<MBV散歩vol.1>シューゲイザーとは何か?

Column

不定期で更新するサイト内連載<MBV散歩>。様々な角度からシューゲイザーについて語っていくこととする。

Vol.1となる今回は、シューゲイザーを専門的に扱うサイトとして、”シューゲイザー”というジャンル/シーンそのものについて今一度整理しておきたい。シンボル的な存在であるMy Bloody Valentineを軸に、シューゲイザーの定義や魅力、そして昨今のシーンについて、あれこれ綴っていく。

text by osushitabeiko

そもそもシューゲイザーとは何なのか

80年代末から90年代前半にかけて登場した”シューゲイザー”というジャンル。その定義をしっかり言葉にするのは難しいが、あえて言うならば“多数のエフェクターを駆使した歪んだギターと、甘美なメロディやヴォーカルが特徴”というのが一般的な認識だろうか。演奏中は俯いて足元のエフェクターを操作することから、その様子を揶揄して”shoe(=靴)”を”gaze(=見つめる)”する意味で”shoegaze”という言葉が生まれ、それがジャンル名として定着し、今日に至る。

シーンの代表格であるバンドはもちろん、1984年にアイルランドで結成されたMy Bloody Valentine(以下マイブラ)。初期の頃は、当時の中心人物であるデイヴ・コンウェイが志向するサイコビリー色の強いサウンドを鳴らしていたが、やがて彼は作家活動に専念するため脱退。後にビリンダ・ブッチャー(Gt./Vo.)デビー・グッギ(Ba.)が加入し、オリジナル・メンバーのケヴィン・シールズ(Vo./Gt.)コルム・オコーサク(Dr.)と合わせた現在の編成になってからはアノラックな音楽性へと変化。1988年には、Dinosaur Jr.やSonic Youthに影響を受けた、ノイジーで官能的な狂気が爆発する『Isn’t Anything』をリリースした。

↑初期のマイブラ。ヘアスタイルが全員キノコ。一番左のハンサムな青年がデイヴ・コンウェイ(ハンサムは死語)。

↑『Isn’t Anything』ジャケット。ホワイトアウトしたようなメンバーの写真と丸みを帯びたバンドのロゴが印象的。なぜかコルムは中ジャケのみの登場だが理由は不明。

1991年には『Loveless』をリリース。膨大な製作費をつぎ込みケヴィンの理想を具現化したこのアルバムは、全編に渡って美しくも歪んだ轟音とそこに浮かび上がる甘いメロディを聴かせ、強烈なサイケデリアを提示。シューゲイザーの定義そのものを決定づけた作品と言って差し支えないだろう。今日に到るまで数多くのフォロワーを生み出しながら、誰一人としてその境地にはたどり着けない、孤高のサウンド・メイキングがそこにはある。次のアルバムが出るまで22年かかったことを考えると、バンド自身がこのアルバムを越えられなくなったことは自明だ。

↑『Loveless』ジャケット。この真っ赤なジャケットにより、フェンダーのジャガーとジャズマスターがシーンのアイコンになったと言っても過言ではない。ちなみにジャケットの濃淡やバンドのロゴの色味などはリリース年やリマスター盤などにより若干の違いがある。

↑黄金期とも言える頃のアー写。リズム隊の二人が謎に両手を広げるなど、見れば見るほどシュールな構図。

My Bloody Valentine – Only Shallow (Official Music Video)

↑『Loveless』の冒頭を飾り、バンドの代表曲でもある 「Only Shallow」のMV。イントロのスネアの”タタタタ”というカウントから空間を歪めるようにうねるギターが大きなインパクトを与える。

シューゲイザーの魅力はどこにあるのか

シューゲイザーの魅力。それは、やはりマイブラにも顕著なように、歪んだギターサウンドが第一に挙げられるだろうか。『Loveless』というアルバムは、お手本であり、シンボルであり、金字塔であり、誰にも越えられない壁だ。幾重にも重ねられ歪められた轟音ギターは、シューゲイザーの魅力そのものだと言っていいだろう。

少し個人的な話になるが、僕自身がシューゲイザーを初めて聴いたのは2014年頃だった。マイブラが22年ぶりのアルバム『m b v』を発表したのは2013年だったが、当時そのことは疎か、シューゲイザーという言葉自体を全く知らなかった。シューゲイザーとの邂逅は、『Loveless』を勧められCDを貸してもらい聴いたのが最初だった。

しかし、その良さはすぐには理解できなかった。深く歪められたサウンドと、その節々でほのかに浮かび上がるヴォーカル。それまでに聴いてきた音楽とは全く異なるもので、それゆえに僕の耳は完全に拒絶反応を起こしたのだ。ところが、僕はCDを貸してくれた当人に感想を求められた際、なぜか見栄を張って”なかなかいいね”などと口走ってしまった。

これではいけないと思い、僕はその感想に追いつくべく、どこかに良さを見つけ出そうと繰り返し繰り返し『Loveless』を聴き込んだ。すると、それほど時間もかからないうちに僕はすっかりシューゲイザーの虜になってしまい、自ら他のバンドの音源も聴き漁るようになったのだ。

