは、元来そういうものなのではないだろうか。時には、それぞれの解釈で音楽を分析し、それを誰かと共有し、議論するのもいいだろう。この記事が、そういったものの一端となれば、それ以上のことはない。

僕はこれからも”自分が思うシューゲイザー”を追いかけていきたい。

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