耳が慣れた、ということもあるだろうが、僕はマイブラの音楽に何かとてつもないシンパシーを覚えていた。それは“孤独感”だ。

『Loveless』は、その9割がケヴィンただ一人によって作り上げられたアルバムであり、彼のパーソナルな部分が色濃く反映された作品と言える。まるで全てを拒絶するように鳴り響く音は、ケヴィンの内に潜む孤独感が表出したかのようだ。元来そういった陰のある作品を好んで聴いていた僕は、無意識にそれを感じ取っていたのかもしれない。

しかし、『Loveless』の孤独感はリスナーを突き放すようであり、また包み込むような力をも持っている。重層的なサウンドは、あたかも母親の胎内にいるかのような錯覚を与え、それが一種の安心感/充足感に繋がり、睡眠へと誘うかのような力もあるのだ。

孤独感と充足感という、一見相反する要素。その二つが同居することで化学反応を起こし、混沌としながらも確かな“美しさ”“儚さ”を感じる。『Loveless』の大きな魅力はそれであり、シューゲイザーというジャンル全体にも美しさや儚さを感じることができるように思う。日本人は特にシューゲイザーが好きだと言われることもあるが、その理由は日本独自の美的感覚に訴えかけるものがあるからとも思える。シューゲイザーの魅力は、まさにここにあるのだ。

※余談だが、ヴィジュアル系がシューゲイザーとの親和性が高いのも、その美的要素が共鳴するためかもしれない。この議論については、また別の機会に。

My Bloody Valentine – To Here Knows When (Official Music Video)

↑『Loveless』収録の”To Here Knows When”のMV。深く歪んだ轟音の隙間からビリンダのヴォーカルが浮かび上がる幻想的な一曲。シューゲイザーの「美しさ」を極めたようなサウンドもさながら、それを可視化した映像も白眉の出来。

↑『m b v』ジャケット。もはや何が写っているのか分からないが、機材のようなものが見えるような、見えないような。『Loveless』とは異なるベクトルで常人には到達不可能な域に達していることを突きつけた凄まじいアルバム。

今後のシューゲイザー・シーンについて

『Loveless』がリリースされ、程なくしてマイブラが長い沈黙期間に突入すると、シューゲイザー・シーンも停滞。ブリット・ポップがチャートを席巻し、OasisRadioheadが時代の寵児となっていった。それでもマイブラの遺伝子を継ぐバンドは次々と生まれ、ゼロ年代にはエレクトロニカとシューゲイザーが接近した新しい勢力や、”ニューゲイザー”と呼ばれるバンドたちも登場した。

そして、マイブラが2013年に『m b v』をリリースしたのを契機に、シーンはいよいよ再燃の兆しを見せ、2017年にはオリジネーターと言える存在のThe Jesus and Mary Chain(以下ジザメリ)、RideSlowdiveがそれぞれ待望の新作をリリースし、文字通りのシューゲイザー・リバイバルが現実のものとなった。それに呼応するように、国内外でも様々なシューゲイザー・バンドたちが良質な音源をリリースしている(なお厳密に言うとジザメリはシューゲイザーではないとすることが多いですが、その議論についても、また別の機会に)。

日本からの視点で見てみよう。2019年6月現在では、Ringo Deathstarrやジザメリの来日公演も記憶に新しい。また、先日RideとSwervedriverの来日も発表され、盛り上がりを見せた。

近年のリバイバルの波はこのまましばらく続くだろう。特に日本を含むアジア圏の盛り上がりは、2018年にリリースされたコンピレーション・アルバム『Total Feedback 2018』を聴けば一目瞭然、いや一聴瞭然。収録されているDoZzzU.TA屋塔はさることながら、先日来日したタイのINSPIRATIVEや、今年来日を控えた台湾のI Mean Usなど、アジア勢の活躍には目を見張るものがある。

もちろん、日本国内でも素晴らしいバンドがいくつも活躍している。若手で言えば、本サイトでも取り上げている17歳とベルリンの壁揺らぎSPOOL、さらにはFor Tracy Hydepollyなどが、精力的にライブ活動を行なっているのはご存じの通り。

今やシューゲイザーはアイドル・シーンにも波及し、For Tracy Hydeやcruyff in the bedroomのメンバーが楽曲を手がけるなどして話題となった・・・・・・・・・(ドッツ)も生まれた。残念ながら彼女たちは解散してしまったが、ある意味後継とも言えるグループ・RAYが活動を開始し、Ringo Deathstarrが楽曲提供をすることが発表され話題となった。

日本以外ではどうだろうか。今年だけでもスウェーデンのWestkustやアメリカのNIIGHTSなど、良質な新譜を聴くことができる。ベテラン勢で言うなら、SwervedriverやDeerhunterも新作をリリースした。Rideも新作をリリースすることを発表している。

今後のシューゲイザー・シーンを追っていくことは、本サイトの重要な役割の一つだ。僕自身、国内のイベントや海外バンドの来日公演に足を運び、本物のサウンドと現場の空気感を実際に耳と肌で感じることを大切にしている。そのスタンスは崩さずに、Sleep like a pillowの運営を続けていきたい所存だ。

※肝心のマイブラだが、昨年あたりから具体的にケヴィンの口から新作の話が出てはいるものの大きな動きはなく、非常に焦らされている状態。完璧主義者のケヴィンのことだ、気長に待ちたい。

参考文献:
佐藤一道、黒田隆憲『シューゲイザー・ディスク・ガイド』,  スペースシャワーネットワーク,  2010年
今井スミ、美馬亜貴子『ブリットポップ・ディスクガイド』,  シンコーミュージック・エンタテイメント,  2012年

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